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永遠に在って欲しかった


「特別だぞ?」


 僕とジーナ師匠に魔石加工の技術を教える職人エロフのグッタモはいつもの口癖を残した。彼は優柔不断なエロフで、僕とジーナ師匠が熱の入った態度で彼の指南を仰ぐたびにこう言う。


 今年で百五十歳になるというグッタモは顔に小皺を浮かべながら僕らに技術を授ける。

 年季がいった彼はこれまで数多くの優秀な魔石職人を輩出しているらしい。


「イクトっち、そこやり直し。ジーナはもっと感性を働かせろ、心を殺して魔石加工するな」


 僕にはジーナさんという師匠がいるので、彼のことは大師匠と呼んでいる。


「ルガート、お前は集中力が散漫で使えない。家に叩き返してやろうか」

「申し訳ありませんグッタモさん、ですが何がどう悪いのか分からなくて」

「はあ? しょうがない、特別だぞ?」


 親身になって教えてくれる彼にすっかり愛着が湧いてしまった。


 大師匠グッタモさんの指南を仰いでもう三ヶ月か、時が経つのは早いものだ。

 

 王都ナビアから追放され、僕達はまたそれぞれの進路に就いた。


 例えばオリビアはこの国で活躍できるような場所を探しつつ、カインさんと偶にデートして交際を発展させている。モモは王立魔術学院から留学するという形式でこちらに来ていて、彼女はこの国の魔術学校で勉学に精を出しているようだ。


 この国に来訪して以来すっかり有名人になったマリーは自堕落に暮らしつつも冠婚葬祭などのイベントに時折出席し、この国での地位を固めている。クロエさんは頻繁に旅に出るサイラスの帰りを家で待っていた。


 我が家で一番の問題児であるラプラスは家事をこなしつつ、ナンパ師としてビッチしている。


「お腹ー」

 魔石加工にのめり込んでいると、ジョージがやって来た。

 ジョージに魔石を与えると、大師匠のグッタモさんから黙視される。


「グッタモさん、何か?」

「……いいや、何でもない。持ってる奴は違うなって感嘆してたんだ」

「確かに僕だって自分の境遇は恵まれていると思いますよ」

「イクトっちは恵まれた境遇をお為ごかしにするでもなく、世のために使うって言うんだな」


「それもどうかと思いますけどね。僕はそこまでお人好しじゃないですよ」


 と、反論すれば、彼は怪訝な表情をする。


「イクトっち、お前は私の教え子の中でも際立った才能――魔石生成能力を生まれ持ったんだ。それを世のために使わずして何の役に立つって言うんだ。本来であれば魔石職人は先細り必死だった、いわば死ぬ運命にあった業界だぞ? だから魔石道具は骨董品のような扱いを受けているんだ……お前は魔石職人唯一の活路なんだぞ」


 大師匠の熱烈な期待を受けた僕はジーナさんを見やった。

 ジーナさんは垂らした汗を白いタオルで拭っている。


「……でも、利用されたくないよな?」

「その通りかと」


 ジーナさんの援護を受け、僕は大師匠の意見に逆らった。

 すると大師匠はジーナさんの頭を叩き、僕の腹を殴る。


「二人とも生意気だぞ」

「はいはい、いいからちょっと教えて欲しい所があるんだよ」

「……特別だぞ?」

「かゆうまー」


 ジョージの絶妙なタイミングの鳴き声に、他のお弟子さん達も微笑ましい様子だぞ。


 僕の力を、世のために使わないのなら何のためにだって?

 それは愛するジョージや、マリーのために使うに決まっている。


 この国にやって来て、僕はジョージに纏わる情報を得ていた。

 その情報を教えてくれたのはこの国の代表であるアカシアというエルフだ。


 彼? だったか、彼女だったかは定かではないがアカシアさんは博識だった。


 賢者ブライアンと同じく、アカシアさんの主だった印象らしい印象がない。

 とすれば、アカシアさんは賢者同様、警戒に値する存在。


 しかしそんな人から僕はジョージに纏わる有力な情報を教えて貰う。


 この世で絶滅危惧種となっているスライム、その正体は魔石だということ。


 スライムは魔石から創られた存在で、その昔は生きた魔石と呼ばれていた。

 今はその技法も失われ、大師匠のグッタモさんも古い文献で見た記憶がある程度の代物らしい。


 だから、今の僕の目標はジョージの仲間を創るというものだった。

 その目標を耳にしたグッタモさんやジーナさんは息を合わせて笑う。


 せいぜい笑える内に笑っているがいい。

 後でアヘ面掻かせてやるから、アヘアヘ。


 ◇


「ジョージ、帰るよ」


 大師匠による今回の修行も終わり、僕はジョージを呼び寄せた。

 ジョージは他のお弟子さんの足元で可愛がられていた。


「さ、帰って風呂だ、飯だ、そして睡眠だな。今日はいい夢見られそうだ」

「気を付けてくださいよ? 師匠は一度寝ると中々起きて来ないですからね」


 ジーナ師匠と工房を出ると、エルフの国は例の光の渦で夜空を照らしていた。

 感じとしては、ゴッホの作品で夜空をモチーフにした絵画のような光景だ。


「リュトー」

「今行くよジョージ、先走らないでくれ。行きましょう師匠」

「……ああ、帰ろう」


 僕は一瞬、この幸せは一体いつまで続くのか考えてしまった。


 永遠に続くものなどこの世にはないし。

 また永遠に続かないものなど、この世にはない。


 この世は平気で矛盾を抱えるとんでもない代物だと僕は思っていた。


 出来るのなら、僕はこの日常にずっとひたっていたい。

 目に入れても痛くない愛弟子のリュトや、ジョージと帰路を共にし。

 身体中にずっと、この安堵を感じて、心を温まらせたかった。


 永遠に……けど。


 この世に永遠に続くものなど、ないのだ――


今夜は二話連続で投稿します。


サブタイにある、永遠に在って欲しいもの、それは――

言わずもがな、なくてはならないものです、それは――

ばっかやろー、今ここに私が来なかった? それは――


続く(※落ちはありません)

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