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【相野仁】異世界にトリップしたので『付与魔術』で生き延びます!  作者: 相野仁【N-Star】
第一章「トリップ」
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第三話

(付与魔術って何ができるのかな?)

 生活していくための技能が得られそうなのはいいことだ。

 しかし、どういう商品が喜ばれるのかはよくよく考えなければならない。

(こわいのは私がほしい商品が、こちらの世界の人たちが欲しいとはかぎらないってところかしら)

 似ているだけでまったく同じではないだろう。

(街に行けたらいいかな。物価とかわからないし)

 そもそも初期費用はどうするのかという問題もある。

 最初はどこかの店に雇われるべきなのだろうか。

 何をするにもこちらの世界のお金が必要になってくるだろう。

 よくよく考えたほうがいい。

(それにあとでシリウスにお礼しないといけないしね)

 ここまでシリウスの世話になりっぱなしである。

 やむを得ないとは言え、正直樹利亜にとっては不本意だ。

 返せるようになったら返したいと思う。

 アラームが鳴ったところで浴槽から出て、用意されていたバスタオルで体を拭き、次に女物の服を着る。

 ピンク色のワンピースドレスで、スカートの丈は膝が隠れるほどだ。

(似合うのかな、これ?)

 可愛らしくて華のある格好が似合う自信はなかったものの、用意してもらった手前ワガママは言いにくい。

 ひとまず廊下に出てみると、シリウスともうひとり、五十歳くらいの女性が立っていた。

 その女性は紺色のメイド服を着た上品そうな顔立ちをしていて、樹利亜に対して品のある礼をする。

「初めまして、お嬢様。エマと申します」

「あ、はい、初めまして」

 お嬢様と呼びかけられたのは初めてだなと思いながら、樹利亜は慌ててあいさつを返す。

「エマは俺が呼んだんだ。俺とふたりきりで暮らすなんて、抵抗があるだろう?」

 どうやらシリウスはそれなりに気が回るらしい。

 ちょっと見直したし、少し安心してうなずく。

「シリウス様、ようやく身を固める決心をなさったのかと早合点しました」

 エマと名乗った女性は苦笑する。

「ふん。客の前でよせ」

 シリウスは動じずに受け流し、樹利亜に目を向けた。

「君さえよければ、さっそくはじめたいと思うがどうする?」

「まあ」

 エマは非難するような声を出したが、一刻も早くこちらの世界で一人前になりたい樹利亜としてはありがたいかぎりである。

「是非ともお願いしたいです。こちらの常識もわかりませんし」

「ああ。それも教えないとな。部屋に案内しよう、ついてきたまえ。エマは茶でも淹れてくれ」

 シリウスに案内され、樹利亜は一階の一室に入る。

「ここは書斎だ」

 と言われた部屋にはびっしり本棚に本が詰まっている。

 それも入口以外の三方向がだ。

「すごいですね」

「何、大したことはない」

 樹利亜の正直な感想に対してシリウスはそっけない。

 謙遜しているわけではなく、本気で思っているようだ。

「ではさっそく始めるぞ」

 余計な前置きを置く気配がないシリウスは、樹利亜にとってつき合いやすい。

「この世界には魔術と呼ばれるものが存在する。それはもう知っているな」

「はい」

「魔術は大きく分けて二種類ある。自身の魔力を用いて発動させるものをメイジ、精霊の力を借りて発動させるものをエレメントと呼ぶ。付与魔術はメイジに分類される」

 メイジとエレメント。

 樹利亜は口の中で小さく反すうした。

(というか、精霊っているのね)

 少し興味を持ったが、今はシリウスの話に集中する。

「エレメントは精霊に好かれるのが絶対に不可欠だ」

 そこまで言われたところで、樹利亜はそっと手を挙げた。

「何だ?」

「私にもエレメントは使えるのでしょうか?」

「分からん」

 シリウスは即答する。

「精霊に好かれやすい者と好かれにくい者がいることは分かっているが、どういう人物が好かれやすいかは分かっていない。それに精霊は多数いる。ある精霊にきらわれたからと言って、他の精霊にもきらわれるとはかぎらないのだ」

 彼はそう言うと、右人差し指を天に向けた。

「来たれ」

 その声に応じるように光が彼の指先に灯り、やがて四枚の羽根を生やした赤い少女の姿に変わる。

「これは火の精霊のひとつだ」

「わあ!」

 樹利亜はファンタジー的で可愛らしい少女の姿に目を輝かせた。

「精霊が見えるのですが、これは私と相性がいいことには?」

 期待を込めて尋ねると、シリウスは首を横に振る。

「ならないな。彼女は私が招いたのだ。エレメントの使い手が精霊を招けば、誰にでも姿が見えるようになる」

「そうなのですか」

 樹利亜ががっかりして肩を落とすと、シリウスが聞く。

「エレメントを使いたいのか?」

「ええ。できればですが」

 ファンタジー世界って感じがするからだ。

 どうせならば楽しめるだけ楽しめたいと樹利亜は思う。

「相性のいい精霊と出会えることを祈れ。私ができる助言はそれだけだ」

「は、はあ」

 シリウスから助言らしい助言が来ないことに面食らったものの、樹利亜は助言のしようがないのかもしれないと解釈する。

「では魔術のトレーニングを始める」

 心なしかシリウスの口調がおごそかになったので、樹利亜のほうも背筋を伸ばす。

「最初に行うべきは保有魔力量のチェックだな。どれだけ持っているかで、トレーニング内容が変わってくる」

 もっともだと思い樹利亜はこくりとうなずき、そして首をひねった。

「魔法とは縁がない世界から来たのですが、魔力を持っている可能性はあるのでしょうか?」

 適性があるだけで必要な魔力を持っているわけではない、なんていう間抜けな展開だったりする可能性はないのだろうか。

「君が心配する理由はわかったが、魔力がない者に魔術の適性があるという判定は出ない。安心してくれていい」

「そうなのですか」

 それならばひと安心だ。

 樹利亜が納得したところで、シリウスは説明に戻る。

「本当なら魔力を発現させろというところだが、ジュリアはやり方を知らないだろう」

「はい」

 当たり前だと彼女はうなずく。

「ならばこれを使おう」

 シリウスは透明色のペンダントをポケットから取り出す。

「宝石部分に指を振れるだけでいい。そうするだけで宝石が魔力を吸い取って、鑑定してくれる」

「わかりました」

 魔力を吸われる行為が樹利亜には少しこわく感じられたものの、シリウスを信用して右のひとさし指で触れる。

 透明だった宝石がまず青くなり、次に緑になった。

「緑か。悪くはないな」

「どうなのでしょう?」

 具体的な評価を樹利亜は求める。

「付与魔術師として働くなら、何とかやっていけるだろうというレベルだな。これからトレーニングで増やす努力もしてもらうが、今の段階では上出来と言える」

 シリウスの回答に樹利亜はホッとする。

「次にやってもらうのは付与魔術の練習だ」

「いきなりですか?」

 意外な展開だと彼女は目を丸くした。


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