表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/97

ピザだよ


「ピザが美味い、地球に来て感動したのはピザを宅配するサービスがあることだよ」


 ミーシャは灰色の髪の毛を掻き分けながら宅配ピザを堪能している。

 師匠に引けを取らない彼女のたわわな胸に、つい目尻を下げた。


「何にやにやしてるんだよ」

「何でもないよ、マリーもちゃんと食べるんだぞ」


「当然だろ、このピザは私が頼んだんだ」


 限界集落に何故宅配ピザが? と不思議に思われるかも知れない。

 宅配ピザの時に限ってはマリーが社員寮で頼み、ここに持ち運びしているのだ。


「だからお前らに食べさせる義理はありません、私を誰だと思ってるんだね?」

「マリーは外道かよ」

「いえいえ、貴方ほどじゃありませんよモモさん」


 モモは異世界アルビーダに還らず、僕達に付き合うよう地球に滞在している。


 彼女が言うには、マリーに出来て私に出来ないことはない、だそうだ。

 意味不明だけど、以前通り彼女と一緒に暮らせて楽しいから良し。


「イクト、明日は休日だろ?」

「そうだよ、と言っても土日は魔石加工の仕事しなきゃいけないけど」

「そっか、詰まらないなー。たまにはイクトと遊びたいのになー」


 そう言うことであれば。


「だったら明日は僕とデートしようよ」

「……いいのか?」


 い、いい、い、いぃんだよ。

 僕も欲求不満が募っていたことだし、明日はマリーとぐへへ。


「これ、食べてもいいかイクト」

「サイラス? 久しぶりだな」


 一家で団欒をとっていると、サイラスがクロエさんを連れて帰って来た。

 彼の場合世界中に知り合いがいるから、正確には来訪した、か。


「何これ美味しい」

「それはピザって言うんだぞ」


 クロエさんが机に腰掛け、ピザに舌鼓するとマリーが得意気にしていた。


「ふーん」

「お前さんも相変わらずだな、久しぶりに会えて嬉しいよ」

「ふーん」


 駄目だ、彼女達のやり取りに笑いが込み上げて来る。

 どうやらマリーはクロエさんを気に入っているし。

 嫉妬なんて覚えないけど、二人の関係性には微笑ましくなる。


「今回はどこへ行って来たんだ?」

「……アルビーダで、賢者の行方を追っていた」

「爺さんの? 放っておけよあんな唐変木」


 地球にやって来て以来、サイラス達は賢者の行方を探し放浪していた。

 二人の行動力、そして鍛え抜かれた強さは驚愕に値する。


「疲れたんじゃないか? 風呂でも入って行けよ」

「そうする」


 と言うことで、僕達ははてな村に建造したお風呂屋に向かった。


 ◇


「ようイクト、よく来たな」

「またお世話になります」


 はてな村の一角にあるお風呂屋は、村長からの提案を受けて作らせて貰った施設だ。

 日本で言う所の銭湯ってやつで、番頭はバルバトス三世がやっている。


 村長は村の活性化につながるのなら何したっていいと容認した結果、グッタモ達は暴走し、好き勝手にはてな村を魔改造して、キャンプ場・鍛冶屋・牧場・商店、果ては独自の会社を設立しやがった。


