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酷いお


「私はガトーさんに言われて魔石の解剖を科研に依頼したんだけどさ」

「お前そんなことやってたのか、部長も指示に抜け目がないな」


 殴り込んで来た浪川はこう言い、密かに僕の緊張を高ぶらせた。


 魔石の効能が地球でも認められるものだとすれば。

 魔石生成能力を持つ僕は、一体どうなる?


「したら科研の代表の人が吉岡に是非一度お会いしたいって」

「だが断る!」

「とりあえず、貴方はどこのだれで、イクトとはどう言ったご関係で?」


 マリーは高圧的な対応を取り、浪川は眉根をひそめた。


「同級生」

「本当に?」

「本当に」

「……本当に?」

「可愛い」


 唐突にマリーを可愛いと言い張り抱き付く浪川の謎理論。

 しかしマリーの猜疑心はそこで晴れたようだ。


「この人は信じられる。どこかの尻軽と違ってな」

「……私を謗るならいっそ一思いに殺せ」


 ああ、何だこの圧倒的な罪悪感。

 僕はマリーへの愛を守っただけだ。

 それを察してか、浪川は僕にシャイニングウィザードを仕掛けた。


「プロレスは素人がやっちゃ駄目なんだよ!」

「プロレス? 正義の鉄槌だよばーか」


 痛ぇ、浪川のシャイニングウィザード擬きの膝蹴りで首の筋がおかしくなった。

 その後、僕達は一旦和解を示して社員寮の食堂へと向かう。


 そこには寮母の有栖川さんに混じってラプラスが給仕に精を出していた。


「ふぅ、いい汗掻けますね」

 と口にする程、ラプラスはご満悦の様子だ。


「おうイクト、こっちだ」


 立派な腕を振り上げ、僕達を呼びよせたのはバルバトス三世だ。

 バルバトス三世は豪気な人だから、例え娘の失恋を知ろうとも微動だにしないだろう。


「オリビア、いつになく元気がないな」

「お戯れを父上、私は普段通りです」

「そう言うのならいいが。所でなイクト」


「何でしょうか?」

「この国の物価は異様に高いな、それを知った俺は思わず怒声を上げてしまったぞ」


 バルバトス三世の向かいでは大師匠のグッタモが同意するよう頷いている。


「酒は美味いし、料理の品数も豊富、何より生活のための基盤がよく整備されている。いい国だとは思うが、ここは中々に生き辛そうな感じだなイクトっち」


「二人ともご愁傷さま、私は今日は日本の良さを堪能してきた」


 マリーはモモ先輩の案内のもと、充実した観光が出来たようだ。

 その観光で気を良くしたから、マリーはオリビアの申し出を受けたんだろうな。

 慢心だったなマリー。


「で、科研の代表に会うの会わないの?」

「さっき謹んで断っただろ」

「何が理由な訳? 断るなら断るでそこをお伝えしておかないといけないから」


 大人の嫌な所は、無自覚な感情を無理に訊きだすことだ。

 まだまだ人生経験が未熟な僕は、自分の考えを上手く言葉に出来ない。


 だが強烈なる嫌な予感だけははっきりとする。

 これを理由として挙げたら、きっと浪川は言い包めようとするだろうな。


「理由は簡単なことで、僕は近々寿退職する予定なんだ」

「吉岡」


 と言い、浪川は僕に利き手を差し出し。


「寿退職舐めんなし」


 その利き手で僕の両頬を圧潰しようとしていた。

 以前もこんなやり取りあったぞおい。


「大体吉岡は誰と結婚するんだよ」


「私だよ」

 そこで間髪容れず主張したのは愛妻のマリーだ。

 愛妻なのに、再度結婚とは一体何だろうか。


「いや、私だ」

 オリビアぇ。


「いいや、俺だよ」

 グッタモぇ。


「皆イクトと結婚したいのか」

「マリー以外は冗談の範疇ですよバルバトス三世」


 と言えば、オリビアは見るからに傷心した顔をしていた。

 その表情を覗っていると、憐憫から声を掛けたくなる。


「マリーおめー」

「ありがとうなジョージ、お前も居たんだな」

「いたー」


 この寮ではペットの持ち込みは許可されてるのか定かじゃない。

 普通に考えれば駄目だ。

 なら僕達は限界集落に行く必要がある。


 何故限界集落なのかと言えば、人目を避けられ、地価も安いと予測されるからだ。そこにマリーとの新築を用意して、また異世界アルビーダみたいな暮らしを送れないかなって思う。


