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【相野仁】異世界にトリップしたので『付与魔術』で生き延びます!  作者: 相野仁【N-Star】
第一章「トリップ」
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第一話


 池野樹利亜は平凡な会社員である。

 そこそこの大学を出て、そこそこの企業に就職した、そこそこの女の子だと自分では思っていた。

 そんな彼女は現在ぼうぜんとしていた。

「え、ここどこ?」

 昨晩は仕事にそなえていつも通りの時間に自分のベッドに入ったはずなのに、どうして目の前に森がひろがっているのだろう。

 太陽の光はまぶしくあたたかく、夢でかたづけるにはちょっと現実的すぎる。

「一体何が起こったの……?」

 さっぱり理由が分からなくて首をひねる。

 意味不明すぎる出来事に頭が混乱しているせいか、声がうまく出てこない。

(私は一体どうなったの? ここはどこなの?)

 という疑問が頭をグルグルとかけめぐっている。

 彼女は赤いトレーナーに紺色のパンツという室内着で、素足だった。

 何が何だかさっぱり分からない。

 そこへ不意に草むらが揺れて黒い立派なマントをまとい、上等そうな青い服を着た若い男性が姿を現した。

 黄金色の髪に青い髪、白い素肌に百人中九十九人の女性がうっとり見とれそうな端正の顔立ちをしていたが、さすがに今の樹利亜はそれどころではない。

「あの、ここはどこでしょうか?」

 彼女の問いに男性は返事をする。

「○●◎▲▽◇◆□?」

 何を言っているのか、彼女にはさっぱりわからなかった。

(もしかして言葉が通じない?)

 どう見ても相手は日本人ではない。

 外国に拉致されてきたのだろうか。

 こんなところに縛られずに放置されているのは不自然すぎるが、彼女は他にこの状況は説明できないと思う。

 男性はじっと彼女を見ていたがやがて何か小声で早口に言う。

「これならどうだ?」

 そして突然、彼が何を言っているのかが理解できた。

「えっ?」

 突然会話が成立して樹利亜は目を白黒させる。

「俺が何を言っているのか、理解できるか?」

 男性の抑揚の抑えた声に彼女は慌ててうなずく。

「わ、わかりました。どうして急に?」

 思わず疑問が口から出たが、彼は律儀に教えてくれる。

「【言語変換魔術】というものがあるのだ。それで君は? 見たところ、周辺国家の住民ではなさそうだが」

「えっと……」

 樹利亜は迷った。

 見たところ悪人ではなさそうだが、本当のことを言っても信じてもらえるのかという不安があったからだ。

 しかし、同時にここがどこなのか、誰かに教えてもらわなければならないという計算もおこない、結局話してみる。

 信じてもらえなかった時はまた何か考えようと判断した。

「……というわけなんです」

 ある日目が覚めたら、言葉が通じない全然知らない場所にいたという説明を聞かされた男性は、ふむとうなずく。

「なるほどな。異世界から迷い込んだのか。災難だったな」

「信じて頂けるのですか?」

 まさかここまで簡単に受け入れられるとは思っていなかった樹利亜は、軽く目をみはる。

「前例をいくつか知っているからな。それで君はこれからどうしたい?」

「どうしたいと言われても……帰ることはできるのですか?」

 樹利亜はまず最も肝心な点を聞く。

「可能だ。どこから来たのだ? 私が知っている世界なら、このまま送還してあげよう」

「ほ、本当に?」

 あまりにとんとん拍子に話が進んだため、ついつい聞き返してしまう。

 男性は怪訝そうに眉を顰める。

「うそをついてどうする?」

「いえ。ごめんなさい」

 樹利亜は気を悪くさせたことを詫び、それから自分の故郷を告げた。

「地球の日本という国なのですが、ご存じですか?」

「チキュウ? 二ホン? すまないが初めて聞く名前だな」

「そうでしたか……」

 つまり彼女は帰れないということだろう。

 がっかりして肩を落としたが、いつまでも落ち込んではいられない。

「えっと、この国で私が生きていくことは可能ですか? 異世界人の私を雇ってくれそうなお店をご存知ですか?」

 彼女は気持ちを切り替えて次の問いを放つ。

「きちんと働けるなら大丈夫だろう。君は何ができる?」

「えっと……」

 そう言えば何ができるのだろうと彼女は自問自答する。

 平凡な会社員で特に秀でた特技など何も持っていない。

 持っていたとしても異世界で通用するかは別問題だ。

「やむを得ない。【適正探知】」

 男性はもう一度魔術を行使する。

「ほう? どうやら君は【付与魔術師】の適性があるな。それもかなり高い」

「……はあ」

 突然そのようなことを言われても、樹利亜は急には受け入れられなかった。

「どういうやつなのですか、それ?」

 とりあえずの疑問を聞いてみると、男性は教えてくれる。

「【付与魔術】とは物にさまざまな効果を与える魔術のひとつだ。……君が思い浮かべる便利なアイテムは何だ?」

「えっと……」

 急に言われても樹利亜にはとっさに思いつかない。

 日本であればいいなと思うものならいろいろと出て来るのだが、こちらの世界であれば便利なものとはいったい何だろうか。

「まあいい」

 男性はべつに答えを期待していなかったようで、少しだけ彼女はイラッとする。

「こちらの世界であれば喜ばれる便利なアイテムを作り出すのが【付与魔術師】と覚えればいい」

「つまり商品価値があるものを作ることができれば、生活していけるってことですか?」

「そのとおりだ。頭の回転は悪くないな」

 ほめられた喜びよりも上から目線な態度がちょっと気になってしまった。

(まあイケメンだし、上等そうな服を着ているし、すごそうな魔術を使えるし、もしかしたらすごい人なのかもしれないけど……)

 そういう態度になるのが当然の人なのかもしれないと感じる。

 それに今はほかに重要なことがあった。

「その【付与魔術】というのは、どうやれば覚えられますか?」

「自力で覚えるのはまあ無理だろうな。これも何かの縁だ。俺の弟子となれ」

「……はい?」

 一瞬、樹利亜は何を言われたのか分からなかった。


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