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フラグ職人とフラグクラッシャー


「でさぁ、友達が言うにはジョージにまた会いたいんだって」


 久々に三つ子を交え、僕達は二つに別れた食卓を囲んでいる。

 モモは食事中の団欒として、ジョージの話題を出していた。


「さすがはジョージ、お前は人気者だな」

「ピゴー」

「鼻が高いって? 調子にのるなよ」

「カユウマ―」


 ジョージはマリーの膝上で僕達の食事を見守っている。

 今日の晩御飯、僕は酷い差別を受けていた。


 何しろ我が家で家事を取り仕切っているのはラプラスの他ならない。

 ラプラスは先程受けた仕打ちの復讐として、僕のだけ白旗弁当にしやがった。


 今日一の屈辱を覚えた僕は、早々に食事を終わらせ工房に戻った。

 まだ今日のノルマをこなしてないんだよな、納期が迫ってるし。


「お疲れ様です師匠」

「来たかリュト、気を引き締めて集中するぞ」

「ですね、ノートンさんの依頼を早くやっつけないと」


 とは言え、手を抜けないのが完全受注制の辛い所だ。

 僕らの商売は信用で成り立っている。

 納期が遅れるほど商売相手はいなくなるんだ。


 僕はリュトと呼吸を合わせ、熱波と闘い。

 魔石のナックルガードを形作っていった。


 ノートンさんは数々の功績を上げている異色の格闘家魔術師で、渾名は魔殺しの双拳のノートン、サイラスの好敵手だと言う。この世には人類に危害を加える魔物たちが数多く居る。彼らは魔物を討伐することで見返りを得て生計を立てていた。


 生憎、臆病で安全第一の僕はジョージ以外の魔物らしい魔物を見たことはない。あったとしても五年前に襲われた人狼と、死闘を繰り広げた幽鬼族の彼女ぐらいか。


 プレンザ地方は比較的魔物の脅威はないらしい。

 魔物すらも見捨てるような不毛な大地、それがここらの土地事情だ。

 しかしそれも今や過去の話で、今度近所に新しい観光施設が出来る。


 師匠であるジーナさんは街が潤えば潤うほど、魔物の脅威も増すと言ってたから、街の代表的な立場にある僕は今後の方針を固めようかと一案に伏している。


 ◇


「おーい、起きろ二人ともー」

 は!? 白のレース! いやなんでもない。


「仕事に熱心なのはいいけど、白目剥いて熟睡するほど根詰めるなって」

 翌朝、僕は愛妻のマリーに起こされた。


 彼女が言うにはリュトと一緒になって地べたに大の字で寝ていたらしい。


「お風呂入ってこいよ、背中流してやろうか?」

「いいのか?」

「べっつにー、OKで御座いますよ」


 今朝はご褒美としてマリーから背中を流してもらうことになった。

 のだが……浴場には先客がいたようで、ラプラスが浸かっていた。

 白磁のような肌しやがって、マリーの代わりに嫉妬しちゃいそうだ。


「二人して朝風呂ですか、焼けちゃいますね」

「今朝はいい天気だなラプラス」


 他愛ないマリーの世間話に彼女は不思議そうに空を見上げる。


「そうですか? 私の目には普通の青空にしか見えません、青〇日よりですね」

「日に一度は下ネタ口にするよな」

「それが悪魔の嗜みですから」

「恭しく他の悪魔を敵に回すな」


 僕は以前の職業柄、下ネタは不得意ではないが。

 こうも堂々と口にされると、突っ込みたくなる。


「……それよりもイクト、私は貴方に謝るべきなのでしょうか」

「何を? ああ、あのことだったらもう覚えちゃいないよ」

「許してくれるというのですか? 随分と寛容ですね」


「私の旦那を舐めんなって、イクトの最大の特徴は優しい所だよ」

 マリーは石垣を背もたれにして、僕の隣で一緒に寛いでいる。


 彼女から褒められれば褒められるほど、その通りになってしまいそうで。

 これじゃあ彼女のいい傀儡ではないかという一種の危機意識が働く共に。

 内心ではやはり嬉しい。


「何気に昨日の白旗弁当、美味しかったし」

「いえ、私が仄めかしてるのは昨夜の晩御飯のことではなくて」

 何?

「私が言ってるのはリュトの童貞を貰いうけたことに付いてです」


 …………うん、別に。

 リュトだって男だ、男なんだ。

 ラプラスのことだから誘惑はしても、強〇はしてないはずだ。


「あれは、リュトが内密に私を訪ねて来た時のことでした」

「回想口調でリュトの恥を広めるなこのビッチ」


 それでもラプラスは口を噤むことなく、リュトの秘密を暴露した。

 どうやらリュトが夢精を不思議に思って、ラプラスに相談したのが切っ掛けのようで。

 僕は口々に「それなんてエロゲ?」って突っ込んでいた。


「マリー」

「ジョージじゃん、どうした?」

「ピゴー」

「きっと人恋しくなったんだよ、ジョージは」


 ジョージの生態について最近知ったのは、時折「ピゴー」と電子音のような鳴き声を上げる時は仲間を呼んでいるのだろうということだ。ジョージはこの世でただ一匹のスライムだとすれば、僕はたゆまない寵愛を向ける。


 その内、サイラスやノートンさんの手によって魔物はすべからく淘汰される日も来るだろう。その時、異世界アルビーダの人間はどう動くのか、アルビーダの住人である僕はどうしようか、今から悩みものだ。


 魔物と僕らは共存出来ないのだろうか――


 マリーに背中を流して貰い、お風呂から上がる。

 するとモモ先輩がドタバタとしていた。


「拙い拙い、遅刻しちゃう!」

「はは」

「笑うな! 後で覚えてろ! 帰って来たら心ボコってやっぞ!」

「心をボコるって表現は斬新だな、その発想はなかった」


 さすがモモ先輩、パネェす。


「お早う御座いますイクト様」

「お早う」


 モモの傍らでは三つ子がリュトを縄で締め上げている。

 スルー推奨、と僕の中のエロゲの神は言う。


「リュト、エロゲみたいな展開だな」


 そう言うとリュトは喪失感たっぷりの涙を片目から流す。


「イクト様、この悪漢の処遇を私どもに預けてくださいますね?」

「師匠、僕はただ彼女達と久しぶりに会ったから、挨拶しただけで」


 ――僕が何か悪いことしましたか。

 顔を接地させその言葉を吐くリュトが、不憫を通り越してギャグテイストに映る。


「おいラプラス、責任取ってリュトを助けてくれよ」

「えぇ……」

 このビッチ、一度寝た男には興味ありませんって反応だ。


「リュトー」

「ジョージ、危ないから離れてるんだ」

「カユウマー」


 ジョージがそう言い、マリーの許へ向かうと三つ子も後を付いて行った。

 三つ子の拘束から解放されたリュトは涙を拭いながら立ち上がる。


「……」

「リュト、もしかしてお前ってさ、三つ子の誰かが好きだったのか?」

「ごめんなさい、今は打ち明ける気になれません」


 賢者の言うことが本当だとすると、三つ子は運命を変えるような力の素養を持っている。それに対しリュトは他人のフラグをクラッシュさせるような力の素質がある。


 ことは三つ子のフラグ職人と、フラグクラッシャーによる大恋愛のようだった。


嗚呼、GWがどんどん減っていく。


残機が、残機が、嗚呼……ぇ。


私は決めました、このGWはゲーム週間にするんだって、決めました(キリ。


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