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僕と彼女の愛を形にした家だ


 唐突にだが、ここで僕ことイクトの課長論を記そう。


 僕は元々固定観念が強く、また世間知らずという了見の狭い人間だ。


 見識の稚拙さが悪目立ちして、他人と話が合わないことは侭あった。


 でも、そんな社交性に欠いた僕は何の因果か課長という役職に就いてしまう。


 出社して、上司の顔色を窺うように言葉を濁し、見えない所で嘆息を吐く?

 (ヾノ・∀・`)ナイナイ。


 取引先の人間から細かい修正指示を受けて、隠れて怒り心頭?

 (ヾノ・∀・`)ナイナイ。


 今週妻が浮気します?

 (´◉◞౪◟◉)えぇ……。


「……何だこれは?」

「何って? あ、専務」

「君の事業部は今どんな感じなんだ? ちょっと話があるから来なさい」


 あ、今部長が専務に連れていかれたなうw


 某月某日、僕達『異世界部』は兼ねてからの計画にあったメディア展開をしていた。

 僕や異世界アルビーダに纏わる話を、ネット上で拡散しているのだ。


 マリーが度々アルビーダに渡り、モモ先輩と一緒にアルビーダの映像を撮って来て。

 それを流出すると共に各掲示板にスレを立てている。


 それが課長である吉岡イクトのサブルーチン。


 しかし、僕が課長として課された仕事は、見通しが立たないのだが……。


「イクト、元気でやってるか?」

「君の方こそオリビア」

「私はこの通り、元気さ」


 オリビア、僕に元々好意を寄せていた彼女は今、社長秘書に大抜擢された。


 先任の社長秘書が一人辞めるタイミングで、偶々スカウトされたっぽい。


 彼女が言うにはオフィスを歩いていたら声を掛けられたんだそうだ。


 確かに、彼女を秘書として迎えている会社はそこはかとなく箔がある。


 彼女の日本人離れした容貌が、会社の国際性を高めているかのような箔が。


「お昼でも一緒にどうだ」

「いいよ、行こう」

 

 普段は高圧的で、いかにも高嶺の花である彼女。

 その彼女から礼儀正しく、お淑やかに接されたら堪らないだろう。


 誰だか知らないが彼女をスカウトした人間は目利き抜群だな。


 僕はオリビアと、ガトーリーダーを連れて会社近くの蕎麦屋に入った。


「もり蕎麦一つ」

「あ、俺はざるで」

「天婦羅蕎麦を」


 僕がもり蕎麦で、ガトーがざる蕎麦、そしてオリビアは天婦羅蕎麦を注文する。


「もり蕎麦とざる蕎麦の違いって、海苔のありなしなんだよ?」

「へぇ、知らねぇっす」


 茶髪ガトーはまだ終業してないのにネクタイを緩め、早速スマホを弄っている。

 君はスマホ依存症なのか? と訊けば。


「うっす、俺は平成生まれっすから」

「いいんじゃないか、昼食時くらい好きにしたらいい」


 最近、この二人の仲が怪しいような気がするんだよな。


 逃した魚は大きかったか。

 なんて後悔しないよう、マリーと徹頭徹尾イチャイチャしないとな。


「社長がな、異世界部の動向を注視してるのだ。仕事の方は順調か?」

「……正直に話した方がいいのか?」

「無論だ」


 と言われてもな、彼女を通じて社長に伝わるんだろ?


 慎重に言葉を選ばないと、最悪の場合リストラだ。


 会社って経営合理化のためなら社員のリストラも辞さないからな。

 いや、マジで。


「仕事の進捗は八〇パーセント達成してるよ」

「アルビーダとの交易手段は確保出来たのか?」

「出来てるはずねーじゃん」


 ガトーくん、君は若いからいいけど、僕は崖っぷちなんだぞ?


