これで何とかなりそうだ
サイラスの面持ちを見るだけで、僕は失した心の独白を埋めている。
マリーは僕にとってどれほど大きな存在だったか、失ってようやく解かった。
「それで、修行はいつ始める」
「その前に。師匠、彼を連れて来てくれてありがとう御座います」
師匠であるジーナさんにお礼を言い、僕は頭を深々と下げると。
彼女は何かを享受したかのように息を吐く。
「まぁ、マリーとお前のことだから今回も何とかなるだろうさ。しっかりやれよ」
「はい」
立ち去る師匠の激励を受けた後、僕はサイラスを家に招いた。
「広いし、格式も高そうで、いい家だ」
「広いのは認めるけど、格式に関しては見せかけだから」
「クロエ、目に入ったものを手当たり次第に触るなよ?」
クロエ、サイラスの奥さんの名前はクロエと言うのか。覚えておこう。
彼女はサイラスの注意に首を縦に振っていた。
彼女は朴訥とした人柄のようだ。
「玄関から向かって左が工房で、右が居住区だから。出来れば工房の方には入らないで欲しい」
「ああ」
彼らに家の説明をし、居間に通して二人にお茶を持て成す。
サイラスは夢の中で味わったままの口あたりだと言う。それで、
「二人はここにはどうやって来たんだ?」
「それはイクトが決闘に勝った暁に教える」
「……」
どうやら彼の屹然とした性格は筋金入りの代物のようだ。
僕は覚悟を決め、サイラスに促されるまま修行の準備を終えた。
「君が僕を三日間でこの世の誰よりも強くするといった言葉を信じるよ」
「それはイクトの気力次第だけどな、じゃあ始めよう」
何故、彼は僕の気力次第と告げたのだろう?
その疑問は彼がクロエさんに指示した魔術を体感することによって判明するのだけど。
「……サイラス、ここは?」
「簡単に言うと、ここはクロエの精神世界だ」
「クロエさんの精神世界?」
「クロエは魔術の申し子と謳われるほどの天才だ」
僕達は今名も知れぬ森林の中にいる。
朴訥なクロエさんらしい心象風景だ。
「俺は長きに亘り、クロエの精神世界で修行を積んだ。結果、魔術適性のない俺はあらゆる魔術を剣術によって屈服する技を身に着けるに至ったんだ。魔を斬り、魔を断ち、魔に打ち克つ。俺がその禁域に至るのに百年余りの時を要した」
OKだ。
以前地球人だった僕はサブカルの造詣が深いから。
ここが、どういう場所なのかもう既に理解している。
アレだろ? ここは外界と時間の進みが違う。って奴だろ?
「サイラス、試しに僕と君との力の差を知りたいんだけど、模擬戦しないか?」
「つまりはそういうことだイクト、お前はここで俺と戦い続け、勝機を見出すんだ」
らしい。
僕と彼の力量差は推して測るまでもなさそうだけど。
けど、二日後に控えたマリーを懸けた決闘は、これでどうにかなりそうだ。




