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宵越しの冷たさ


 敵? 賢者ブライアンが?


 あの台詞を口にした時のサイラスは、英気に溢れた表情をしていた。

 正直、不安しか覚えない。


 視線の先には白い壁紙が張られた寝室の天井が見える。

 天窓から入って来る月光によって仄かに浮かぶ白い天井。


 落ち着くような、不安を焚きつけられるような、何とも微妙な気分だ。

 仰向けにさせていた身体を横向けにして、マリーのベッドを窺った。


 ……え? 嘘だろ?

 マリーのベッドで、マリーが寝ている、だと……?


「なんのこっちゃ」

「イクト、心が煩いぞ」

「マリー」

「お前も寝ろジョージ、寝るんだ。何しろ明日は楽しいお出かけなんだからな」


 うだうだとくだらないことで悩んでいると、マリーから一喝されてしまう。

 彼女の安眠を妨害しちゃいけないと思い、僕は寝室を後にした。


 廊下に向かうと、しんとした静寂に包まれている。

 時刻としては深夜一時、この時間になるとみんな寝入る。


 足裏に冷え切った廊下の温度を感じつつ、リビングへ。

 するとそこには、モモさん?


 モモは誰かと電話しているようだ。

 それも声を変える魔術を使い、老婦になりきって。


 生憎、僕は彼女の前世を知らないが。

 きっと、話している相手は前世の連れ添いか、家族だろう。


「おやすみ……ふぅ、ッて、ノワァアアアアアアアッ!」

 びくぅ!?


「どうした?」

 急に絶叫したモモは、そのまま僕に突進して――ッ!!

 強烈な右ストレートパンチを繰り出し、クリーンヒットさせる。


「あ……チ、お化けかと思った」

「モモの中のお化けって、実体持ってるの!?」

「そうだよ」

「冷静に嘘吐かないでくれないかっ」


 何を仕出かそうとも、一向に悪びれないモモさんマジ大悪党。

 モモは仕切り直すようにお茶を淹れ、僕に差し出した。


「ふぅ、お茶が旨い」

「イクトも眠れなくなったの? こんな時間に起きて来てさ」


 も、ってことは、モモも目が覚めた口か。

 先程の一件を詮索してはいけないんだろうなあ。


 モモはプライバシーを人一倍愛護しているきらいがあるから。

 隠れて努力する姿の美徳を尊ぶような、そんなイメージ。


「ねぇ、対戦でもする?」

「今から? 目が冴えたら厄介だし」


 するとモモから思いがけない申し出を受けてしまった。


 最近僕達の間で流行っている『ダブリュビーロッド』というゲームがある。

 モモが見つけて、嵌り出したのを機に、はてな村の全員が嗜むようになった。


 鍛冶業に精を出すエルフ達だって仕事の合間に休憩を取る。

 ダブリュビーロッドは隙間時間をつかって気分転換出来る素晴らしいゲームだ。


「じゃあ、軽く十連戦でもしようか」

「これが終わったら僕は寝るよモモ」

「好きにすりゃいい」


 まぁ、知人の中で勝率No1なのは僕だから。

 今回はモモさんに軽く辛酸を舐めさせてやるじぇ。


 しかし、この時の僕はモモさんの執拗な性格を計算に入れてなかった。


「よし」

「このだらぶち野郎がァアアアア!!」


 僕の九勝一敗で幕切れすると、モモ火山は噴火した。

 その後はモモさんお得意の格闘術で強制的にゲームに付き合わされ。


「イクト、お早う」


 気付けば朝十時、遅起きのマリーも目覚めたようだ。


「クッソっが! どうやっても、どぅやってもイクトに勝てない」

「勝てないって、もしかしてダブリュビーロッド?」


 結局一睡も出来なかった。

 今日はこれからマリーとデートの約束があるのに。

 まぁ、師匠譲りの不眠耐性があるおかげで大丈夫だが。


「今日はどこに行く?」

 軽い朝食を拵え、それとなくマリーの意向を伺う。


「どこでもいいけどなぁ……」

 彼女はお気に入りのダウンベストを着て思案している。

 その様はとても家庭的で、外では決して見られない彼女の一面だった。


「イクト、ココアくれないか」

「わかった」

「私の分もな!」

「わかった」


 わかったけど、キレ気味に言わないで欲しいよモモ先輩。

 彼女達のためにココアを淹れてると、スマホが鳴る。


 まさか会社からの呼び出しじゃないだろうな。

 これでも僕は課長なわけだし、急な出勤もあり得る。


「はいもしもし」

『もしもし? 私だ』

「誰だ」

『? オリビアだが? 声を聴いて判別できないのか』


 電話の主はオリビア、社長秘書になる時期に一人暮らしを始めた彼女だった。

 ってマズイ、彼女から電話があると言うことは本当に――


「もしかして仕事の話だったりする?」

『違う、ストーカーとやらに付いて訊きたいことがあってな』

「ストーカー?」


 えぇ……でも、日本人離れした整った褐色の肌に澄んだ紺碧色の瞳、股下八〇センチの一七〇センチオーバーの身長と、オリビアの容貌を考えると、そんな不届き者が現れてもおかしくない。


「ストーカー被害に遭ってるのなら、一旦家に来ないか?」

『それでもいいが……守ってくれるのか?』


 彼女の口調はさも自分の身くらい自分で守れる。と言いたげだ。


「電話越しで話すより、実際会って話した方が説得味あると思うんだよ」

『それでもいいがな……ストーカーの正体はそっちの村の人間かも知れんぞ』

「誰のことだよ」

『カイン、奴のことだ』


 ナ、ナンダッテー。

 僕の棒読みは迫真だった。


『私が、ストーカー被害に遭ったのは、今から二か月前のことで』


 今から二か月前、丁度オリビアが一人暮らしを決めた頃の話。

 その頃から彼女は昼食時になると必ず僕達の事業部に訪れ。

 そしてガトーリーダーを伴って外食していた。


 まさかその裏に彼女のストーカー被害が隠されいたなんて。


『本心から言えば、イクトに守って貰いたいが、お前にはマリーがいるしな』

「そんな風に言うなよ、後ろ髪が引かれるだろ」


 と言えば、彼女は電話越しに失笑したようだ。


『分かった、会って話そう。今日の夜八時に私の家に来てくれ』

「罠くせぇ」

『罠? じゃあな、待ってるぞ』


 彼女はそこで通話を切り、僕はマリー達にココアを持って行った。


「オリビアがさ、ストーカーに遭ってるかも知れないんだって」

「ふーん」

「妄想じゃない?」


 しかし、我が家の女性陣は冷たい。


「それは心配だな」


 と思ったのは僕の一時の勘違いだったようだ。

 マリーは友人である彼女を心配し、ココアを啜っては。


「あー、美味しい」


 と言い、オリビアのストーカー被害を達観した様子だった。


 やっぱ冷たくない?

 ……ない?



江戸っ子って大変ですよね。


てやんでぇい、を始めとし。


江戸語録を話さない限り江戸っ子と認定されない節があると勝手に思ってます。


生憎お江戸出身じゃない私は詳しくないのですが。


江戸っ子と言えば、勝手に俥寅次郎が一番代表的かなって。

ってそれ架空人物やん。

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