「じゃあなイクト、一時間後ぐらいにここで」

「痴漢に気を付けろよマリー」

「笑わせるなよ、それって100%お前のことだろ」


 えぇ……。


 男湯と女湯に別れて、湯煙ただよう浴場へ入ると。


「やあイクトさん、それから、えっと君は確か」

「サイラス」

「あ、そうそう。サイラスさん、久しぶりですね」


 カイン・レチェバルト――エルフの中でも曲者の彼が先に浸かっていた。

 では失礼して。


「ふぅ、生き返る」

「……イクトはその後の首尾はどうだ?」

「ふぇ? 首尾? 順調だよ順調」


 サイラスは世間話の一環として、半年前からの首尾を訊いて来た。

 順調だよとは答えたが、その実目ぼしい成果は出ていない。


 しかし、僕としては半年間マリーとイチャイチャ暮らせた充足感はある。


「サイラスはその様子だと賢者は見つかってないんだろ?」

「イクトは会ったことがあるんだったな」


 あの人の話は極力したくない。

 僕があの人に覚えた、どうしようもない虚無感。

 あれだけは……――許容してはならない。


「意外と普通の人だったよ」

「以前言っていたのと大分齟齬があるように思えるが」

「や、本当に。そこまでこだわる必要はない」


「明らかに何か隠していますね」

 野暮なツッコミをしたのは同じ湯船に浸かっていたカインだ。


 彼も彼で、アカシアという得体の知れない存在に仕えてるからな。

 ここは素直に打ち明けるべきか? 僕が抱えている、妄想的な不安を。


「所でイクト、あのピザとかいう食べ物はまだあるのか?」

「もっと食べたいのか? ならマリーにお願いしてみよう」


 いや、わざわざマリーにお願いするまでもないか。

 先に風呂から上がり、宅配ピザを社員寮に頼んで、受け取りに行くか。


 何しろマリーの風呂は長いからな。

 そのおかげで彼女からはいつも芳香がする、ぐへへへへ。


「おうイクトっち、今上がった所か」

 速やかに身体を洗い、お風呂から上がると脱衣所でグッタモと遭遇。

 グッタモに今度はピザ屋を建造するべきだと要請したのち、僕は社員寮に向かった。


「イクトですか?」

「ラプラスか」


 社員寮に向かうと、有栖川さんの代わりに寮母に就任したラプラスが読書していた。

 マリーの話によるとラプラスは意外と読書好きなビッチらしい。


「今夜は誰と寝るんだ」

「今夜は営業部のホープと添い遂げますが、イクトに何の関係が?」

「いや別に、ただ何となく、退屈凌ぎの一環で聞いた」


 そう言うと、ラプラスは読書に戻った。

 彼女が手にしている本のタイトルが気になって覗うのだが。


『今さら人には訊けない礼儀作法~不倫編~』


 どこから出版してるんだこの背徳的なタイトル。

 そのまま待つこと二十分弱、ピザの宅配がやって来た。


「……どうも」

「君はアンリちゃんか、ロキ部長の娘さんの」

「えぇ、それが何か。五千六百円になります」


 ピザの宅配としてやって来たのは肌が瑞々しいアンリちゃんだった。

 部長の話によると、家出するためにアルバイトに精を出しているようで。

 彼女は学校を不登校気味なようだ。


「久しぶり、ラプラス」

「……えぇ、久しくしておりますアンリ」

「どうかな、今度渋谷に遊びに行かない?」

「結構です、貴方とはもう終わったのですから」


 何言ってるんだこいつビッチ。

 表立ってラプラスの正体は悪魔だと打ち明けられない以上。

 僕は二人が交わす意味深な視線の背後でモブになるしかなかった。


 別に世界の主役になりたいわけじゃない。

 僕はマリーの主人公であれば、出来れば永久にそうであればいい。


 ピザを受け取った後、はてな村の自宅へと戻り、サイラスに追加のピザを食べさせた。


「ありがとう」

 クロエさんもピザの追加には喜んでいた、無表情だったけど。


「悪いなイクト、長旅でひもじい思いをしてて」

「サイラス、賢者探しの旅なんていう無意味な真似はやめたらどうだ」

「いや、俺は確信を持ってる」


 確信?


「賢者ブライアンは、この世で最高の」


 ――敵だ。


サブタイにあるように、私はピザが大好きです。


ピザでも食ってろデブ。


と、チャット仲間は冗談で言います。

でも私はつくづく思うのです。


あれって冗談じゃなくて、隠された真意があったんじゃないかなって。


そう思慮すると、私の思慮深さを露呈するようで、誇らしげにピザが食えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