すっかり変わられた宿敵二人の御姿
「貴方がロキ王子なんですか?」
ロキ王子の意外だった現世での姿を見て、声が裏返ってしまう。
彼は向こうに居た頃とはだいぶ外見が見劣りするし。
「失礼ですけど、ロキ王子は今おいくつ何ですか?」
「今年で五十三になりますね」
「じゃあガトーさんは?」
ガトーさんは相変わらずスマホを弄って、ガムを噛んでいる。
堅実だった彼のイメージとは随分かけ離れていやしないか。
「俺は今年で二十……二か三」
「二人とも向こうとは印象が違うんですけど」
そう言うと、ロキ王子は朗らかに笑った。
「はっはっはっは、イクトくんは面影がありますね」
「つっても、ロキが言わなければ気付かないレベルだけどな」
「……お二人は、無事こっちに帰って来られたんですね」
だが、二人の帰還を僕は良かったとも、逆に嫌悪することもない。
僕が一番ショックなのは、マリーの傍に居られないことである。
僕は手にした発泡酒に口を付け、あの時の疑問を想起した。
「お二人に、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
「何でしょう?」
「……あの時の決闘は、僕らが負けたのでしょうか?」
と問えば、二人の表情から色が消えた。
二人がここに居る、ということは僕らが負けたのは間違ってないだろうけど。
「僕とマリーの大将戦は、どうやって決着したんでしょうか」
「あれは史上稀に見る激闘でしたね」
「俺らもあんま覚えてないんすよ、何しろ一年前の出来事っすから」
じゃあ。
「マリーは五体無事なんでしょうか」
「えぇ。お二人の死闘は劇的に、鮮やかに終わりました」
「あの後、俺達は計画通りリュトを甦らせた」
「その次にマリーさんは貴方を甦らせる手筈だったのですが」
「しかしそれは叶わなかった、そしたら彼女は自分の無力さから涙してたよ」
そもそもが、そもそもの話で。
二人はどうしてマリーを拉致するという暴挙に打って。
どうしてリュトを死なせた。
すると二人は僕に異世界アルビーダに隠された憶測を幾つか話してくれた。
複数にわたる億説には、真実も隠れていたのだろう。
「私達はそれを証明するために、ああしたんです」
「あっちで一番権力を持っていたのは部長っすから、悪いのは全てこのハゲっす」
ハゲ言うな。
ロキ王子もそうだけど、ガトーさんの人の変わりようがやはり驚愕だった。
「イクトくんはあの世界に帰りたいのですよね?」
「何か方法があるんですか?」
「いえ、私達に解決策を打診することは出来ません。ですが」
世にはこんな諺がある、捨てる神あれば拾う神あり。
僕は異世界アルビーダから運命的な力によって追い出されたけど。
「どうでしょう、一時の間だけ私達と一緒に働いてみませんか?」
と、彼らから打診される。
有難い話ではあるが、彼らは僕を貶めた張本人だ。
けど、今はその意識も希薄になっている。
「私達と共に働きつつ、この世のどこかに居る賢者を探せばいいのですよ」
「部長、俺はもう関わりたくねぇんすけど」
無性に酔いたくなって来た。
酔って、夢幻でもいいからマリーの姿を見たい。
そう思わせたのは異世界アルビーダでの知人だった彼らとの邂逅だ。
「じゃあ、景気付けに今日はとことん飲みませんか」
「おぉいいですね、実にいい」
「俺は帰りてぇんすけど、まぁいっか」
二人との再会は、去年の今頃よりは進展があったのかもしれない。
去年の今頃の僕は、サイラスとの約束を果たせなくて、ただ悲嘆するだけだったからな……。
僕がサイラスと交わした約束は、世に溢れた拙い願いのようなもので――
◇
「イクト、試合前に俺と約束しないか」
「約束?」
オウム返し調に問うと、サイラスは力強く頷く。
「お前の願いを言ってみろ、内容次第では俺がお前の代わりに」
この時、僕はもうクロエさんの固有魔術によって命を対価にしていた後だった。
剣にその一生を捧げるような無骨な男が、友人に恵まれているはずもないだろ?
だからサイラスは数少ない友である僕にそう打診した。
「僕の願いは、一時の間だけでもマリーと一緒に過ごすことだよ」
それで、彼女を救い出した暁には、僕は彼女と睦み合うよう交わすんだ。
と言えばサイラスは。
「必ずその願いを叶えてみせろよ、これは俺とお前の、約束だ」
死に行く僕を声援するように、勇ましい笑みを湛えた。
◇
サイラスとの約束を果たせなかった未練、マリーを残し独り寂しさを募らせている空虚な気持ちを、今僕はロキ王子達と酌み交わした酒によって紛らわしている。
「イクトくん、君には係長の席をご用意しまweよ」
「ちょ、したら俺よりも偉くなっちゃ、we、だろ」
「僕は正社員待遇で福利厚生がしっかりしてればそれでweーです」
誰が言いだしたか定かじゃないけど、僕らはweweと口にしている。
これは会話が弾まない防止策らしく。
会話が止まれば、僕達は「we?」「we~」「weーweーweー!」と言い、乾杯しあって酒を煽った。
「……あー、俺もう、駄目」
「しっかりして下さいガトーくん」
「……キモチワル、ちょっと席外しますわ」
「平気ですか? ちょっと彼が心配なんで付き添って来ますね」
ロキ王子はこっちだと部下想いのいい上司っぽいな。
留守番を頼まれた僕はちびちびと酒を啜り。
つまみの乾物を齧りながら、目前に広がる夜景を少し畏怖している。
「……」
「イクト様、そのような所で何をしていらっしゃるのです」
するとその時、聞き覚えのある女声がした。
この声は、僕とサイラスを惹き合わせた例の声だった。




