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嗚呼、なるほど

読者の皆様へ、風邪が治ったと思っても油断してはいけません。

風邪は体内の奥深くに潜み、再起を目論んでいるのです。

私は風邪の目論見に気付けず、またぶり返しました……。


「爺さんの遺体はどこにあるって?」

「それが、ブライアン様のご遺体は人狼の支配下にあるとされる東方の国にあるようでして」


 リュトは事を極力秘密裏に進めたがるよう目を細めていた。


「リュト、その話、どこから仕入れた?」

 マリーは訝しがるように情報の出所を探る。


「奴隷商店に居た奴隷から聞いたのです」

「……嘘だと思うぞ、爺さんは確かに死んだらしいけどさ」


 そもそもがそもそもの話で、マリーの祖父である賢者ブライアンが亡くなっているという噂はいつ頃から広まったのだろうか。まさか国が伝え広めたわけじゃないだろう、仮にそうであれば余り得策とは言えない。


 と言うか、賢者は本当に死んでいるのか? 僕はそこが疑問だ。


「それにお前も飽きないね。奴隷出身だからってまたあそこに行ったのか」

「僕の宿命ですから。一刻も早く、この国の奴隷制度を廃止させます」


「どうするんだマリー? 祖父の遺体は放置するのか?」


「私にはどうしようもない。何故なら世界を救ったとされる賢者の遺体には様々な伝説が残されている。例えば――賢者の魔石。これは爺さんの死後、その遺体から生まれるとされている。私は賢い人間だから、例え肉親が死んでも危険には一切近づきません」


「例えば、僕とマリーの間に孫が出来たとするだろ?」

「出来ちゃったか、それで?」

「その時、君は孫に君同様の態度を取られたらどう思う?」

「死なっす」


 ですよねー。

 出来れば自分の子孫ぐらいからは愛されたい 190(いくお)


「したら何だね、イクトは私に爺さんの亡骸を回収して来いって?」

「僕も一緒するからさ」


 勿論、彼女に付いて行くといっても僕は高確率で足手まといになる。


「頼もしい、それでこそ私のイクトですね」

 けど彼女はそんな僕を頼りにしてくれる。


 彼女の一途な想いが、僕の向上心を育み、昔よりは使えるようになったと思うんだ。


 ◇


 その後、僕はマリーと一緒にジューク王に挨拶して家に帰った。


 家の軒先ではマリーが引き取った元奴隷のモモが僕らの帰りを待ち望むように仁王立ちしている。


「おっせぇよ!」

「五月蠅ぇよ、今日は何でそんなにご機嫌斜めなんだ?」


「教えるわけないでしょ、さっさと家の鍵開けて」


 モモはマリーの弟子として今は王立魔術学院に通っている。

 彼女が不機嫌なのは察するに、学校の首席を取り逃したからだろう。


 学院の首席になると、今夜のパーティーに招待される。

 モモは僕の関係者として招待されていたのだが、彼女はマリー以上に意固地だから。


「私お風呂入って寝るからね、用があるんだったら今の内に言って」

「ならイクトの背中でも流してやってくれ」


「……了解師匠」

「うむ、私は駄目な弟子を持った」

「そこまで威張れる? まぁいいけど」


 と言うことで、僕は彼女が入った後からお風呂へと向かう。

 僕の家のお風呂は露天で、麦畑の漣が聴こえる自慢のスポットだ。


「モモ、入るよ」

「うん」


 手桶でお湯をすくい、身体を洗い流してから湯船に浸かる。

 空を見上げれば、初夏の星が燦然と輝き、天の川を作っていた。


「……もしかしたら地球ってこの天体のどこかにあるのかもね」

「それはないだろう」


 モモの推論に、僕は理路整然と考えてから返した。


 天体に輝く星はどれも恒星じゃないとおかしい。

 地球は太陽系の惑星の一つであり、自ら青く輝いているわけじゃない。


「お前の前世ってオタクだろ」

「何故バレタし」


 モモ――彼女は僕と同じ地球からの転生者だ。


 彼女は異世界アルビーダの貴族の家柄に産まれた。

 残念ながら彼女の家はモモが十歳になった頃に没落し。

 貴族のご令嬢ライフを過ごしていた彼女は一転して奴隷に成り下がった。


 あの脱走王子ことロキも、もしかしたら、と思ったんだ。


「……ははは、昔を思い出しちゃった」

「どんな?」


「知ってる? 転生者ってこの世界だと忌み子とされるんだって」

 忌み子?


「だから余り周りに教えない方がいい、これは先輩からの老婆心」

 パイセン?


 色々と引っかかるが、事なかれ主義の僕は綺麗に流した。


「イクトぉ! 俺も一緒にお風呂に入るぞ、背中を流せ」

「――――っ!!」


 その時、バルバトス三世が乱入して来た。

 筋肉が隆々とした立派な体躯を誇り、連なるように息子もご立派だ。


 モモは彼の乱入に驚くように逃げた。

「あやつはまだ若いな。俺の趣味ではない……いつつ、生傷に湯が染みる」

「いつの間に帰ってたんです」


「つい今し方だな」

「今回の成果はありましたか?」

「……魔石の収穫こそないが、妙な噂を耳に入れた」


 もしかして、バルバトス三世もまた例の噂を聞きつけたのではないか?

 とすれば、リュトが奴隷から得た情報は本当だったのかも知れない。


「それはどんな噂で?」

「賢者ブライアン、彼の救世主が今度は世界を敵に回すらしいと」


 なんだ、単なるデコイか。

 僕はリュトから聞いた噂を彼の耳に入れた。


「リュトは賢者の遺体がついに見つかった。という噂を聞いたらしいですよ」

「情報が錯綜しておるな、これは明らかに罠だ」


「同感です、ここは動かない方がいいかと」

「いや、こんな噂を流している敵の真の目的を考えよ」

「真の目的?」


 敵、なのかどうか定かじゃないが、誰がこんな噂を流しているのか思索した。


 一つ、単なる悪戯の可能性。

 一つ、賢者を狂信する輩による賢者の復権を目論んでいる可能性。

 一つ、僕達の国に敵意を向ける者による――扇動。


 どの可能性だろうと、結果的には疲れそうだ。


「何にせよ、敵の狙いは賢者と、賢者の一族郎党。努々マリーの周囲を警戒せよ」


 ああ、なるほど。

 今回の話はそういう展開を見せるのか。

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