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オリビアの背中


 ラプラスはそのまま第二試合に出場させた。

 遅かれ早かれ負けるのなら、極力早い方がいいだろう。


 マリーを懸けたこの状況において不確定要素は取り除きたいから。


「参りました」


 ラプラスは試合開始と共にそう告げ、恭しく頭を垂れる。

 場内から様々な顰蹙が飛び交うが、彼女は毅然と帰って来る。


「まったく、これだから大衆心理は嫌いなのです」

「潔い奴だな貴方は」


 サイラス、男である君が迂闊に彼女に話し掛けちゃ駄目だ。

 そうは思いつつも、僕は次の試合をオリビアに託した。


「任せろイクト、私は義に篤い人間だ」

「騎士道って奴か?」

「……違うな。私はお前の友人として、報いたいのだ」


 それはたぶん、僕が彼女と一緒に幽鬼族を討伐した恩から来る言葉だった。

 と言っても、彼女の祖国は今亡くなったに等しい。

 バルバトス三世が退陣した後、あの国ではラプラスの予言通り内紛が起きている。


 オリビアは祖国の状況を知り、しばらく室内に籠っていたことがあった。

 あの時マリーは放っておけと言ってたけど、ある日のこと――


「寝る間も惜しんで、毎晩何やっている」

「何をって、努力だよ」

「努力とは?」


 彼女は部屋から抜け出て、工房で研鑽していた僕の許へとやって来た。


「何だかんだで、僕はこの先マリーだけじゃなくみんなを養って行かなきゃならなくなった。だから努力する。みんなが散り散りにならないように、僕に出来る限りのことをするって今は思ってるんだ」


「商売相手が欲しいのなら、マリーに頼めばいいだろう。あいつの貴族特権を利用すればいい」

「酔ってるのか?」


 と言うと、彼女は酒気を纏って僕に近づく。


「軍学校を卒業して以来、久しぶりに飲んでしまった。お前も一杯どうだ」

 彼女が差し出した杯を素直に受け取り、葡萄酒に口を付ける。


 僕もお酒を飲んだのは前世以来だ。と言ったのが奇遇だったのか。


「前世?」

「言ってなかったっけ? 僕は前世の記憶を持ってるって」

「それは面白い。お前の前世の話を一興として講じてくれないか」


 そこで僕は彼女に前世の話を打ち明ける。

 彼女は僕の話に神妙になったり、相槌を打ったり、時には疑問を投げかけた。


「……イクトは、私が母を目の前で失ったことは知っていたか?」

「知ってる、何となくだけど」

「私はあの光景を今でも覚えていてな、時々夢にまで見て魘される」


 オリビアが話している経験は彼女が十歳の頃の出来事だったはずだ。


「私の目の前で、母は幽鬼族のライフドレインで生命力を奪われ、死んだ。私の母は美しい人だった。正に一瞬の出来事だったが、あの美しかった母上が徐々に干からびて行く様は、何とも言い難いほど残酷だったさ」


 すると、酒に酩酊したのか、それとも気分が沈んだからか。

 彼女は視線を地面に落とし、片膝を抱える。

 それは、もう変えられない過去と葛藤している感じにだ。


「母も、今頃地球か、他の世界に転生しているのだろうか」

「その可能性は十分考えられる」

「……出来れば、母にもう一度会いたい。会って、っ、謝りたい」


 オリビアは嗚咽を吐き、今は亡き母親を偲んでいる。

 それが彼女の心からの願いだと知った僕は、少し思案した。


 そして思い出した、彼女が探し求めていた秘宝アスタリスクは一説だと死者を甦らせることが出来るということを。


「……もしかして、君が秘宝アスタリスクを求めてたのは、お母さんを甦らせるためだった?」

「かも知れん、だが、故郷の窮状を救いたかったと言うのは紛れもない」


 でも秘宝アスタリスクはこの世から消滅してしまった。

 だから彼女は僕の話に夢中になった。


「私はもう寝る、今日は貴重な話を聴かせてくれてありがとう」


 すると彼女は涙が止まらないまま、そう言い席を立った。

 ふらふらとその場を去る彼女の背に僕は少しでも希望を持たせたくて。


「いつか、君がお母さんと再会出来るよう頑張るよ」

「……その時は、お前に心も身体も許してやる」


 それ以来、オリビアは部屋に引き籠るのを辞めた。

 彼女は少しでも前進して、一日でも早くその日が来るよう僕と共に切磋琢磨しあった。

 彼女が僕を友人と認めたのは、あの時から間もなくしての頃だった。


 ――だから知っている。

 彼女の努力と、挫折を乗り越えた成長を僕は知っている。


 オリビアは決闘の舞台に立つと、予想外の敵に驚嘆することなく剣尖を向けた。


「貴方がそこに居ようが居まいが関係ない、私はただこの試合に勝利するのみ!」

「ご機嫌麗しゅう、亡国の姫君。貴方を拝見して以来、そのご尊顔を忘れたことはありません」


「カガト……あの人が敵に居ると知っていれば、全力で戦ったんですけどね」

 彼の登場にラプラスは先程の失態を後悔するような声音で言った。


 カガトさんが強敵なのは僕も知り得ているけど。

 僕はこの試合、オリビアが勝つ予感がしていた。


 それは彼女の背中から感じる強い想いに得た自信だった。



予約投稿にて失礼します。

昨夜からお腹がぼんばばぼんになり、早めに就寝しています故。

無礼とは思いますが予約投稿で上げさせて頂きます。

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