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賢者との接点=?


「ロキ王子に会いたいだと? 紹介状は?」

「王子にお伝えください、家のマリー・ルヴォギンスがお世話になっておりますと」

「……」


 僕はラプラスと共に王室の邸宅前へとやって来ていた。

 時間としては斜陽がオレンジ色に燃えつつある頃合いだった。


「あの?」

「紹介状がないものを邸内に通す訳にはいかん、帰りなさい」


 っ――僕からマリーを奪い去った癖に。

 彼らも仕事とは言え、この対応は癇に障る。


 だから僕達は門番が通せんぼしている場所からちょっと距離を取った。


「どうすればいいと思うラプラス」

「無駄ですよ、彼らには色仕掛けは効きません」

「以前試したことがあるって言い振りだな」


「えぇ、ですがおかげでいい情報を仕入れました」

「隠し通路か何かあるのか?」

「よく分かりましたね」


 王室の門番に色仕掛けをして、どうやってその情報を聴き出したのだろうか。

 ひょっとしたらラプラスはスパイの才能がある。


「――マテリアルアナライズ」

 とは、僕がジーナ師匠から習った鍛冶屋の基礎魔術で。

 対象物質の構造解析ができると言った魔術だ。


 この魔術を習得するのは楽しかった―――


「いいかイクト、私達の世界では魔力を帯びている物質がある。単純に無機物相手であればCランクでも事足りるが、だがお前が相手にするのは魔石。一筋縄ではいかないだろう」


 僕にマテリアルアナライズの説明をしてくれた爆乳は偉大だった。

 あの爆乳は僕に高ランクのマテリアルアナライズの魔石をプレゼントするんだ。


「決して悪用するなよ?」

「とりあえず、どう言ったものか師匠でテストしてみてもいいですか?」

「悪用するなと前言したはずだが?」


 この魔術をまだ爆乳の爆乳に使ったことはない。

 マリー相手になら幾度か使わせて貰ったことがある、トゥフフ。


 ――そして。


 今僕はその魔術を邸宅の付近に使ったんだけど。

 隠し通路の形跡はどこにもなかった。


「ラプラス、騙されたんじゃないか?」

「所詮、下手人ですよ。ですが隠し通路がないと決めつけるにはいささか早いかと」


 マテリアルアナライズで判ったのは、この邸宅のセキュリティの高さだった。

 邸宅全体には結界魔術が敷かれ、周囲の地面下の土にも魔術が施されている。


 人に翼がない以上、僕達の動向は地を伝って把握されているな。

 マリーであれば魔術を使って即座に助け出しそうな場面だった。


「どうなさいますか?」

「……ジューク王とは面識がある、その伝手を使った方が早いかな?」

「いかようにでも、判断は貴方にお任せいたします」


 敵の狙いがはっきりとしないのが痛い。

 無力感と、一抹の不安と、焦燥感をない交ぜにした負の感情を抱え、僕は邸宅前から踵を返した。


 ラプラスは三歩遅れて僕について来ると。


「どちらへ?」

「邸宅に張られている結界魔術は絶界陣だ。この中にマリーが居るのはほぼ間違いないよ」

「でしたら」

「言っておくが、僕は諦めたんじゃない」


 ただ、今後のことを考えると強行策に打って出るわけにもいかない。


 仮にここで門番を倒し、結界魔術を強引に解除して敷地内に侵入したら、恐らく僕はそれを理由に王政の奴隷になり、一生タダ働きだ。今まで培ってきた僕の魔石工房の評判を地に落とすことは出来ない。


 ならここは奇策が必要だ。

 偶然的、あるいは蓋然(がいぜん)的、もっと言えば必然的に王子に謁見するための策が。


 王室の邸宅前で張っていても、その策は講じられない。

 ラプラスを連れて家に帰った僕はリュトやオリビアに事情を説明した。


「連れ去られただと?」

 オリビアは今回の事件を訝しがるように片眉を吊り上げる。


「一瞬の不意を突かれた、そこでリュトに頼みがある」

「何ですか師匠」

「クリス達と一緒に、情報を集めて来て欲しい」


 仕事が詰まっているリュトに、作業の手を止めさせてまでそう依頼した。

 リュトは事の重大性を推し量るように真剣な表情になる。


「そのくらいお安い御用ですよ」

「ありがとう、頼んだぞ」


「その間お前は何をするつもりだイクト」


 脳裏に浮かんだ選択肢は三つ、その内の二つは恐らくバッドエンド。

 マリー消失エンドか? 王家の奴隷エンドか? いや違う。


 僕は何としてでも、マリーを取り返すんだ。


「大変です師匠!」

「どうしたリュト」

「ロキ王子の所在が判りました!」


 僕が凶兆なフラグを盛大に立てていると、リュトがそのフラグをへし折った。


「彼はどこに居るんだ」

「斜向かいの飯屋でラプラスさんと食事してます」


 ……。

 今一瞬、僕はラプラスに対し複雑怪奇な心境を抱いたが。

 とにかく、これは千載一遇の好機なのは間違いない!


「ロキ王子」

「ん? 確かお前は」


 僕達の家の斜向かいにある飯屋『リストランテプレンザ』に向かうと、本当にロキ王子が居た。僕は彼に対し静かに頭を垂れ、単刀直入に本題に入った。


「僕の妻であるマリー・ルヴォギンス、彼女を返してくださいませんか」

「……賢者の孫娘、どんな人かと思えば、可愛いよな」

「はい、自慢の家内です」

「畏まることはないぜ、俺達は同じ星の出身じゃないか」


 やはりか。

 ロキ王子もまた僕と同じ転生者だったらしく、彼は僕に顔を上げさせた。


「そんな顏するなよ」

 僕は今一体どんな顔をしていたのか、自分でも分かってなかった。


「そんなに期待されても、彼女は返してやらないぜ?」

「……何故彼女を誘拐したのです」

「地球に還るためだ。そのために俺達は賢者の孫娘を拉致った」


 すると彼は「後、敬語を使う必要ない」と言い、僕を対等な立場に引き上げた。

 僕は彼の対面に座り、店主が持って来たアイスティーに口を付ける。


「地球に還る方法と、マリーにどう関係が?」

「覚えてないのか?」

「何をです」


「なら説明しよう。俺達転生者には一つ共通点がある」


 ロキ王子は王族に似つかわしくないほど野性味溢れる出で立ちをしている。

 その彼の眼光に気圧された訳じゃないけど、僕は彼の口上に少しドキッとした。


「異世界アルビーダに転生した人間は全員――地球で賢者ブライアンと接点を持っていたんだ」

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