僕達の未来は
「プリン、美味しかったわ。ジーナによろしく言っておいてくださいね」
「こちらこそ、お茶ご馳走様でした」
日が暮れ、夜闇が王都を包むと、生息している人種が変わる。
王都ナビアでは昼に生きる人間と、夜に生きる人間の分布帯が違う。
昼に生きる僕とマリーは夜の住民から見ればよそ者だ。
「……マリーはニーナさんの話をどこまで信じる?」
「全部? だってニーナさんは嘘を吐くような人じゃないもの」
彼女は僕らにお茶を持て成し、自身の半生を言い聞かせてくれた。
ニーナさんが語ってくれた話を要約すると。
彼女は聖騎士ディートリヒの娘であり、特別な眼を持っている。
彼女の見る風景と、僕やマリーが見ている風景は違っているらしく。
ニーナさんの見立てだと、僕は以前の僕と別人のように見えたとのこと。
そこで、ニーナさんは僕の魔術適性を再度調べてくれた。
「久しぶりに貰ったけど、これどうした方がいいかな?」
「地球に持ち帰って、適当に家に保管しておけばいい。ってことで帰ろうイクト」
「……うん、これはこの家で保管しておけばいいよな」
瞬きする間もなく、僕達ははてな村の家に移動していた。
玄関で靴を脱ぐと、ジョージが迎えに来てくれたようだ。
「お腹ー」
「お腹空いたのかジョージ、ならリビングに行こう」
「あいー」
ジョージは僕達の後をついてくるようにリビングに来る。
ジョージ用のお皿の上に魔石を生成すると、いつものように貪り始めた。
「お帰り、どこ行ってたの?」
「アルビーダにちょっと用があってな、その結果凄いことが判明したんだよモモさん」
マリーが嬉々としてモモの耳に先程の件を入れると。
僕に突進して来たのでガードする。
のだが、モモはガードの上から幾重にもパンチを打つ。
「打つべし打つべし打つべし! お前またか!」
「何のことだよ! 僕は晩御飯作らないといけないんだから」
止めてくれよ、ガードしてても痛いし。
「で、合成能力って何なの?」
「判らないけど、ちょっとやってみるよ」
そこで取り出したのは赤いパプリカと、イチゴだ。
僕はニーナさんが教えてくれた、新しいチート能力『合成』を使い。
「ちょっと食べてみてくれ」
「はあ? まぁいいけど……む!? シャキっとして甘い」
モモ曰くのシャキッとして甘い野菜果物を創造して見せた。
「でも、これがなんな訳?」
「解からないけど、この能力はあらゆるものに使えるらしい」
「例えば?」
「ほら、あれだよモモ。私とモモさんが合体することも可能なわけ」
マリーが冗談交じりにそう言うと、モモはスマホを上にかざした。
「通報しますた」
「はいはい、とりあえず今日の晩御飯は豚ネギ丼でいいかな?」
「イクトはお腹減ってるか? 私はお腹減ってないからいいや」
マリーと僕は夕方頃にパック寿司を食べていたため、用意するのはモモとミーシャとジーナさん、それからルガートの四人分だけでよかった。グッタモは弟子を連れて村唯一のスナックで軽くやるだろう。
◇
翌日、マリーが隣で寝ている中、僕はスーツに着替え出社した。
先週は余り休めなかったから、今週はもう惰性に頑張ろう。
「お早う御座います皆さん」
ロキ部長の挨拶に、皆で挨拶し返す。
「皆さんは、異世界部をどう思いますか? 私は前途多望な部署だと自負します」
前途多望か。
ほんの一時、ロキ部長に後ろ指さす人間が絶えない時期もあったけど。
僕たち異世界部の未来は明るい、今や会社随一の有望株となっている。
それはロキ部長が推し進めた他部署の人間への事業紹介が功を奏した結果だ。
グッタモが作った魔石道具の数々。
また浪川が推進していた科研との連携もあり。
今では省庁の人間も視察に来る。
さすがに国が動き始めた以上、この部署を馬鹿にする社員はいなかった。
ただ――設立理念としていた異世界アルビーダとの交易はまだ成り立っていない。
その交易ルートを確保するのは僕の仕事で、僕にしか出来ないと部長は見ている。
「課長、一応これに目通しておいてってさ」
「これは?」
「書いてあるでしょ、魔石に関するレポート」
今週の始めは総ページ数200項のデータを、浪川から渡され始まった。
一応目を通してって言われても、三日間ぐらい掛かりそうだぞ。
「精読する必要ありません、どうせそこに書いてる内容は私達には理解出来ないでしょ?」
「それもそうだな、所で、今日の君は機嫌良さそうだけど、何かあった?」
「ん? ちょっと悩んでたことがあったんだけど、母さんと話して気が楽になった」
気のせいか、脳裏にモモさんが浮かんだ。
思えばモモと浪川は似ている。
内面性というか、性格や口調が。
「……それで、例の話は考えてくれた?」
「精密検査? その話だったら今は適切じゃないよ」
「吉岡ぁ」
彼女は急に甘ったるい声を出し、右手を差し伸べ、僕の両頬を鷲掴みにしては。
「お前仕事舐めてるだろ?」
「……」
「何で黙る? 図星だったのかそうなのか」
僕の気持ちを言ったって、彼女は納得しない。
異世界アルビーダは良い所だ。
それは政治の未熟さや、曖昧さが人々の暮らしに遊びをもたらしているからで。
もしも地球の介入で曖昧な部分が爆発的に解明されてしまえば。
それは――退屈なんじゃないか?
