第四十六話
翌日、リゲルが部下二人を連れて樹利亜のところにやってくる。
「領主様はお認めになった。ただし、効果を実証してからだ」
リゲルの言葉に樹利亜は当然だとうなずく。
しかし、不安もあった。
「どうやって確かめるのでしょう?」
「他の事件の容疑者に使ってもらう。犯人にしか知らない情報をしゃべらせるのだ。そうすればあなたの魔術の効果は本物だと認められる。取り調べ用として採用されることになるだろう。つまり、あなたにとってはチャンスでもある」
「分かりました。異論はありません」
樹利亜は「意外といいところがあるな」と思う。
最初理不尽な濡れ衣を着せられそうになった時は腹も立ったが、こうして新しい仕事を得るチャンスも与えてくれたのだから、水に流す気になった。
そのせいで「犯人が聞きたいことをしゃべるのかは尋問の能力でも変わりますよね」といやみを言うのは止めた。
樹利亜は領主の屋敷に連れていかれる。
領主が司法のトップでもあるからで、屋敷で裁判が行われているという。
領主の屋敷はゆうに百坪以上はありそうな豪邸で、赤い屋根とグレーの壁が特徴的な石造りの家だった。
庭もサッカーができそうなくらいには広い。
樹利亜が通されたのは二階にある執務室で、領主のアルタイルは背後の大きな窓を浴びながら書類に囲まれた状態で彼女を迎え入れた。
左右には中年の執事がひかえていて、アルタイル自身も四十歳くらいの美中年である。
ただ、銀色の髪はていねいに整えられているし、上等そうな服を着ているし、青い目は鋭く威圧的で、樹利亜はいやでも緊張させられる。
武装した兵士がいないのは執事が護衛を兼ねているからだろうか。
「君がジュリアか。さっそくはじめたまえ」
アルタイルはそう言っただけで、次に右側にひかえている執事が口を開く。
「三人分のお茶を用意していただきます。その後尋問を行い、結果次第でジュリアさんの魔術の評価を決定するという運びになります」
言い終わったところで若い可愛らしいメイドがワゴンにお茶が入ったコップを持ってきて、それから武装した体格のいい兵士たちが、太い縄でしっかりと縛り上げられた三人のうす汚い服を着た男たちを連れてくる。
樹利亜がお茶に魔術をかけて引き下がると、兵士たちが男たちにお茶を飲ませた。
「じゃあ聞くぞ。盗んだ品物をどこに隠した?」
「へっ、そんなの町の南のはずれにある、赤い屋根の一軒家の床の下……?」
男は自分がしゃべっていることに驚愕するような表情だった。
「お前はナイフをどこに捨てたんだ?」
「誰が……町を北に出た先にある大きな池に投げ入れたよ」
やはり男は信じられないという顔になる。
「お前が商人の家の絵を盗んだんだろう?」
「違うな。燃やしてやったのさ」
最後の一人は不気味そうな顔でしゃべった。
「よし、確かめてこい」
アルタイルの命令に従い、兵士たちは飛び出していく。
「ば、ばかな」
「え、何で?」
応えた男たちはどうして自分がしゃべってしまったのか、訳が分からないようだ。
樹利亜は自分の魔術の効果に満足する。
後は男たちが本当のことを言ったと証明されるだけだ。
アルタイルは樹利亜をどう思っているのか、座ってもいいという許可を出さなかった。
延々と書類仕事をするだけである。
どれくらいの時間が経ったのか、いい加減樹利亜が疲れてきて自分との戦いを始めた時、兵士たちが戻ってきた。
「ありました、ナイフです!」
「こちらも被害届が出されていた壺と腕輪、宝石を見つけました!」
兵士たちが笑顔で実物をかかげながら報告すると、アルタイルは手を止めて顔をあげる。
「そうか。ではジュリアの魔術の効果を領主アルタイルの名において認めよう」
アルタイルは決断が速い男だった。




