表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/97

プリン


 僕が家に帰れたのは翌日の午後だった。


 マリーは酒臭い奴を家に上げないと頑なで。

 僕は我が家の家訓に則り、家に帰る前オリビアとはてな村の銭湯に向かう。


「おうイクト、オリビアと連れ添って恋人のようだな」

「冗談が過ぎますよ父上」

「俺には分かるのだ、お前ら昨夜は随分と楽しんだだろ?」

「覚えてないです、割と真面目に」


 二人して酔っぱらって、何したか覚えてねぇ。

 こんなに酔ったのは専門の時以来だ。


 男湯と女湯に別れ、浴場に入ると人がまるでいなかった。

「……オリビア―、そっちには誰かいるかー?」

 銭湯内での声はよく響き、木霊するように彼女の耳に届く。


「誰もいないが?」

「そうか、結局君のストーカーについて解決出来なくてごめんな」

「次があるだろう」


 次? 今回のような泥酔は当分したくないよ。


「それよりもイクト、昨日は付き合ってくれてありがとう」

 彼女は壁越しに拙く礼を言うと、また誘うからなと付け加える。


 偶にならいいよと返すと、彼女は声を静めた。


 熱湯で頭、顏、首筋を洗い、身体も念入りに洗って湯船に浸かる。

 湯だった後は冷水に打たれて、これで完璧。

 マリーが気にするような酒気は取れたはずだろう、くんかくんか。


 浴場から上がり、オリビアを待っている間はスマホを確認した。

 SNSのグループには僕が浮気したなどとの発言が飛び交っている。

 が、それはいつものことなので既読スルー余裕です。


 以前、この発言が最初出た時に僕は訊いたんだ。

 どこからが浮気の範疇なの? と。

 そしたらグループの結論としては同じ空気を吸ってるだけで浮気となり。


 なら僕は堂々と浮気しまくるまである。と返すんだ。


「待たせたなイクト」

「あぁ、じゃあ行こうか」


「お前ら、そうしてると夫婦のようだな」

「ご冗談を父上、イクトにはマリーがおります」


 して、オリビアを連れて自宅に戻ると、彼女は舌打ちをした。

 何故かと言えば、玄関では三つ子が三つ指付いて待ち受けていたからだ。


「「「お帰りなさいませオリビア様」」」

「……これは、どういう意味だクリス、エヴァ、エーデル」


「特に深い意味は御座いません」

「我々はかつてオリビア様にお仕えしていた頃のままに」


 平伏する三つ子、その隣にリュトはいない。


「リュトは?」

「あの悪漢であれば、鉱石採掘所に放り込みました」

「ふーん」


 何か知らないが頑張れリュト。

 君が好きなエーデルは、真面目に働け、と言いたいのだろう。


「リュトも、出逢った当初よりはずいぶんと人間出来てきたよな」

「そうだな、エーデルも少しずつだが気を許してるようだ」


 三つ子の出迎えを受け、僕達はリビングへと向かう。

 そこではマリーがお昼寝している最中で、起こさないように静かに近づくと。


「……イクト? お帰り」

 きゃわたん! 寝起きのマリーの瞳は虚ろで、とにかくきゃわたん!


