表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話:反省文と鬼教師II


 しばらく歩くと、2年1組の教室が見えてきた。俺と泉先生は扉の前までスタスタと進んでいく。


 「さぁ、入れ」


 またもや残酷な微笑みを浮かべ、俺を教室へと導く三十代後半鬼教師。俺の足を止める者はいない。

 重い足どりで俺は進む。


 時刻は放課後の午後五時二十分。

 ほとんどの生徒は部活か帰宅、または別室で自習をするといった形で、今現在教室には誰もいない。


 俺は一番前の席に座らされた。

 鬼教師は教壇に立ち、手に持った俺の反省文をビリビリに破り、そのままゴミ箱へと放った。


 HELP ME...いやまじで。

 誰でもいいから、助けてくれ。いや、お願いします助けてください!!。なんでもしますから。足だろうが何だろうが舐めますから...うぅぅ。


 そんな俺の願いは叶うはずもなく、鬼教師は口を開いた。


 「何か、言い残したことはあるか?」


 あ、駄目だ。どう考えても殺される。だってこれ普通の教師と生徒の会話じゃないもん。死刑執行人と受刑者の会話だもん。


 どうする。選択肢は二つだ。


 「Yes」か「No」


 俺は迷わず「Yes」を取った。


 「あ、あります...」


 戸惑いつつも俺は答える。


 なんとしてでも生き延びなければ、殺られる。せめて、一秒でも死との距離をのばせるなら、俺は何だってする!


 「ほう、聞かせてもらおうか?」


 文字で表すと然程インパクトの無い言葉だが、鬼教師の周りには憎悪というオーラが漂っており、俺の心はもはや砕かれていた。

 要するに、コワイデス。何で手をポキポキ鳴らしているんですか?

 おいおい、首の骨まで鳴らし始めたぞ。あれ本当に女教師なの?コブリンとかそっち系のモンスターじゃないのか?

 俺は思考をフル回転させた。

 何か、何か手はないのか?


 「そっ、その。僕も、悪気があって書いたわけじゃないし、自分なりの反省を書き表しただけであって」


 「その結果が、あのゴミなんだな?」


 反省文のことをゴミって言ってる時点でもうガチギレレベルに達しているはずなのに、なのに、


 なぜだろう。なぜ微笑んでいるのだろう、あの教師は。


 「えっと...いや、反省文にも書いてある通り、僕は大器晩成タイプだから..立派になるには、少し時間がかかると思いまして...」


 「ふむ。そうか。では、一つ質問をさせてくれ」


 何だろう質問って。「死ぬ覚悟はできましたか?」とかそんなのだろうか。


 「お前の言うその「立派」とは具体的にどのようなものなのだ?」


 う、うわー。そうきたか。その場しのぎで使った言葉の意味を答えよと。もう、いっそ殺してくれ。何その「あなたにとっての「プロ」とは?」みたいな質問。殺したいなら殺しゃいいじゃん。


 自意識過剰でしょうか?いいえ、誰でも...ん?いやそうかもしれない。


 「....」


 なんとか俺は、頭のなかにインプットされた「立派」を捻りだし、並べ、言葉へと変化させた。なるべく短時間で、かつスピィーディーに。


 「ま、まぁ。アン●ンマンとかそんな感じですかね」


 結論から言うと、無理だった。頭が混乱し過ぎて逆にバカになってしまった。


 でも、ア●パンマンは立派だと思う。人のためなら何だってする奴だし、人を助けるためなら己の顔を削ってまで救おうとする精神力。まさに天晴れ。特に愛と勇気だけが友達というぼっち感が良い。勇者たるもの、孤独の中でこそ、真の力が発揮されるものだからな。

あ、ちなみに「真」と書いて「まこと」って読むからね。「しん」じゃないよ。なぜかって?かっこいいからだろ。


 さて、それを聞いたコブリン教師はというと...

そらもうすごかった。ヤバかった。


 「そうかー。アン●ンマンになりたいのかー。先生なー今、すっごくお腹減ってるんだよなー。大方ストレスが問題なのだが。

 そこでだ。一城、お前今から立派になってみないか?」


 ....食べると。俺の顔を食べると。

 あー、なんだ。先生ってグー●だったんだな。もうゴブリンより恐ろしい生き物になったじゃねーか。血で血を洗う種族だぞ、オイ。

 まあそれっぽいオーラ出してるもんな。だってもうすっごいニコニコだもん。楽しんでんの?この人楽しんでんの?


 「い、いやぁ。それはちょっと」


 血祭りにされる。まずいぞこれは。

 

 そんな時だった。

 ふと、俺は昔の母親の言葉を思い出した。

 小三くらいの頃かな。まだ俺が何も知らなかった頃、窓辺に置かれた花瓶を割って起こられている時に言われたっけ。


 「あんたねー。怒られてる側が一番きついって思ってるでしょ?それ全然違うからねー。一番きついのは怒る側なんだから。よーく覚えときなさいよ」


 母親の言葉は、今ここにて折れた。

 グッバイマミー。永遠に。


 きついのかー?あれきついって顔じゃないよな?


 「そうか、残念だなー。せっかくお前を立派にしてやれると思ったのになー」


 うん、立派にはなれないよな。その先に行き着くのは死体とか白骨とか、言い換えるなら屍とかだよな。何?先生の思う立派ってそういうのなの?

 もう教師やめて死神とか目指したらどうなの?なれるよ、きっと。


 うー。と、とにかく早いとこ話を切り上げてこの場から逃げなければ。さもないとすごいことになる。肉体が。


 「いや、僕なんかまだまだ立派には程遠い存在ですよ。...それよりも、今回の件は本当に悪いと思ってます。髪は今日中に切ってくるんで、僕はこの辺で。ほ、ほら、お店とかも閉まっちゃいますし....?」


 「なんだ?逃げるのか?」


 スマイルヤンキー、ここに見参。

 もうこの人グラサンにモヒカンがピッタリだよ。黒髪ロングよりモヒカンonlyでやっていった方が絶対合うって。


 チッ、逃げるというコマンドはどうやら無意味らしい。


 ならば、もう仕方がない。...戦おう。

 例えそれがどんなに苦しい事だろうと、こんな鬼畜教師を野放しにはできない。他の犠牲者がでるのも、時間の問題だろう。

 ならば、俺がここで食い止める。

 さぁ、俺の中に収まりしひねくれた考えどもよ。

 ここに集え!!そして剣となり、そびえ立つあの魔王を叩き潰すのだ!!


 そんな中、ふいに外から野球部の掛け声が聞こえた。だが、今の俺にはそれが歓声のように聞こえる。

 まるで、俺を称えるかのような声が聞こえてくる。ナルシスト?何それ食べれんの?


 そして、俺は魔王を倒すべく、その「ひねくれた考え」を剣とし脳内空想中二フィールドで構えた。真っ直ぐとした目で相手の喉元を見つめる。


 「何だ?」


 魔王は勘が鋭いらしく、戦いを行うことを決心した俺の変化に気づいたらしい。

 さすが魔王。だが俺も負けない。


 俺の語彙力、舐めんなよ。


 脳内空想中二フィールドで俺は魔王との間合いを一気に詰め、剣を大きく振りかぶる。


 先手必勝!


 こうして、俺の成功不可の戦いは、幕を上げたのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