なあなあ異世界
翌朝、午前七時。
「起きるんだイクトっち、今日も張り切って工房建設地を見つけるぞ」
「お早うございます大師匠」
僕は愛妻のマリーと目覚めのキスを交わすでもなく、グッタモから起こされる。昨夜のあの後の一件をかいつまんで説明すると、ラプラスの自爆でことは終わった。
ラプラスを「私の女」と称していた女子高校生は見てしまったんだ。
あの悪魔的ビッチが、ビィーッチたるビッチ活をしている現場を。
彼女は軽く失望した後。
「……次の当て探そ」
というぐらい立ち直りが早かった。
ラプラスはこの際放置しておくとして、問題は男子寮に残されたマリー達だが。
マリー達はロキ部長にお願いして女子寮に宿泊させてもらようにした。
今日はこの後八時五十分より異世界部の朝礼があることは伝えているが。
地球の勝手が判らない彼女達に労働させるのは酷かもな。
「お早うございます、異世界部の皆さん」
――午前八時五十分、出社した僕達はロキ部長の朝礼を聞いた。
「予定していたアルビーダとの交渉ですが、ちょっと航行ルートに問題があって、今は課長が対応してくれています。皆さんは引き続き自分の業務を進めてください。手が空いたら課長のサポート宜しくお願いします」
簡素な朝礼が終わると、僕は部長に呼び出された。
「お早うございますロキ部長」
「お早うございますイクトくん、あの後進展はありましたか?」
「ありました。結果的にマリー以外は両世界を行き来できないことが判りました」
「うーん、そうですか。彼女以外の人間も行き来できるようにならないことには」
困りましたねえ。なんて具合にロキ部長は頭を悩ませている様子だが。
王子だった時の部長を知っている僕は、彼の野心を脳裏で感じていた。
「ちなみに、マリーさんはどうやって行き来しているんです?」
「魔術ですよ、祖父である賢者から引き継いだ瞬間移動魔術です」
その名も――リープ。
神の足との別名を持つ基本魔術にして、奥の深い代物で。
マリーが最も得意とする風属性の魔術であり、彼女が最も愛した魔術だ。
マリーは僕を探すうち、無意識の中にいた僕の存在を感じたらしい。
仏教で言う所の阿頼耶識だと思われる。
通常の人間はその意識を感じることは出来ないとすれば。
地球と異世界アルビーダを行き来するのは、到底不可能。
「うーむ、そこを何とかして、一般人でも気軽に行き来できるようにするのが君の仕事ですよ」
「……報酬は?」
ロキ部長の無茶振りに余り応えたくないが、これも仕事だ。
僕は普段の給与とはまた違った達成報酬を彼に要求した。
「成功した暁には、私から社長に掛け合ってみますよ」
「成功報酬は最低でも日本円でこれくらいは貰いますからね」
「交渉成立ですね」
交渉成立? バカめ。
こっちは端から達成する意気込みなぞ持って、ぬぁいのだ。
「あ、そうそう、昨夜は家の娘がお世話になったみたいで」
「……まさか、昨日の謎の女子高校生は、ロキ部長の娘さんですか?」
「そうです、名をアンリと言いまして。不甲斐ないことにしょっちゅう家出されてます」
だから、彼は心労から剥げ散らかしたのだろうか?