「異世界部は、その奇特性から、会社での注目度も高い。もしも計画倒れになったらその時はあの事業部は無くなり、ロキ部長は左遷、イクトに至ってはこれだ」


 彼女は首に手刀を当てて、僕の恐怖を煽る。


 何故ロキ部長はよくて、僕は駄目なのだ。


「仮に事業が成功しても、僕にそこまでの見返りはないんだろ?」

「それが会社だからな。功労的とは言え、社員一人のために尽くすと思うか?」


 それに、と言い、彼女は言葉を続けたがっている。


「異世界部の予算の中に、不可思議な支出があると経理部長が訴えてたぞ」

「知らないよ、本当に。予算を仕切ってるのは部長だ」


「……ロキのことだからな、何しでかすか予想出来ねぇ」

 長年、彼に仕えていた近衛兵のガトーすらもそう言う。


「実は僕、とある方面から熱烈なオファーを頂いてるんだ」

「〇〇市の科学研究所のことか?」

「何故バレタし」


 今のはハッタリ文句風味にカモフラージュした内容だったのに。

 すると慧眼を光らせたオリビアは嫣然と微笑む。


「私事混じりとは言え、イクトの素行調査はやっていて楽しい」

 ファ!?

「まさか、君は社長命令か何かで僕を調べてるのか?」


「ああ、そうだ」

 ファ!?


 驚嘆していると次第に注文していた蕎麦が届く。

 オリビアは割り箸を綺麗に割ると、蕎麦を豪快に食べるのだった。


 ◇


「ただいまー」

「お帰りイクト、今日はみょーに元気ないな、どうした?」


 マリー……。

 昼間、オリビアから痛烈な現実を叩きつけられた僕は少し欲求不満だ。


「おっとー、セクハラー」


 出迎えてくれたマリーの胸に顔を埋めたら、そう言われた。

 地球に来ても、彼女の香り立つ馥郁は変わらないスゥー……。


「イクトの匂いがする」

「汗臭い?」

「この季節だとそうでもない、いい匂い」


 すると彼女は埋もれた僕の頭の匂いを嗅ぎ始めたんだ。


 いい雰囲気だ。


 このまま彼女とベッドイ――――ッ!


「邪魔だ退けオラ、この発情犬、去勢すっぞ!」

「お帰りモモ」


 マリーをその場に押し倒さん勢いになると、後ろから股間を蹴り上げられた。


「全く、お前のために人生てんてこ舞いなのに、去勢すっぞ!」

 なぜ二度言ったし。


「ただいまです、師匠、どうして床に蹲っているんですか?」

 お帰りリュト、僕はもう駄目だ、僕を置いて先に行け。


 そう念じると、リュトの後ろから現れた三つ子が僕を蹂躙していった。

「師匠、大丈夫ですか?」


「ヤムチャしやがって、ってことで今日の晩餐は宅配ピザでーす」

「またか、確かにピザは美味しいけど、たまには君の手料理が食べたい」


 と言うと、マリーは誤魔化すようにキスをしてくれた。



 あれから半年後――僕達は限界集落だったはてな村に住みついた。



 総人口200人弱のはてな村に、グッタモの弟子達がやって来て開拓。

 グッタモの弟子達は侵略する勢いで村に浸透し。


 はてな村は今、一端の田舎町へと変貌している。

 村の成長速度に村長は腰を抜かし、業務出来なくなり。

 カインとかいうエロフが村長代行を務めるようになってしまった。


 だからここは、僕とマリーの第二のマイホーム。


 劇的な変貌を遂げつつある集落の中央部に位置する赤い屋根の家。

 僕とマリーの愛を形にした家だ。


往年の洋楽、エアロスミスで『I Don't Want to Miss a Thing』を聴きながら更新しました。

この曲、終盤でボーカルのスティーブン・タイラーがシャウトする所。

彼には失礼ですが、最初聴いた時は笑っちゃいました。

何故に(´_ゝ`)

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