 そのためには、やはりお金が必要だ。

 地球だろうと異世界だろうと、経済思想を回すのはお金なのか。


「いたたたたた」

 すると、聞いたことのないジョージの声がした。

 ジョージの声のする方を向いた僕は思わず。


「なんばしよっと!?」

「吉岡ぁ、地球に敵外生物持ち込むなんてどういうつもりだ」


 見るとジョージは浪川から早押しボタンのように連打されている。

 僕はすかさずジョージを浪川から奪い取った。


「ピゴー」

「動物虐待だぞ」

「あ、ごめんね」


「ジョージが人間不信になったら、浪川のせいだぞ」

「ちなみに聞くけど、それスライムだよね?」

「余り大きい声で言うなよ?」

「なら斃さんと」

「だっかっら!」


 なら斃さんと、じゃねぇよ!

 振りかざしたその矛を仕舞い、汚れきった心を浄化しろ浪川よ。


「オリビアー」

「ジョージ、貴様は私と同じだな。この世で独りぼっちの寂しいシーツの上の〇〇〇〇〇だ」


 ジョージは机を這って、オリビアの胸元へ飛び込んだ。


「で、私は先方に何て言えばいいの?」


「それは、条約違反だからって言っておけばいい。異世界アルビーダは、まだ地球とは正式に国交を開いていないのに、色々と深入りするのは双方に取って憂慮すべき事態だと思う」


「国交を開始してないってことは条約も締結してないよね?」

「そこら辺は上手く躱してくれよ、もういいだろ」


 話を打ち切るように浪川から視線を逸らすと、マリーと目が合った。

 マリーはウインクをして僕の心を弾ませる。


 アケビ色した彼女の透き通った瞳は僕の宝だ。


「イクト、ちなみになんだけど、ここはやけに男性が多いな」

「ああ、だってここは」


 その時、僕は意識的に看過していた事実をマリーから突き付けられた。

 ここは男子寮、女人禁制の花園だ。


 むろん、女性が立ち入ることで他の男性社員は反感を覚えるだろう……。

 周囲がざわついているような気がした。


「何も人の目を盗んで外に出なくても、ここは殿方の巣窟だったのですね」


 ラプラスさん、貴方がやろうとしているビッチ行動が安易に予測出来ます。

 女人禁制の男湯に乱入して、お前は――


 僕はその妄想を拭えなくて、ラプラスに注意しようと近づいた。

 この際、あることないこと言い含めるよう異世界間での性交は危険だと言ってやる。


「彼女に近づくな、あれは私の女だ」

「君は、夕方僕に何かした子だろ?」


 ラプラスに近づこうとしたら、うら若い女子高校生が通せんぼした。


 ワイシャツに包まれた胸はまだ成長途上ながらも膨らんでいて。

 整えられた柳眉と、グロスが塗られたアヒル唇は艶色を出し。

 幼さを残している160センチぐらいの背丈と顔貌は今、僕に敵愾心を向けていた。


「ラプラスから聞いたけど、貴方は何度も酷い仕打ちをしたんだ」

「……」


 厄介だな。


 ラプラスからどういう虚誕をつかれたのか知らないけど。

 彼女のような無垢な女子高校生を、一々説得するのは骨が折れる。


 僕はこの先起こりうるかも知れない一抹の杞憂に頭を抱えると同時に。


「嗚呼、今夜はきっと、素敵な夜になる」


 彼女の後ろで欲望に塗れているラプラスが、今は酷く腹立たしかったんだお。



私の胡乱な記憶を辿れば、ゼロの使い魔で名をはせた故ヤマグチノボル先生はこう言いました。

以下の空欄に何が書いてあるでしょうか? と。









で、彼はあとがきで独白を綴った後、――馬鹿には見えません。

って言い切った鋼メンタルの持ち主でした。

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