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ちょっと友達に会いに行ってくる


「地球で? 僕はそんな覚えはまったく」


 まったく……ないこともないか。

 そう言えば同窓会に向かう前、僕は妙な老人と会っていた。


「だからさ、俺達が賢者の孫娘を拉致ったのは」

「復讐のつもりだったりするのか」

「言っただろ、地球に還るためだ」


「……確かに王子達が言うように、僕らに接触した老父の正体が賢者なら、動機は分からなくもない」


 僕は彼らの心中を慮り、彼にそう告げた。

 けど、彼らと僕とじゃ徹底的に違う点がある。


「けど、僕は地球に還りたいなんて一片たりとも思ったことはない」

「そうか、理由は知らないがお前は俺達の邪魔をするんだな」

「貴方達が僕から彼女を奪ったんだ! 邪魔してるのはそっちだ!」


 交渉決裂、と言うよりも、初めから交渉になっちゃいなかった。

 僕はこの世界を愛着してるのに対し、彼らは地球への帰還を望んでいる。

 僕と彼らが対立するのは逃れられないことだったのかも知れない。


「怒るなよ」

「……そうですね少し冷静になって話し合いましょう」


 彼らがこのような横暴に打って出るのなら、僕にも考えがあった。


「貴方達が僕からマリーを奪うと言うのなら、僕は貴方達から地球を奪う」

「大ぼら吹聴するにしても、もっと現実的な内容にしろよ」


 王子は僕の挑発にちっとも動揺してない。

 手の内を見透かされてる相手というのは、やり辛いな。


「悩んでるようだな。そこで俺からお前に提案がある」

「提案?」

「俺達とお前達で、賢者の孫娘を懸けて決闘しよう」

「……決闘?」


「決闘場所と日時は?」

 王子からの提案を反芻すると、背後にオリビアが佇んでいた。


「三日後の午後三時、場所はコロッセオで」

「いいだろう、もしも我々が勝てばマリーの身柄を返還してもらう」


「オリビア、勝手に決めないでくれないか」

「臆病風に吹かれて愚鈍な振る舞いをしてる抜け作は黙ってろ」

 

 物凄い言われようだった。

 王子はオリビアのきつい物言いに笑い、席を立つ。


「一つどうでもいいことを聞いてもいいかな」

「何だよ」

「王子の地球での名前は?」

「ん? そんなの知ってどうする。もしも決闘時刻に間に合わなかったらあの子は好きなように使わせて貰うからな」


 僕はこの時決心したんだ。

 彼らとは判り得ないと知った僕は、彼らを――許しはしないと。


「怒りに駆られるな、冷静さを欠くと痛い目見るのは自分だぞ」

「何で向こうの言うことに応じたんだ」


 これは僕なりの彼女を諫める言葉だった。

 敵が申し出た決闘なんて土台、敵側の都合だ。

 そこには必ず敵の目論見があると言ってもいいだろう。


「それは、打つ手がなかった私達に取ってチャンスだと感じたからだ」


 オリビアは考えた結果ではなく、そう感じたから応じたのだと言う。

 考えた上での行為であれば、彼女の考察を論破出来たかも知れないのに。


「卑怯な言い方だな」

「そうか? 何にしろ、お前はマリーを取り戻したいのだろう?」

「無論だ」

「期待しているぞ、今度こそお前の真価を見届けてやる」


 と言い、オリビアもまた席を立つ。


「君は戦いに飢えてるだけだろ」


 店を後にしようとした彼女の背に向けて、僕は少しの反抗心を示したものだ。


 ◇


「嫁さんを懸けて決闘か、俺も一回経験したことがあるな」


 その日も、僕は夢の中で誰かに呼ばれ、亜人の剣士サイラスと落ち合った。

 どうやら彼にも嫁のような存在が居て、その人のために決闘したことがあるようだ。


「その決闘には勝てたの?」

「勝つことには勝ったが、遺恨も生まれた。俺はその遺恨を断ち切りたい」

「……そうだよな。勝負事に禍根は付いて回る」


 僕は、どちらかと言えば劣等生だ。

 誰かに負けた時の屈辱や、無力感、そして嫉妬をかつて覚えた。


 ロキ王子達は許し難いけど。

 今回の決闘に関して消極的な理由はそれだったと思う。


「もしも腕に自信がなければ、俺を頼れ。三日間でお前を誰よりも強くしてみせる」

「ありがとう、そう言ってくれただけでも嬉しいよ」

「俺は本気だぞ」


 え?

 僕は夢の中の彼に、一応までに確認を取った。


「これって夢だろ?」

「夢だけど、夢じゃない」


 とサイラスは言い黄金色した麦の穂先を手で撫でる。


「……夢であるが、夢じゃないんだ」

「なら、君の力を借りたい」

「俺は東方諸国の一つ、ジパングに居る」


 ――お前に会えるのを楽しみに待っているぞ、イクト。

 そしてその夢から醒めた。


 夢から醒めた僕は先ず顔を洗い、歯磨きをした。

 鏡を見ると、寝ぐせが目立ったからそのまま朝風呂に浸かる。


 浴場から聞こえる麦畑のさざめきはいつもと変わらず嫋やかな音色をしている。

 お風呂から上がった後は、身支度を整えて身辺整理も済ませた。


「お早う御座います師匠、どこかへ行かれるおつもりですか」

「リュト、僕は二日ほど家を空けるけど、この家を任せていいか」

「どちらへ?」


 弟子であるリュトの顔色を見ると、余り心配してる素振りない。

 奴隷上がりの彼は心身共にたくましくなってくれたようだ。

 僕はリュトの成長を喜んだ上で、彼に行き先を告げた。


「ちょっと友達に会いに行ってくる」



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