心の中の浪川は僕の推察を聞き、それはお前の陳腐な妄想でしかない。
こう言っているようだ。
ならこの際だ、僕は部下でもない彼女の意見に今は耳を貸そう。
丁度、このトレンディなオフィスには誰でも気軽に会議できる談話室がある。
「ふむふむ、つまり課長の考えとしては、異世界アルビーダは放っておくべきだと?」
とロキ部長。
「逆に、今の内にアプローチ掛けないと向こうが調子に乗る」
とガトーリーダー。
「調子に乗る?」
「アルビーダの封建社会の上流階級はどうしようもなく意固地なのはよく分かった。奴らは自分達を支える貴族達さえ掌握しておけば未来安泰と思ってる。つまり、今なら民衆の支持を得て奴らを組し易いんだ」
そこに浪川が素朴な疑問を呈す。
「異世界アルビーダって、国民性としてはどうなんですか?」
「卑屈にして傲慢なんすよ、プライドも超高ぇし」
「……ああ、後、課長に一つ宜しいですか?」
タヌキのような顔を僕に向けたロキ部長には得も言えぬ迫力があった。
「課長の今回の打診は、暗に業務放棄を示唆しているわけじゃないですよね?」
「まさか。確かに航行手段は現在見通し立ってませんが、僕は新しいチート能力をですね」
「ほう、魔石生成に次ぐ新たな能力ですか」
「どんな奴すか?」
ロキ部長とガトーリーダーは向こうの住人だったから、理解が早い。
「合成能力です、あらゆる物を合成出来ます。例えば、このペンと、パイナップルを」
「馬鹿止めろ馬鹿」
会議後は自動販売機に行きコーヒーを買い一息吐きつつ。
社の窓から覗えるコンクリートジャングルを見詰め、窮屈さを感じている。
「便利なんだけどな」
都会は便利ではあるが、忙しない。
地球はまだまだ発展途上だと主張するばかりで進化の手を止めず。
僕たちは有限な時間をそのために搾取され、結果的に疲れるんだ。
この疲労感や、抑圧性だけはアルビーダに持って行きたくないなあ。
「ふぅ、どうしようかな」
「課長、サボってないで仕事したらどう」
あ、バレた。
僕の考えとしては、先ず地球での倦怠感を解消したい。
そのためにグッタモは移動魔術の機能を簡易化した魔石道具を作っている。
開発試験はもう終わっていて、後は量産する工程で。
グッタモは浪川と連携して生産工程を機械化出来ないか検討中だ。
これの配備が完了すれば、通勤ラッシュに悩まされていた人達に特報を届けられる。
地球の未来は転生者を生み出した時点で、変わっていたんだよ。
貞子……貞子貞子貞子。
どうも皆さん……作者の稲川・日高・サカイヌツク・貞子・夏彦です。
この度は拙作をお読み頂き誠うーらーめーしー……やー!
ホラーは観るのも読むのも書くのも触れるのも苦手です。
だからこの先、ホラー的な展開はないだろうと思います。




