失意と歓声の明暗差
拝啓読者の皆さま、私は今日日お腹を下しました。
皆様もどうかお気を付けくださいね。
翌朝、僕達はビリーノエルの国に出向する準備をしていた。
「何を持参したらいいんだ?」
「二日分の食べ物と飲み物、それから」
城宿からほど近い大商店で、僕はマリーとあれでもないこれでもないと商品を見繕っている。
「二日だと? 遠足じゃあるまいし、物資補給の意味合いも兼ねてこの店のもの全て買うわけにはいかないのか」
ビリーノエルは白銀の兜を片手に息巻いていた。
「お金は?」
「そちらで都合してくれないか、後で必ず返す」
「だと思ったよ」
と言っても、僕達の手には現金がなかったもので。
「店長呼んでくれる? 私を誰だと思ってるんだね」
僕達はマリーを筆頭に店長を呼び出し、店ごと買い取ることにした。
って、今考えても無茶苦茶だな。
「賢者様の孫娘と言えど、それはちょっと」
「見合った対価があると言ったらどうする?」
「と言いますと?」
そこで僕達が取り出したのはライフドレインの魔石が詰まった革袋。
マリーは店長に中身を見せると、交渉は即座に終わった。
「宜しいでしょう、貴方方にこの店をお譲り致します。ですが一点だけ」
「なんだよ?」
「店は引き渡しますが、土地は私の物で宜しいですか?」
「あぁいいよいいよ、王都に土地持ってももしょーがないし」
えぇぇぇぇぇ~。
「えー、お集まりくださったお客様、日ごろから当店をご愛顧して頂き誠ありがとう御座います。本日を持ちまして当店は改築するため、しばらくの間お休みを取らせて頂きます。営業再開は恐らく、えー」
と言うことで、僕達はいよいよビリーノエルの国に向かう。
マリーが先行して彼女の国を視察して来てくれた所によると。
「あれは駄目だな、国威が根こそぎ殺がれてる感じだった。民は空腹状態だし、兵士たちも満身創痍だった」
国は活力を失い、今にでも転覆してしまいそうらしい。
「父王はご健在だったか?」
「王? 知らん知らん、私が偵察したのは城下町だけだ」
王家の令嬢は大変そうだ。
父親を呼び捨てに出来ないとは、まったく。
「じゃあとっとと行きましょうかね、その前にイクト」
「何?」
「お互いに頑張ろうな、励ます意味合いも込めてキス――ちゅ」
前世では公然とイチャつくカップルが違法なんじゃないかってニュースがやってて、僕はそのニュースを観て本当に他人事だから無関心だった。だけどまさか、僕が当事者になる日が来ようとは。
「……私は今回の戦争には参加出来ないと思う、私の分まで頑張ってくれ」
「え? どうして」
「この規模の瞬間移動は、それ相応の反動が出ちゃう。どうしてもな」
「大丈夫なのか? 無理に店ごと移動させなくていいんじゃないか?」
心配を言葉にすると、マリーは破顔してまた不遜な笑みを見せた。
「だってさ、ここまで注目集めたら、一発かましてやりたいだろ?」
「こちらにいらっしゃるのが、今申し上げた賢者様の孫娘様でいらっしゃいます」
店長の紹介を受けると、マリーは僕らを店の前に陣取らせた。
僕は実に惜しいことをした。この位置からじゃマリーの雄姿が見えない。僕は彼女をもっとよく知りたい、彼女の色んな顔を見たい。身内に見せる姿ばかりではなく。
――賢者の孫娘として在る彼女の姿を。
「賢者様バンザアアアアイ!」
マリーは民衆の歓声に応えるように手を振り、そして次の瞬間――
「「「おぉ」」」
「最初は店側が用意した客寄せだと思ってたけど」
「さすがは賢者様のお孫さんでいらっしゃる」
「け、賢者様バンザアアアアイ!!」
瞬間だった。
僕達は大商店の店舗ごと、ビリーノエルの国へと移動していた。
「父上! バルバトス王国第三王女ビリーノエル、長い旅路を経てようやく帰って来ることが叶いました」
移動後、僕達はビリーノエルの案内で王座の間へと急いだ。
玉座には王と思わしき褐色の肌の人物が片肘付いている。
いかにも冷厳そうで、極力関わり合いたくない感じだ。
「…………」
「……父王に於かれましてはご壮健そうで何よりで御座います」
うわー、ギスギスしてる。
これが封建社会の鉄則なのだろうか?
やはり上に立つ物は威厳を何よりも尊ぶというのかな。
「よくぞ戻ったなビリーノエル、旅の成果を聞く前に教えてくれ」
「何で御座いましょうか」
「どうして周囲の反対を押し切ってまで旅立った。あれでは敵前逃亡と思われてもおかしくない」
「……敵前逃亡?」
「一ついいことを教えてやろう。お前が目の敵にしていた兄達は戦死した」
「っ――!? それは真に御座いますか」
「ああ、ジュリアーノは飛び出したお前を追って敵と遭遇し死んだ。そのジュリアーノの心配をし、やはり後を追ったミカエルも同様に死んだのだ」
救世主となるべくやって来た僕達に待っていたのは冷たい現実で。
二人の兄の死を告げられたビリーノエルは落涙していた。
「兄様……」
「故に、ビリーノエル、お前を敵前逃亡と国宝窃盗の罪に問うことにした」
辛い、この鬱展開は物凄く辛い。
僕は一介のエロゲユーザーとしてテキストオールスキップをオンにしたい。
「お待ちください! 兄上達を死なせてしまった責任は後で必ず取ります、ですがその前に!」
「懺悔であれば牢獄の中で自由に致せ」
「お話をお聞きくださらないか、父上ッ!」
「連れて行かれましたね」
「何冷静に状況を達観してるんだよラプラス」
「貴方こそ、現実をしっかりと受け止めて下さいイクト」
「分かってるよ」
「そうだといいのですが、目から光が失せてますよ」
ビリーノエルを不憫に思う余り、僕はレイプ目になっていたようだ。
「して客人、報告によると其方たちは賢者ブライアンの関係者だそうだな」
「はい、私どもはブライアン様の孫娘マリー・ルヴォギンスの奴隷夫婦に御座います」
このビッチ!
厳粛な場で声を荒げることが出来ないからって、他人を勝手に奴隷夫婦にするな!
「肝心の孫娘殿の姿が見えないが?」
「マリー様であれば、今は我らを移動させるために力を使い果たし、別所にてお眠りになられています」
その時になってようやく、僕は王に向かって第一声を発した。
「私の名はイクトと申します、偉大なるバルバトス王よ」
「お初目に掛かる」
「何分私は農民の出なので、先んじて礼儀に欠くことをお許しください」
「よい」
「……我々は、賢者ブライアン様の孫娘であるマリー様の言いつけを果たしたく思います」
「賢者の孫娘は何と申していた」
「この国を救い、一端の真人間になれと」
「うむ、その申し出、受けよう」
「ありがとう御座います。でしたらこちらをご覧下さい」
そう言い、僕は背負っていた風呂敷を下ろし、王に中を開けて見せた。
「……それは、まさか」
王は風呂敷に入っていた魔石を見て、目を見張るように表情を変える。
「お察しの通り、これは幽鬼族の弱点である」
「ライフドレインの魔石か! でかした!!」
玉座の間に同席していた近衛兵がさざめき。
玉座の間からは国情とは異なった歓声があがるのだった。