 僕は極自然とキスをした。


「オリビアもいるのか、昨夜はどんなこと話したんだ?」

「普段お前らがどういう風に暮らしてるのかとか、イクトの仕事上の鬱憤を少々」

「そうかそうか、家の夫がご迷惑お掛けしました」


 と言うと、マリーは席を立ちあがり冷蔵庫へと向かい。

 オリビアを持て成す用意でもしてたのか、パック寿司を取り出した。


「食べる?」

「頂こう」


 昨日のピザといい、今日のこれといい、結構な散財だなぁ。

 彼女は天真爛漫なお嬢様だから、家事は任せられない。


 ……とすると、ラプラスに帰って来て貰う必要がある。

 ラプラスはマリーの使い魔だし、それとなく言っておこう。


「美味しい、これはどこで買ったんだ?」

「名前は忘れたけど、漁港の市場で買った」


 へぇ。

 マリーの移動魔術は本当に便利だ。

 彼女の力さえあれば、世界を股に掛けて観光出来る。


「今度の、来週の、土日辺り漁港巡りしないか?」

「別に構わんが、奢ったりしないぞ?」

「構いません。私は私で普段から貯蓄してたしな」


 あ、やっぱり。


「やっぱりそうだったんだ、僕は普段あげてるお小遣いどうしてるのか不思議だったんだ」

「そりゃ貯めますよ。イクトに何か遭った場合、最悪ですからね」


「お前も無精してないで、働いたらどうだマリー」


 オリビアは時代は共働きだぞ、と言い放つと、マリーは彼女の『のどぐろ』を奪い取る。


「……ほう、私から何かを奪う? ならイクトを奪うまでだ」

「させませっん」

「昨日聞いたぞ、お前、イクトと出逢った当初は捨てることも視野に入れてたそうだな」


「え? 僕そんなこと言ったの?」

 酔って記憶がない時の発言って、やたらビビる。


「他にも、私に抱いている劣情、ミーシャや、ジーナに感じる色香など。イクトは思いの外色欲を溜めこんでいるようだな。イクトはお前の知らない所で結構言い寄られているらしいし」


 もう止めて、イクトのライフはゼロよ。


「僕は他になんて言ったんだ?」

「……後はそう、仕事上の愚痴と、私に厚かましい依頼を申し出て来た」

「「厚かましい依頼?」」


 彼女の意味深な言い振りに、マリーと声を被せた。


「その話に付いては、お前が記憶にないようならしないが」

「もったいぶりますねぇ~、ま、いいけど、寿司が美味しいし」


 本当に、酔って記憶がない時の発言って、驚くな。


「オリビアは今日泊まっていけるのか?」

「冗談言え、明日は会社だ」

「ふーん、頑張れ」

「マリーの方こそな」


 僕はまだいい。

 今の会社では存外自由に働けているし。

 何より、仕事をしていて上からのプレッシャーもない。


 だが社長秘書に抜擢されたオリビアは早速現代社会のストレスにぶち当たってるんじゃないか?


 社長がどんな人なのかは知らない。

 けど、社員総数千人規模の大企業の長なのだから、切れ者なのだろう。


「……オリビアは、仕事楽しい?」

「遣り甲斐はある、が……身体に馴染む職かと言われれば、そうじゃない」

「オリビアは素直に学校の先生になったら良かったんだよ」


 彼女の教師姿に、誰よりも期待したのは僕だ。

 すると彼女は僕の目を覗き込んで、うつむく。


「イクト、誰のせいで私は教師業に就けなくなった?」

「カインさんのせい?」

「他人のせいにするな、お前の責任だろ」


 えぇぇ、それには素直に反感を覚え、心の中でブーイングだ。


「そういう意味合いでも、私は生涯、お前の傍を離れない。責任取って貰うぞ」


 うわああああッ、と叫び天空から落ちる幻覚を見たり見なかったり。


「今の台詞を若干可愛く言い直して欲しい」

「責任、取って欲しいの……?」

「お? オリビアの口から女性言葉が出たぞ、これは可愛い」


 違う、マリー、君は分かってない。ようで分かってる?


「お寿司、ご馳走様。私はもう帰るぞ」

「送って行くぞ」

「でないと帰るに帰れないからな、頼む」


 そうしてしばしの歓談後、オリビアはマリーの送迎で帰っていった。

 二人で家に移動すると、しばらくの間マリーは帰って来なかったんだ。


 家で独りで待つのは退屈を極める。

 モモさんが居るとは言え、マリーはよく平気だな。


 マリーのスマホに『工房に行ってる』とメッセージを送信し、その足で向かった。


「おお、イクトっち、差し入れでも持って来てくれたのか?」

「あ、ごめんなさい。差し入れはないです」


 はてな村の一角に建造した工房に向かうと、グッタモが鍛冶仕事に精を出している。

 グッタモは地球の甘味が気に入っていて、特にプリンは大好物なようだ。


 そのため、僕はそのままコンビニへ直行し、プリンを買って戻る。


「ふぅ、よしみんな休憩にするぞ」

「二つ貰うわね」

「止めろ馬鹿、ミーシャ、一人一個しか買ってないよ」

「チ」

「舌打ちするなよ、こんなくだらないことで」


 ミーシャの太々しい態度は、彼女のガキ大将時代を彷彿とさせた。

 何でもミーシャはエルフの国では筋金入りの悪ガキとして有名らしい。


 グッタモや、弟子の皆は熱仕事の合間のプリンに頬を垂らしているようだ。


「ルガートさんもどうぞ」

「あ、いえ、自分は結構です」


 ジーナ師匠の使い魔である彼はいつも消極的だった。

 見掛けは普通の悪魔的好青年なのに、彼には自我がない。


「ルガートの分は私が貰うね」

「どうぞミーシャさん」

「ありがとう、でもどうしていっつもそう大人しいの?」


 ミーシャの疑問に、彼は申し訳なさそうに視線を地面に落とした。

 悄然とする彼の姿は、――誰とも関わりたくない。

 といった強い拒絶を感じられる。


「……さてと、大師匠、進捗の方はどんな感じです?」

「問題ねぇだろ。納期までには間に合わせる」


 はてな村の大改革を行ったグッタモ一派は、ロキ部長からあるプロジェクトの商品開発を請け負っている。その代り、僕達は会社から多大な融資を得て、生活圏を確保したんだ。ロキ部長から提示された納期は年内一杯。


 期日までに納品出来なかったら、僕達は契約違反者となる。

 もしもこの事業が始動したら、地球の未来は変わるだろう。


「イクト、悪いが使い頼まれてくれないか」

「何か入用ですかジーナさん」

「母の様子が気に掛かる、マリーと一緒に見に行って来てくれ」


 母想いの師匠は母親の存在こそが一番大事なようだ。

 今までルガートさん以外と馴れ合わなかった理由がよくわかった。


「人使いが荒いですね、いいですよ、マリーと一緒に様子見て来ます」

「人使いが荒くて悪かったな」


 だから今度はまた家に戻って、マリーと一緒に異世界アルビーダに向かう。

 僕達は王都から追放されているため、人目を気にしながら師匠の母親を尋ねた。


「……イクトさんかしら?」

「ご無沙汰してます、これジーナ師匠から持って行くよう頼まれたデザートです」

「ありがとう、でも貴方本当にイクトさんで合ってる?」


 どういう意味だ?

 僕の隣に付き添っていたマリーもニーナさんの態度に首を傾げている。


「ニーナさん、身体でも悪くしてるのか?」

「いえ、説明するのがちょっと大変だけど、まぁとりあえず上がって」


 ニーナさんの部屋に通され、お茶を持て成された。

 部屋の景観はどことなくエスパニッシュで、幻想的だ。


「さてと、何から説明すればいいのかしらね」

「まま、とりあえずお土産のデザート食べてくださいよ」


 マリーは急かすようにデザートを勧める。

 思案気なニーナさんは勧められるがまま、プリンを口にした。


「……私は、賢者ブライアン様と共に世界を救ったとされる、聖騎士ディートリヒの子孫なの」


 その時、神妙な彼女の口からある一つの物語が紡がれ始めた。

 僕は賢者の孫娘と共にその話を聞き、繋いだ手を離さなかった。



ユーチューブでやたらミックスリスト流してます。

仕事中も、プライベートでも。

皆さんも始めませんか、ユーチューブ。

私も、この拙作を読み上げちゃんに読ませる動画でも作ろうかな。

そしたら〇〇と書いて××と読ませるを乱用しますねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