三つのG
ジョージのことでてんやわんやしていると、背後から轟音が上がる。
「全員大人しくしろ!!」
聞き覚えのある声に、僕とマリーはそそくさとジョージを救出。
そしてマリーの移動魔術で距離を取った。
「何考えてるんだあの女、武力行使してまで沈静させようとするなっつーの」
マリーの言う通りで、僕達は厄介事に巻き込まれないよう逃げたんだ。
「彼女は出逢った時から何も変わっておりませんね」
「「居たのかラプラス」」
遠巻きに大聖堂前の石段を眺めていると、オリビアが辺りを見回していた、拙いな。
「……イクト! イクトはいないのか!」
何で僕の名前を怒るように呼んでいらっしゃる?
「お腹ー」
「疲れたんだなジョージ、これでも食べて大人しくしてな」
「ありー」
「何処に居るのだ!? 我が魔剣ディアブラッドの錆になりたいのか!?」
オリビアさんぇ……どうして彼女は事を荒立てるんだ。
平和に生きようよ、平和に。
「マリー、ジョージとラプラスを連れて先に帰っててよ」
「そうさせて貰いますよ、頑張れイクト」
別れ際、マリーとキスをするとラプラスは三回舌打ちする。
そして居た堪れない空気の中、オリビアに近づき声を掛けた。
「オリビア、どうしたんだ?」
「イクトか。実は先程服を新調しようと選んでいた時に出たんだよ」
「出た? 何が」
素っ頓狂とする周囲と、一人血相を変えていた彼女との対比は事件性を匂わせていた。この時の僕はジョージの登場にすっかり危機感が薄れていたんだ。僕の中でジョージは平和の象徴だった。
「三つ子だよ、三つ子が私の前に姿を出し語り掛けて来た」
「……それは」
拙い。
賢者の言う通りだとすると、彼女達には隠された力があるらしい。
僕とマリーが決闘する羽目になったのも、彼女達の影響があってのことだと。
僕達はあの決闘を自分達の意志で選んだと思っていたんだけどな……。
「三つ子はなんて言ってたんだ」
「随分と面白そうなペットを飼い始めましたねと」
彼女達の狙いはジョージか。
なら、ジョージを連れて先に帰宅したマリーが心配だ。
「リュト、それからモモ、頼みがある」
「何ですか師匠、僕達に出来ることがあるのなら何でも仰ってください」
「悪いんだけど、ここでクロエさんが帰って来るのを待っててくれないか」
僕の頼みにモモは視線を斜めに落としていた。
「ッチ、今の私じゃ使い物にならないか。仕方ないわね」
「僕とオリビアで安全を確保するまで、帰って来るんじゃないぞ」
そう告げ、僕はオリビアの肩に手を置いて家へと移動した。
帰宅し、リビングに向かうとジョージはマリーにからかわれている。
ラプラスは今日買った食材を仕分けしつつ「お帰りなさいませ」と迎えた。
「マリー」
「お帰りイクト、オリビアの機嫌は治ったのか?」
「ああ、迷惑掛けたな。どうも最近怒りっぽくていかんな」
「ははっ、自分で言うなよ。笑っちまう」
オリビアは僕に目配せし、三つ子のことは伏せようとしている。
何故だ? と、彼女に耳打ちするように訊いてみた。
「……気配を感じるからだよ、奴らの」
「気配?」
「さすがで御座います」
その時、三つ子から僕達に語り掛けて来た。
僕とオリビアはすかさず身構え、周囲を警戒した。
「ピゴー?」
「どうしたジョージ」
マリーの耳には彼女達の声は聴こえてない?
「イクトも何やってるんだ?」
「マリー様に我らの声は届かないようにしてありますので、どうぞご安心を」
僕らが急に戦闘態勢を取ったからか、リビングは静寂に包まれる。
しかしラプラスは我関せずと言うかのように料理し始めた。
恐らくトンカツ定食なのだろう、豚肉を包丁の背でダンダンと叩いている。
「ラプラス、ちょっと手を止めてくれないか」
「何故でしょう」
「五月蠅いから」
と言えば、ラプラスは豚肉の処理を諦めてキャベツを千切りし始めた。
「ラプラス、とりあえず今は止めてくれないか」
「じゃあ私はどうすればいいのです? イクトの下処理でもすれば宜しいので?」
「イクトの下処理は私の役目だろうな」
ビッチ! お前のせいでマリーの口から爆弾発言が飛び出ただろ!
秘密裏に緊迫しているのに、僕のリビドーは著しく昂ってしまった。
「ならここは折衷案として、三人でしっぽりと」
だからヤメロビィィィチッ!
「クリス、エヴァ、エーデル、今回は何が目的だ」
卑猥な空気に堪らなくなった僕がそう問い質せば。
三つ子は正面切って現れるように、リビングの鴨居をくぐる。
「「「とりあえず、お腹が空いたのでご飯を食べさせてください」」」
「ふざけるな! 貴様たちのせいでどれだけの悲しみが生まれたと思っている」
オリビアは怒声を荒げ、三つ子を叱咤する。
「我らが何かしたとでも仰りたいのでしょうか」
「敬愛するオリビア様達の心の安寧を乱すような真似は致しません」
「何を吹き込まれたのか知りませんが、余り賢者を信用しない方が宜しいのでは?」
「だ!」
まれと、再度三つ子を叱責しようとしたオリビアを僕は手で制止した。
制止したんだけど……弾みで彼女のおっぱいに触れてしまい、今は妙な気持ちだ。
「確かに君達の言う通り、あの人は余り信用出来ない」
この状況で敵勢のような三つ子の意見に加担するほど、賢者は幽玄としていた。
――彼は末恐ろしい矛盾感を抱えている。
例えば愛を口にしながら恋人の首を絞めるかのような、そんな印象だった。
だからと言って彼が根も葉もないことを吹き込むとも思えない。
これは賢者と実際に対峙した僕にしか理解出来ないだろうけど。
「いいよ。僕達と一緒にご飯にしよう」
「「「ありがとう御座います」」」
僕の認可を得ると、三つ子はそそくさとジョージに近づく。
その足取りはまるでGのようだった。
萌え萌えー、あげぽよー、くぱー(挨拶の意)
世界で一番長い挨拶って、存外日本語だったりしないかなと思う今日この頃。
日本って挨拶に気合い入ってますよね、夜露死苦だとか。




