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第三話:反省文と鬼教師Ⅲ


 静かな教室。中にいるのは俺と鬼教師(魔王)のみ。

 外からは野球部の声だけが聞こえてくる。

 別に二人きりの空間だからといってラブコメなんかに発展するわけはなくて。

 まぁ、でも魔王は俺を狙ってるんだろうけど。...心臓的なものを。


 だからといってすんなり心臓を捧げる俺ではない。


 「何だ?」


 覚悟はできてる。無駄な足掻きだというのも分かってる。だが、そんなの、


恐れるに足らん!


 「いえ、僕なりに考えてみたのですが、頭髪検査は男女差別を招く一種の原因となるのではないのでしょうか?」


 俺はあえて討論を交わすことで、反省文の事から話を脱線させ、チャラになるのでは、と考えた。

 そして、この討論によって時間を大量に稼ぎ、最終下校時刻を告げるチャイムがなれば、俺の勝ち。つまり、クエストclearである。


 だが、この討論をスタートさせるには、今俺が言った言葉に対して、疑問文を相手側が返さなければならない。

 確率的には決して低いとは言えないが。

 さぁ、どうする魔王よ。


 「なぜそう思うのだ?」


 よっしゃかかった!!まずは一発。次に二発目だ。ザマァだな魔王。お前はもう俺の手の中。

 ここで俺が長々と話し会話を延ばせば、逃げ切れる!


 「そうですね。まず第一に、男子と女子の性別の違いにより、頭髪検査の基準が変わってしまう点からですかね。

 今回僕が指摘を受けたのは、「耳に髪がかかっている」という点でした。しかし、女子は耳に髪がかかっていても良い。したがって、このような検査の基準の違いから、「男子だから」「女子だから」という偏見。つまり差別が生まれるのではないのでしょうか?」


 脳内空想中二フィールドでは、今まさに魔王を切りつけ、攻撃というコマンドを次々と繰り出していた。

 クリアまであと少しかもしれん。クリア早ぇな。


 と、ここで魔王による反撃が始まる。


 「だが、校則なのだから、そういうことは仕方がないのではないか?」


 わかってないな魔王よ。魔王って自覚あんのかよ。鬼教師が情けねぇな。

 その校則が男女間での差別をかもし出してんだよ。つーわけで鬼教師の反撃は空振りも同然。


 俺は軽く息を吸い、精神を落ち着かせた。


 「そこが第二です。校則がそのように定めているからからこそ、男女間での差別意識が生まれるのです。斯くなる上は、校則を変える他無いですかね」


 フフ。我ながら完璧なひねくれようだな。もうここまで廃れた人間には諦める以外無いんじゃないか?自分で言ってて凄く傷つくんだケド。

 まぁ、良しとしよう今回は。さぁどんどん話をレールから脱線させよう。できることなら早く帰ろう。


 「そうか一城。お前はそんなに考える奴だったのか。その事は先生とても嬉しいぞ。だがなぁ、今さら校則を変えるっていうのは難しい話だ。まぁ、私もお前の考えには一理あるがな」


 OKOK!!そのまま、そのまま。良いんじゃないか?このまま鬼攻略来たんじゃないの?


 その時の俺はそう思っていた。

 

 とまぁ、前文から分かる通り、俺は油断しきっていたワケだ。


 つまり、俺の作戦がここで朽ち果てるのはもう分かりきった事であって。


 変えようのない現実なのである。


 「....あっ」


 ふいに魔王の口からひらめきのような声が漏れる。


 あ?あって何だ?おい、何なんだ?

 どした?



 「そうだ一城」


 そう言い出す泉先生は真っ直ぐとした目で俺を見ていて、


 「そんなに頭髪検査に引っかかりたくないのなら」


 皆を包み込むかのような笑顔で、


 「お前」


 ....俺の人生を潰しにかかってきた。


 「女子になればいい」


 .........................は?


 「いやさすがにそれはちょっと無理があ_」


 バンッ!!


 教卓を叩く音が、俺の言葉をプツリと切った。

 それはもう、ブラウン管テレビの電源を切るかのようにブツリと、一瞬にして、切り取ってしまった。


 今日二回目の出来事である。

 何なんだろう。この人俺の言葉を遮るのが好きなのかな?


 そしてまた、この鬼教師は語り出す。


 「でもさぁ一城。お前って、大器晩成タイプなんでしょ?」


 いやいや、ここで持ってくる言葉じゃないよね?明らかに用途が違うよね?あれだよ?ガンを患ってる人に「風邪薬飲んどきゃ大丈夫だって。だってあんたいつも寝てたら治ってたじゃんww?」とか言う感じだよ?無理だかんね。どんだけ時間かけても無理な事に変わりないかんね?


 「いや、それとこれとでは話が違うようなー?」


 苦笑いを浮かべながら、俺は教師の方を見た。


 はぁ。この人のニコニコスキルはいつ解除されるのかなー?


 「いや、大丈夫だって一城さんよ。女から男は難しいかもしれないけど、男から女は?意外と?チョッキン?すれば何とかなるっしょ?」


 ...狩られる。てか殺られる。何、この人こういう趣味なの?

 本当アンタ一回精神科医に診てもらったら?何だろう、ストレスなのかなー?俺?俺が悪いの?


 じりじりと、泉先生が俺との距離を縮めてくる。そこには、バットエンドという名のラストが待っていた。


 ミッション失敗。俺は、魔王に負けたのだ。


 敗者は黙って勝者にひれ伏す。

 それが、世のルールというものだ。

 嗚呼.....


 「今までお疲れさん。一城」


 終わった。俺はそう確信した。



 が、やはり女神はこの世にいたらしい。

 教師の伸びる手を止めるかのように、校内中に最終下校を告げるチャイムか鳴り響いたのだった。


 た、助かったぁぁぁ。死ぬかと思ったわ。いやマジで。


 ほっとする俺に対し、泉先生は何やら浮かない顔をしていた。


 「あーあ。お前が話脱線させるから終わっちゃったじゃんかよ」


 なにその「あとチョットでclearだったのにー」みたいな口調で言ってんの?


 もうそこから大体の見当はつくよね。

 あなた本当に俺を殺そうとしてたんだよね?犯すつもりだったんだよね?

 教師ってこんなに怖いんすか?トラウマになりそう。


 「まぁいいや。疲れたし。というわけなんで、一城、明日までに髪を切ってくることと、反省文を再度提出するように。

 次、あんな文章書いてきたら、まじぶっ●すから」


 あ、あれー?なんか最後の方聞き取れなかったな?

 おっかしーな?なんでだろ?


 「は、はい...」


 精根尽き果てた声で、俺は答える。


 こうして、俺の地獄の時間は終わりを迎えたのであった。


 カバンを持ち、学校を出る。

 すでに暗闇と化した夜道を歩き、俺は家へと向かった。


 家につき、風呂を済ませ、晩飯を食べた後、俺は机に向かい、反省文の用紙を取り出す。

 しばらく反省文を眺めた後、ふとあることを思う。


 あれ?そういえば、反省文って何書くんだっけ?



 きっとこれは、神が俺に与えた一つの苦行なのだと思いながら、俺はただひたすらにペンを走らせるのであった。




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