愛は正義
元老院から国外追放処分を言い渡された後、僕は恐る恐る家に帰った。
玄関の門をくぐると――パーン! という炸裂音が鼓膜を占める。
「冗談じゃねぇぞ! イクトコラボケが!」
「その声はモモパイセンっすね、何か知らないがすいません」
一瞬マリーがそう言ったのかと思い酷く焦った。
視界は今何かに覆われて真っ暗だったため誤解したんだ。
「で? 僕の顏に何を、うわなんだこれ」
「パイだよパイ、罰ゲームの時よく使われてる奴だよ」
一時期バラエティ番組のブームだった白いアレか。
「閑話休題、お前のせいで事実上の退学処分になっただるぉがゴルァ!」
「手が早いな」
「ちくせう! お前のせいだぞイクトゴルァ!」
「止せよモモ、お前が何にこだわってるのか知らないけどさ」
モモ先輩の怒声を聞きつけたのか、マイエインジェルのマリーがやって来た。
「うがー、はーなーせー!」
「国に固執するなって、もっと自由に生きよう」
モモ先輩はマリーに羽交い絞めにされ、じたばたとしている。
「その様子だと、すでに知ってるみたいだな」
「イクト達が呼び出されてる間に国の遣いがやって来たんだよ」
「……ごめん、君達を巻き込むつもりはなかった」
粛々と謝ろうとする僕に、マリーは不敵な笑みを向ける。
彼女の太陽のような笑みに、恐怖で凍てついた僕の心は氷解してくれた。
「マリー、あり」
「アリーデヴェルチ!!」
しかし彼女へ感謝を伝えようとした僕は、怒り冷めやらぬモモ先輩の拳の突き上げを顎に貰い、その場で卒倒してしまったようだ。
◇
数日後、ジーナさんが家を訪れた。
「お前らの準備はいいか?」
「えぇ、師匠の方こそニーナさんとお別れはすませました?」
「ガキじゃないんだ、母さんには生涯暮らしていける貯金を渡して来た」
まるで手切れ金のように見えるが、偉いなあ。
「では参りましょうか。遠い道のりではありますが安心して下さい、僕が付いてますから」
カインさんの一言に、皆静まり返った。
「っ、皆さんどうして黙るのです」
「カイン、貴様のせいで皆人生を狂わされたと言ってもいいのだ」
「はは、オリビアは怒った顔もとても美しいね、ははは……」
駄目だって、そのエルフ豆腐メンタルなんだから。
内心ではカインさんを庇えど、実際には行動に起こさない。
オリビアが言ったことはあながち間違いじゃないしな。
「師匠」
「どうしたリュト」
「彼に付いて行って本当に大丈夫なのでしょうか?」
「ピゴー」
「ジョージも不安そうにしてますよ」
ジョージの最近のお気に入りの場所はリュトの頭の上だった。
リュトにはジョージの気持ちが分かるらしい。
「お腹ー」
「二人とも心配するな、みんなは僕が何とかして養うから。エルフの国に着いたらリュトは何がしたい?」
ジョージに魔石を与え、リュトの希望を先ず訊く。
するとリュトは真剣な面持ちで思案するんだ。
「…………」
「……それほど真剣に考えるような内容なのか?」
「師匠、僕はエルフの国に着いたら、彼女にプロポ、へぶぅっ!」
そんなリュトの横っ面を三つ子は順番に叩く。
四人の間に何があったのか知らないが、まぁいいか。
「準備はいいかイクト?」
「君こそ、マリーは準備出来てる?」
「少し不安だけど、チュ……お前からこうやって、勇気を貰えればそれでオッケ」
僕達の同居生活が始まった頃に比べれば、この事態は大したことないじゃないか。
僕にはマリーが居て、彼女には僕が居て。
僕達は互いに知恵や力を貸し与え、上手くやって来た。
例えエルフの国に行っても変わらない、僕らには。
絶対無敵の愛がある。
愛は正義。
「では、皆さんで一斉に参りましょう」
こうして僕は仲間達と共にエルフの国へ向かった。
マリーの移動魔術で一瞬にして彼の国へ辿り着くと、カインさんの仲間と思わしきエルフ達が片膝を付いて、豪華絢爛なレッドカーペットの両脇に侍られていた。僕らは身に余る歓待を受け、各々動揺したり、畏怖したり、モモのように胸を張ったりしていた。
視界一面に広がるエルフの国では、所かしこで色とりどりの不思議な光芒が置かれ。
光の芸術のようにとても神秘的だった。
暖かい光と冷たい光がない交ぜになった街の景観はネオン街を彷彿させ。
僕らは皆、一様に心が高揚している。
約一名を除いて。
「ピゴー」
ジョージ、お前は何処へ行っても変わらないな。
ジョージはどこの世界に居ても、絶対に自分を崩さない。
その様相はまるでマリーと僕の普遍的な愛のようだった。
愛が正義だとすれば、ジョージもまた。
正義と書いてマサヨシと読む貴方は間違いなく、ゾブドバン゛グ。
ゾブド、バン゛グ。




