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素晴らしき恩寵よ


「誰?」

「我々に御座います、オリビア様に仕える三つ子の」

「クリス? エヴァ? それともエーデル?」

「然様です」


「……幻聴じゃ、ないんだよな」

「然様です」

「っ! どこにいるんだ!? それとも君達も転生者だったのか?」

「それは違います、我々はアルビーダの者ですから」


 よし……よし!

 何か知らないが、僕はアルビーダとコンタクトが取れている。

 このチャンスを逃す手はない。


「君達はどうやって僕に語り掛けてるんだ、マリーと」

 話がしたい。

 彼女と、もう一度会って、果たせなかったサイラスとの約束を――


「イクト様、貴方はこの先こちらに来ることはありません」

「それがお二人の運命だったのです」


 運命……?

 僕はつい「馬鹿げてる」と零し、三つ子の話に耳を貸そうとしなかった。


「マリーと話しがしたいんだ、頼めないか、一生のお願いだ」

「何を話すおつもりですか?」

「まさか我々の素性について打ち明けるつもりなのでしょうか」


「この際君達が何者かなんて問わないっ! 頼むから……マリーと」


 マリーと、もう一度、――を。

 僕はただそれだけを叶えるために、命を差し出した。

 三つ子に懇願すると、彼女たちのせせら笑いが周囲にこだまする。


「君たちの目的は何だ?」

「私たちは運命を司る者ですから」

「イクト様には大変お世話になりました」


 なら、少しぐらい融通してくれたっていいじゃないか。


「今宵、イクト様にお声掛けしたのは我々の児戯に御座います」


 児戯だと……!

 僕の記憶に残ってる三つ子はとても誠実な娘たちでしかない。

 なのに今は、僕の心を惑わす小悪魔のように痛烈で。

 僕は、姿を一向に見せない声に向かってがむしゃらに暴れ狂った。


「何をやっているのですか、笑いが止まりません」

「……マリーと、会わせてくれよ、マリーと」


 ――を。


「君は本当に家の孫娘を愛してくれているようだ」

「嗚呼、やっと御出でになりましたね賢者」


 すると、突如として彼が現れ、その場の空気が一転した。

 怖気と言うには余りにも頼もしく。

 驚愕と言うには余りにも畏れ多い空気へと変わり。

 見っとも無く取り乱した僕の嘆く姿は無価値なものだと自覚させられる。


「……」

「放心する必要はない、私は君と同じ人間だ」

「我々は貴方に用がある」


「私は君らに用はない、無論、イクト殿にも特だった用はない……が」

 ――しかし、君の存在を軽んじるわけにはいくまい。

「何故なら君は孫の恋人だ、孫も君を失って泣いていたよ」


「よく言いますね、人間に興味関心を失ったからこそ貴方は世界中を放浪している」

「それもアルビーダとは異なる世界にまで足を延ばして」

「冷血で人畜無害な貴方を、我々が上手く使ってあげましょう」


「立ちなさい」

 賢者ブライアンは三つ子の発言を意に介してなかった。

 彼が僕に手を差し伸べると――――ッ。


 周囲の木々が一斉に切り倒される。

 これはマリーが得意としていた魔術の一つ、ストームカッターだ。

 恐らく三つ子が仕掛けた魔術だろう。


「止めろクリス、エヴァ、エーデル!」

「放っておきなさい、彼女達は素質はあれど、無力に等しいよ」


 彼は僕の手を掴んで引っ張り、僕は恐る恐る立ち上がる。

 依然三つ子の攻撃は続いているようだ。


「……」

 彼、賢者ブライアンの瞳は不思議な温かさに溢れると同時に。

 彼の瞳は僕を侮蔑しているような両価感情を抱いているようだった。


 彼は酷い矛盾をかかえている、存在しているのか、してないのかはっきりしない。

 僕が彼に覚えた印象は――神との対峙。という、真しやかではないものだった。


「帰ろう、私と一緒に」

「っ」

 彼の御心に、僕の感情は決壊して、両眼が涙で溢れかえる。


「行こうか、それともこのまま地球で生きていくのか」


 この時の僕は感激で上手く言葉を紡げなかったけど。

 恐れることなく、彼の手を取ったんだ。


 ◇


「いい加減飽きないの? 来る日も来る日もアメイジンググレイスばっか要求するけど」

「いいんで御座いますよ。アメイジンググレイスを聴いてるとさ、癒されるんだ」

「……まぁ、そう言うのなら。ではご静粛に願います」


 王都の大広場の一角は人で溢れかえっていた。

 リュトから聞いた話によると、ここに居たほとんどの人が元は奴隷だった。


 リュトは僕との再会に泣き声を零していた。

 リュトは内罰的に自分を責め、嗚咽を吐きながら何度も謝って。

 僕は彼が泣き止むのを待ってから、マリーの居場所を聞き出した。


 彼女は来る日も来る日も、ここでアメイジンググレイスを聴いているようだ。


「……、退いてくれ」


 彼女は来る日も来る日も、ここで神の恩寵を聴き、懺悔しているようだった。


「退いて、くれ!」


 人垣を多少強引に押し退けて、マリーの許へと近づけば。

 彼女は僕の声を耳に入れ、呆然とした様子でこちらを振り向く。


「イクト……なのか?」


 どうしてと言いたそうにしていた彼女の唇を、僕の口で塞ぎ。

 一年前は果たせなかったサイラスとの約束を、――キスを契る。


 マリーと離れていた一年間、僕は息を止めるように生きていた。


 窒息感は絶えず僕を苛め、次第に心は端から壊死していった。


 彼女ともう二度と会えない、彼女ともう二度と――キス出来ない。

 

 その失意は蚯蚓腫(みみずば)れの傷跡を僕の心に残し、酷く無気力にさせてくれたよ。


 死した心の梢はもう蘇らないけど。


 僕達は神の恩寵を分け与えるようにこうしてキスをしている。


 彼女と初めて会った時のことを考えると、運命という言葉も卑下出来ない。


 音楽団が奏でるアメイジンググレイスが、僕と彼女の再会を祝福するよう心に響く。

 

 そしたらマリーは泣き始めた。


 彼女が流した涙に感応し、追随するよう涙を零しては想う。


 僕が死ぬ場所は君の隣であり、僕が生きる場所は君の隣なんだ。


 僕の居場所は、君の隣なんだ。


 それこそが、僕が神より賜った人生最大の恩寵。


 神が賢者を遣いにして、与えたもうた恵みだった。



と言うことで、恩寵編はここで終わりとなります。

拙作をお読みくださった読者様に他愛ない一言を口に致しますと。

偶には神の存在を信じてみると、気持ちが楽になったりしますよ。


僕にとって現実は苦しく、辛く、時に儚く。

ニーチェが言うように神は死んだと思ったりします、ですが。

それでも時々は良いことがあります。


苦しみに抗い、立ち向かうのも大切かと思いますが。

人生の清濁を踏まえてアメイジンググレイスを耳にすれば、自然と神の恩寵を感じられると思います。

読者の皆様も、偶には神を信じてみませんか?


私はどちらかと言えば無神論者ですw すいやっせwww


PS

次章はイチャイチャ成分が足りないという弊社の声に御応えして、日常回となっています。

章のタイトルはずばり――『追放 編』で御座います。

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