娘を想う余りハゲルなんて、僕の理想の剥げ方だ。
部長のデスクを離れた僕は、みんなの所へ向かった。
「イクト、仕事として我々は何を要求されてるんだ?」
今回の仕事に精力的なオリビアはいの一番に訊いて来た。
「朝礼で言われたように、異世界アルビーダの航行手段を確保しろってさ」
「ふむ、今回の事業の中でも最も肝要な案件なのだろう」
「じゃ、土台私達に出来ることなんてないな」
考え込むオリビアに対しマリーは匙を投げている。
真面目なオリビアは許せなかったのか、マリーの頭蓋骨を鷲掴みしていた。
「喧嘩はめー」
そんな二人を仲裁したのはジョージ。
彼は下手な人間よりも人間が出来ているスライムである。
「方法はある、だが危険だ」
「グッタモさん、その方法って?」
「俺とイクトっちがここにやって来た時の状況を再現すればいい」
大師匠のグッタモが口にしたのは魔石の暴走を制御するという方法だった。
僕が古い文献を頼りにジョージの仲間を創ろうとしたあの一件。
あれにこそ、此度の問題を解決するための鍵はあったのだ。
しかし、大師匠グッタモが唱えるように魔石の暴走は危険だ。
グッタモは魔石の暴走事故で死んだエルフ達を数多く知っている。
だから、あの暴走事故を起こす前も、僕はグッタモから何度も叱られている。
彼がスライム生成実験を許可したのは、僕の熱意に絆された結果だった。
「結果に危険は付き物ですが……今はとりあえずいいんじゃないですか?」
「そうだな。今は日本で工房を造る所から始めねーとな。おいじゃじゃ馬娘」
「じゃじゃ馬娘って、もしかして私のことか?」
グッタモからじゃじゃ馬娘扱いされたマリーは眠そうだな。
それもそうだろう、マリーは普段十一時くらいに起床する習性だから。
それで彼女は十五時頃に昼寝を取り、夜中の二時に就寝する。
僕は堕落した彼女の生活を覗い、この娘に仕事は一生無理だって思った。
その悟りは彼女と同居生活を始めてすぐの頃に覚えた奴だから、懐かしい。
「こらこらこらこらこら」
「痛い、痛いよ」
微笑していると、マリーは僕の頬をつねる。
「奥さんをじゃじゃ馬娘呼ばわりされて笑う馬鹿はしらねーぞ?」
「会社でイチャイチャするなお前ら」
すいやせんモモ先輩、トゥフフ。
「とりあえず、今日の業務はどうする?」
オリビアは腰に手を当て、仕事への情熱をいかんなく露呈している。
彼女の意識の高さには敵わないと思いつつ、今日の予定を口にした。
「僕とグッタモは工房を建設できる土地を探しに行くけど?」
「おぉ、それであれば俺も付いて行こう」
と言ったのは益荒男然としたバルバトス三世だ。
銀色の洒脱なスーツを着込んだ恰幅のいい彼に怯える人もいるだろう。
◇
で、僕達は今とある限界集落にいる。
人口の六割が六十五歳以上のここ、――はてな村は深い緑樹に覆われていた。
村から一望できる景色は一言でいえば緑樹たちの都会。
村の人に聞くと、ヒグマやタヌキといった野生動物がしょっちゅう出る。
「日本だと動物は珍しいのかイクト?」
「都会だと野生のものはほとんどいません」
いたとしても、ハトにカラスにネズミぐらいか?
バルバトス三世の質問に、都会育ちの僕はこう答えるしかない。
「ふーん……イクトの話だと、地球の文化は目を見張るぐらい発達してるんじゃあ、なかったか?」
……爆乳降臨。
爆乳降臨! 爆乳降誕! 爆乳爆誕!!
僕の師匠であるジーナさんはグッタモの指示によりマリーに連れて来て貰った。彼女は異世界アルビーダでセクシーエルフのミーシャとお茶していた所、半ば強引に連れて来られた。
「地球でも、過疎化している所だってありますよ」
いや、むしろ都市部の面積を地球の総面積で割った場合、僕の反駁材料はなくなる。地球の科学技術は今も尚日進月歩で成長しているが、日本の人口は年々減少していることだし。
「リュトは?」
「リュトだったら三つ子とイチャついてるんじゃないかな」
リュトは昨夜から突然消えたり現れたりと忙しない様子だ。
「で、イクトくん。私のお目当てのコスメ、地球の科学を象徴する品物は?」
「一応、ミーシャ用のお土産として」
「ありがとうね」
言い終わる前にミーシャは色目を使いつつ僕の手から高級バックを奪う。
これはどんな素材で出来てるのかしらね?
と、彼女は好奇心が入り混じった声音で上機嫌になっていた。
「おーい、イクトっち」
そこに、はてな村の地主と村長を連れたグッタモがやって来る。
「概ね話は纏まったぞ、俺達はここに工房を建設しようと思う」
ミーシャは恭しく村長達に挨拶すれば。
ジーナさんは僕の後ろに隠れるようにしていた。
「ルガート、喉が渇いたからこれで飲み物でも調達して来てくれ」
「了解です」
「ああ、それでしたらお茶でも淹れて来ましょうか」
村長さんは僕達にメッチャいい笑顔を向けている。
恐らく、若い連中と交友出来て嬉しいのだろう。
「貴方達のような学生さんと、こうして話せることが儂は大変嬉しい」
ほら。
でも学生と間違われてる。
まぁいいか、村八分に遭うよりはずっといい。
こうして、僕達は限界集落のはてな村に工房を建設する運びとなった。
グッタモはマリーに助力を申し出て、弟子達全員連れて来させたんだ。
そしたら半年後――日本の限界集落がエルフの里と見間違う事態に発展する。
その話は、また今度するとしよう。
私はその昔(と言っても五、六年前)、拙作でエロ九字なるものを考えました。
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前
を、
倫・病・蕩・射・海・陳・裂・罪・喘
と書いて、とある新人賞に応募してたりしましたねぇ。




