祝福の鐘は、クリスマスイブに成る。3
二ヶ月後、フロントが拘置所から脱走。
彼の通訳をしていた男性職員が、そちら方面に目覚めてしまい、彼を脱走させたのだという。
顔が良過ぎるのも考え物だね。
それからは連絡も無いけど、剣に聞いた所、その男性職員がフロントのストーカーになってしまい、毎日逃げ回っているそうだ。
その剣はハッチと共に大佐さんの元に居るらしい。
高校卒業と同時に、園ちゃんとヒガシが結婚。
園ちゃんは主婦をしながら大学生、ヒガシは手井根おじさんの仕事を継いで、バリバリ働いている。
ウチの両親は、相変わらずラブラブで、あたしを置いて旅行に行くことが多くなったね。
琴尼おばさんの件で、少し気まずくなったんだけど、一層愛を深めたと母が言っていた。
その証拠として、来月あたしに弟が生まれるらしいよ。
あたしは大学生になるのと同時に、家を出てみた。
出たと言っても近い所だし、週に一回から二回は帰るんだけどさ。
「今日は実家に帰るんじゃなかったのか?」
自宅の縁側で、一人碁を打つオジサンが居る。
ちなみに縁側だけど、北海道で家を建てる場合、余程のこだわりでもない限り、作る人はまず居ないからね。
オジサンはちょっと家に関しては、独自の考えを貫いているんだな。
分室を引き払って早期退職し、その家に普通に住むことにしたんだよ。
「うん。でも今日は母さんが病院だから、こっち泊まりの日にするよ」
あたしは、オジサンの家に転がり込んで、押し掛け女房になったんだな。
半分同棲状態。
来月には入籍してくれるって約束もしてもらったよ。
プロポーズはあたしからしたけど、苦笑いしながら、オジサンも同じ日に婚約指輪を持参していた。
その数ヶ月後には、手井根おじさんが仲人をしてくれ、無理矢理結婚式をさせられたよ。
お祭り好きは相変わらずだね。
あたしもオジサンも赤面しっぱなしの写真しか残らなかった。
式には剣とフロントも来ていたかな。どちらもホテルのボーイの格好だったけどね。
二次会で、大戸さんが酔っぱらって、あたしに愚痴をこぼしたけど、虹子姉みたいに化けて出て来なければ、オッケーかな。
あたしの求めていた普通の生活が、これから始まるんだ。
アメリカ合衆国、何処かの州に存在する、地下施設。それが俺の現在の務め先だ。
「……これを大統領に報告しろと言うのか? アイアンソード」
豪華過ぎる椅子に腰かけ、サワから送られて来た報告文書をヒラヒラさせながら、勲章の一杯付いた制服を着た上司に言われる。
「こっ恥ずかしい報告文でしょ?」
呆れ顔の上司は、タバコに火を付けた。
「大佐」
「ああ? なんだ?」
大佐階級を貰っている俺の上司は、タバコの煙を吐き出しながら、横に居る趣味の良過ぎる少女兵士に声を掛けられていた。
ちなみに大佐の奥さんだそうだ。
大佐も結構なオッサンの筈だが、どう見ても少女兵士は10代前半だ。日本なら犯罪だよな。
発唆のオッサンとサワのレベルはまだ可愛いもんだ。
「このオフィスは禁煙です」
「ああ、そうだな。では今からこのオフィスを喫煙所に指定する。受動喫煙ごときで死ぬとか言う奴が居るなら、そいつをここに連れて来い。そんな弱い体の持ち主は、ウチの傭兵隊には要らん。そんなに息をしたくないなら俺が冷凍カプセル費用を出してやるから、人間が全て死滅した後で起きるよう設定して、寝ていてくれ」
「まったく、相変わらず滅茶苦茶だよな。大佐は」
「お前に人のことが言えるのか?」
「いや、言えねぇ」
俺を拾ってくれた傭兵部隊の隊長で、今は嘱託で米軍の特殊工作員のまとめ役。
大佐という称号はお飾りみたいな物で、常に最前線に派遣されることを望んでいる戦闘バカだ。
フロントが依頼されて仕留め損なった人間はサワ以外にもう一人、今俺の眼前に居るこの人だ。
人間離れした体格の持ち主で、戦場ではすぐに的になりそうなくらい、油断しまくっているようにしか見えないんだが、信じられねぇくらい強い。
ついでに言うと日本人だ。
滅茶苦茶な日本人ってのは、俺やサワたち以外にも結構居るんだよな。
まあ、お陰でこの会話も日本語だけどよ。
「メンドクセーなぁ。アイアンソード。お前が大統領に報告に行かんか?」
「大佐。規則上、アイアンソードさんは、大統領に報告に行ける立場ではありません」
こうしてサワに関する報告書は、お蔵入りとなった。
所謂バツファイルだな。この地下施設の最下層にある倉庫に報告書は保管され、多分見る人間は居ない。
そこには、俺宛の虹子からの長い手紙と、俺が半壊した病院から回収したサワ宛の手紙も一緒だ。
母ちゃんの遺品は大佐が何処かに保管しているので、その場所は俺にも解らない。
俺やサワ、園やヒガシに渡らなければ、効力は無いらしいからな。
まあこれで、少なくとも、アメリカが元能力者のサワを狙うことは無く、逆に元能力者を狙う勢力から、完全に守る側に回ったって訳だ。
サワの奴は、折角書いたレポートを、中学時代に引き続き、またもや却下されちまった。
お前には文才が無いんだよ。
大体こんな長くて、こっ恥ずかしい文章、読むのも億劫だぜ。
俺が車に撥ねられた件や、園に憑依した虹子にこてんぱんにやられた件は、書かないで欲しかったんだがな。
大佐の所で止まったから良いけど、下手すると翻訳された文章を、大統領やその側近が読むことになっていた訳で、俺の評価にヒビが入る所だったじゃねぇか。
さて、これで暫くは暇になったから、ハッチと一緒に札幌に遊びに行くかな。
ハッチの奴は俺よりデカくなっちまったから、サワも驚くだろう。
それにしても、本当に結婚するとはなぁ。
俺もそろそろ本気で結婚とか考える年になったんだが、早くオッサン死なねぇかなぁ……。
了。