第一話:反省文と鬼教師
「今回僕が違反した事に対しての反省文」
2年1組
坂本 一城【さかもと いちじょう】
反省文を書く。それはいわば登山を行うに等しい事だと、僕は思います。
果てしなき道(ここで言うなれば反省文の原稿)を前にし、己の力のみで進み(書き)上を目指す。そして、いつ終わるか分からないものが目の前に現れた時、人はくじけ、下を向き、二度と立ち上がることができなくなるかもしれない(辛すぎてもう二度とペンを握れなくなるかもしれない)。
しかし、そんな時こそ負けてはならないのです。やるからにはどんなことにも意味があるのだと、僕は気づかされました。
その先に待つ素晴らしい景色のために険しい道を一歩ずつ進んで行く事が幸せをつかむための苦行なのだと思いました。
また、自分に負け、あきらめてしまうことが何より恥なのだと言うことも、僕は言いたいです。
僕は先程、「反省文を書く。それはいわば登山を行うに等しい事」だと言いました。
これを書いているなかで、ふとある自分の性格に気づきました。
大器晩成。これは、大きな偉業を成し遂げるには時間がかかるということです。
一見誰もができる当たり前のような事(ここで言うなれば反省文の原稿を書くこと)も、大きな偉業だととらえる人がいるかもしれない。
そして、それを成すには少しだけ時間がかかってしまう人が中にはいるのだと、僕は言いたいのです。
そう、おそらく僕は、大器晩成タイプなのです。
やる事なす事一つ一つが常人より少し劣っているかもしれない。しかし、その結果大きな偉業を成し遂げることに繋がっていく。
そんな僕を気遣い、笑顔で見守ってくれる皆に、僕はとても感謝しています。
僕の思う人生の喜びとは、このような周りの気遣いで成り立っているのだと気づき、今度は僕が人を気遣う番だと、反省文を書くなかでその決意を固めることができました。
有り難う反省文。有り難う友よ。
生きる喜び、それは人との繋がりによるもn(以下省略)
5ページにも及ぶ長々とした反省文を読み終えた教師は、こめかみを苦い顔でかきながら、俺の方を向いた。
「これは一体なんなのか、少し説明してもらおうか」
泉 優希【いずみ ゆき】先生。三十代後半の女性教師。黒髪ロングで剣道部の顧問をしている。
中1の時、俺のクラスの担任は熱血男性教師だったため、中2に上がった時、担任が泉先生という女性教師に変わると聞き、「やったー!!男性教師という地獄からついに脱出することができたぞ~ムフフフww」等とぬかしていたが、甘かった。
その教師はとにかく生徒に厳しい、とてつもない鬼教師であったのだ。(例えるなら、アメとムチの割合が1対99くらい?いや、アメじゃなく酢昆布がましなラインだろうか。うん、酢昆布とムチが1対99だ。そもそも1があるかどうかすら怪しいくらいである。)
そんな鬼畜教師が俺の反省文を読み、「これは何なのか」と聞いてきた。
一学期の間生き抜いた俺は、この教師がどれだけ恐ろしいのかを知っている。へたにものを言えばいつ制裁が飛んでくるか分からない。
だが、それでも俺はあきらめない。なんとかこの場をやり抜いてみせる!!
「そうですねー。見ての通りの反省文ですかねー」
棒。まさに棒読みのような透き通った声で返す。これならワンチャン乗り越えられるかもしれない。下手な感情をこめるより、素で返した方が丸くいくはずだ。
「君は一体これが何の反省文か分かってやっているのか?」
破壊光線でも繰り出すか?と思っていたが、意外と真面目な返事が帰ってきた。
あれ?これもしかしていけるんじゃね?
「そーすっねー。まぁ僕の中では分かってて書いたつもりなんですけどねー」
気の抜けた声で返す。
さぁ、どうだ。一体どんな反応を見せる。けっこー舐めた感じだぞ?俺。
「分かってて書いたのか。...では、これがお前の頭髪検査違反に対する反省文で間違いないのだな?」
おぉー。冷静。いたって冷静だな。どうした、おい?鬼もここまで冷静だと仏みたいだな。よし、後は丸め込むだけ。
鬼攻略完了
俺の頭には、この言葉が浮かんでいた。まぁ、それほど自信があったからだが。
帰ったら何しようかなー、なんてことを思いながら、俺は言った。
「そうですねー。次からは気をつけますんで、今後ともごひいきに_」
ドンッ!!!!
職員室全体に鬼教師な机を叩いた音が響き渡った。
静まり返る職員室は、まるで聖堂のようだった。
うぉぉぉ!!ヤバイィィ!!これガチなやつじゃん!!
「そうかそうか、よーく分かったぞ一城。それじゃー、個別授業でもするか」
泉先生は穏やかな声色で、もはや微笑みまで浮かべてそう言った。
うっ、うわぁぁ、怖いぃぃ!!!
周りを見て、他の教師に助けを求めてみた。
大変ですよって。この人体罰するつもりですよって。
だが、周りの教師は皆硬直していて、俺の思いははかなく散ることとなった。
...個別授業かー。「先生のストレス解消スッキリ時間」の間違いなんじゃないのかなー?
「さぁ、別室に行くぞ一城」
そう言われ、俺は職員室を出た。
現代の日本社会には、ある事柄について拒み断るための権利として「拒否権」が存在するらしいが、どうやらこの学校にはまだそれが無いらしい。
教師の後ろを歩きながら、そんな事を思う中学2年。
現在進行形で社会問題が起こっているにも関わらず、見過ごしたあの教師達、...絶対呪ったる。
泉先生は歩きながら俺に一言、
「どうして欲しい?」
とか言ってきた。
俺、どうなるんですか?死ぬの?
当然、俺が質問に答えるわけはなく、そのまま時は過ぎていく。
誰か、俺を助けてくれ。