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エーロフはいた


 エロフ、じゃなかったエルフのカインはここに一週間ほど滞在する予定だった。

 それまでにオリビアとの交友を深められればいいらしい。


 その話を聞いた各人の思惑はそれぞれ違っていた。


「役職、技能、見掛けは問題ない」

「ふーん」


 工房で仕事に精を出しつつ、僕はオリビアの小言に付き合っている。


「だが肝心の中身がネジ一本外れている」

「そうだなー」

「それに私は教師免許を取ったばかりだ、彼と結婚したらどうなる」

「好きにしなー」

「友が真剣に悩んでいるのだ、先ずは手を止め真摯に対応すべきだろ?」


 オリビアは僕が贈った魔剣ディアブラッドの刃を首に添え、脅すんだ。

 何だよッ、僕だって納期が迫って必死なんだよッ。


「オリビアさんはいっそのこと、師匠と結婚すればよかったんじゃないですか」

「私は元々そのつもりでここにやって来た、そういう契約だったはずだ」


 リュトが余計なお節介をいれれば、オリビアは曲解を口にし始めた。バルバトス王に提案した内容は、マリーの友として迎え入れることだったはず。それがどこで誤解が生じ、彼女はそう認識するようになったんだ。


「しかし、今さらその話はいいのだ。イクトにはマリーがいる、マリーしかいない」

「その通りだな、イクトには私しかおりませぬ」


 どうやら僕の愛妻マリー・ルヴォギンスはお茶を持ってきてくれたようだ。

 僕達はお茶を受け取りつつ、オリビアの話題に乗っかった。


「別にいいじゃないか、頭のネジの外れ具合はお前と一緒だろ」


 マリーは酷いことをさらっと言う。


「馬が合うのならそれでもいいだろう」

「あいつの何が駄目だって?」

「……臭いだ、カイン殿からはきな臭さがする」


 オリビアは彼と逢う前からずっと凶兆を口にしていた。

 女の勘って奴か? 僕の勘はそれほど働かないけど。

 僕は、真に警戒すべきなのは賢者だと思っているからさ。

 この手の話はマリーの前で口に出来ない。


「それに、私は今の環境が気に入っているのだ」

「じゃあカインさんの方から婿入りしてもらえば?」

「そこに付いては話し合う余地がある」

「頑張えー」

「話し合いの最中なんだ、仕事の手は止めろ」


 話を適当に流そうとしたら、オリビアはまた魔剣を差し向けた。

 オリビアを嫁に迎えるのは大変なことだ。

 彼女はマリー以上に融通が利かない頑固者だった。


「家にいる男は僕ばかりじゃなく、リュトだっているお」

「ほう、私をどうするつもりだリュト」

「……オリビアさんを娶るのなら、僕はエ――」


 と、リュトが真剣な様子で何か言おうとした時、頭上から鉄塊が落ちて来た。

 その鉄塊に押しつぶされるように、リュトは地面に伏臥し。


「リュトォオオオオオオオ!!」


 事件は始まる。

 姉さん、事件です。


 ◇


 誰の悪戯か知らないが、リュトは腰をやられてしまった。

 バルバトス三世の治癒魔術でも全治三週間はかかるらしい。


「うーむ、これはいかんな」

「すいません、師匠……」

「イクト、普段から弟子に抑圧を掛け過ぎなんじゃないか?」

「そんなこと言わないで下さい、師匠のためならどんな、無茶だって」


 バルバトス三世はリュトの忠義心を覗い、哄笑をあげる。


「いい弟子を持ったな。真剣で、師匠想いで、努力家で」

「リュトは僕以上の鍛冶職人になりますよ」

「なら今しばらく安静にさせてやれ、俺が付きっ切りで看病してやる」


 でも、ノートンさんの依頼はどうしよう。

 彼のために考案したナックルガードの開発試験は終わっている。

 後は数を揃えるだけの工程なんだけど、リュトがいないと間に合わない。


 師匠に手伝ってもらうのは無理だ。

 師匠は師匠で仕事詰めで、僕を手伝っている暇はない。


「……イクトさん、呼ばれたような気がしたんですか」

「カインさん? そんなこと言われても僕は」


 工房で決断に迫られていると、例の彼が来た。


「面白そうなことやってますね、魔石の加工ですか……」

「余り無暗やたらに触らないでくださいね、危険ですから」


 しかし、僕の知ってるエルフは軒並み賢い。

 もしかしたら? という可能性を踏まえて彼に尋ねた。


「……魔石の加工はやったことありますか?」

「えぇ、魔石加工はエルフの伝統ですよ」

「キタァアアアアアアアアアアアア!!」


 神はいたッ! エロフはいたッ! エーロフッ! エーロフッ!


「唐突に大声出さないでくれませんか」

「……」

「唐突に黙らないでくれませんか」

「カインさん、折り入って頼みがあるんですが」

「ケイカクドオリ――……何ですか?」


 計画通り? うわー、本当だー。

 彼はオリビアが言った通りきな臭ぇー。

 でもいいんだ、納期に間に合うのならエロフに魂ぃを売る。


 ――三日後。


「出来ましたよイクトさん」

「……」

「後何個必要なんです? 魔石の用意さえあればあと十組は作れますが、いかがでしょう」

「いや、十分ですよ。でもそうだな、予備やサンプルとしてあと三組ぐらい作りましょうか」

「喜んでー」


 カインさんの手際はもしかしたら師匠以上の技術力だった。

 たぶん、僕の目測は間違ってない。

 彼はエルフの中でも幼年であり。

 魔石加工はエルフの伝統だとすれば、エルフ族はどういう存在なのだろう。


「それで、魔石はどこに?」

「今から生成します」

「……生成? それは駄目ですよ」

「? どうして?」

「魔石の生成は賢者によって禁じられたじゃないですか」


 ああ、彼が言ってるのは魔術師の遺体を魔石化する技法のことだろう。

 僕は見た例ないが、いささか反道徳なのは理解出来る。


「違いますよ、僕は魔石を体内で生成出来る能力者なんです」

「何ですって?」

「実は僕自身も転生者でして、魔術の腕自体はパッとしませんが」


 と言い、カインさんを見た僕は彼の表情につい怯んでしまった。

 静謐だった彼の表情は今、おどろおどろしいことになっている。


「魔石を生成? そんなことが可能だとすれば、アカシア様に報告する義務が生まれる。少なくともイクト殿は我々の手で保護しなければ奴らに拉致され、培養カプセルの中で永遠に魔石を生成し続けるための循環機能として機械化されるだろうし、そのために精神を毒蟲に喰らわせ精神崩壊は先ず間違いな」


 怖いよぉぉぉ~。

 カインさんは僕を食い入るように見詰めながら早口で怖いことを言っているぅ~。

 怖いお。


 ――ゴト。


「……まさか、本当に魔石を生成するとは、僕は貴方を見くびってました」

「このことは他言無用でお願いします!」

「何故土下座なさるのです? 安心して下さい」


 こうして、ノートンさんの依頼物は無事納品出来たのだが。


「おやすみイクト、それからジョージ」

「マリー」

「私は寝るんだよ、お前も寝ろジョージ」

「ピゴー」


 僕はその日からジョージを抱いてないと寝れない体になってしまうのだった。


ボイスパーカッション、略してボイパってありますよね?

なら、

ライトパーカッション、略してライパがあってもいいですよね?

試しに私がやってみますと。


トゥンっ、トゥンっ、トゥンっ、トゥンっ。

ドゥーン!! ドゥン! ドゥーン!!


えぇ、結果的に勢いがあれば乗り越えられるってことが判りました。

えぇ。

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