二人の秘密
「見て見て!ヒカル君が登校してきたわよー」
大勢の女子高生に囲まれ中心にいる人物 霊山 光だ 彼は非の打ちどころがないほどのイケメンで女子にモテモテであるが、必要最低限以上の会話をしているのを誰も見た事がないという謎めいた人物であった。
そんなミステリアスな所にも女子の人気を買い学年を超えても人気者である。
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私の名前は西野 秋 ごく普通の高校生のはず・・・だった。
二ヶ月前からだろうか、決まって木曜日の日に同じ夢を見るのである。私の顔見知りの人物が一人また一人と姿を現しては何かを私に告げて闇に消えていくのだ。病院に受診したが脳に異常はなしと診断され家族には心配かけまいと病状が悪化しているのは黙っていた。
そしてその夢をみる毎に消えていった人物の名前や記憶が私の中からすっぽりと抜けおちていった。
その現象が2ヶ月も続いた。そのうち家族の名前や大切な友人との思い出も忘れてしまうのではないか?という不安に囚われてしまう…火曜日の今日は風邪という事で学校は休ませてもらっていた。
また木曜日がきてしまうという事を考え過ごす生活、そんな負の感情ばかり抱いていた時、普段まったく鳴らない家のインターホンが鳴ったのである。
「どちらさまですか?」
「霊山です」
同じクラスメイトの霊山 光であった。思いも寄らぬ来客に一瞬躊躇するも学校の課題でもを届けに
きたのだろうか?と勝手に考察する。
ドアを開けると勢いよく彼が入ってきて私は押し倒されていた。
「ちょっと…何っ」
突然の出来事に押し倒された私は足をばたばたさせて必死に抵抗していた。
「次のクールでおそらく君は全ての記憶を失う。それが嫌ならおとなしくしていろ」
「クールって何?記憶を失う?最近知人の名前や愛犬との思い出も思いだせないのと関係あるわけ?」
「そうだ。だからおとなしくしていろ」
彼はそう言って私の額に掌を重ね、何かぶつぶつと唱え始めた。そのわずか数秒後私の意識は途絶えた
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「ここは…?」
秋は眼を覚ますと病院のような場所に居た。人気はまったく感じられずホラー映画に出てきそうな絶妙な暗さでいかにも何か出てきそうな雰囲気である。
「起きたか。ここはアストラルフィールド(AF)と俺達は呼んでいる。霊と人間の精神が交差すると発現する」
「霊?私が霊に取り憑れているというの?」
「わかりやすく言えばそうなるな。取り憑かれること自体はそう珍しいことでもないし、気付かないうちに共存していることはよくあることなんだが、お前に取りついた霊はAFを介して完全に主導権を握ろうとしている。どうして俺がここまで詳しいか、最初に言い忘れたが俺の家計は除霊師をやっていてなお前の取り憑いていた霊は始めは害のないものだったため、優先度は低かったのだが最近になって霊力が格段に上昇しているのが見受けられたために、別の仕事を取り止めて今に至るわけだ」
「よくわからないけど半分は理解したわ。でもね…いくら貴方がクラス1のイケメンだかなんだか知らないけど私の事を『お前』呼ばわりするのやめてくれないかしら? 西野 秋という名前があるんですけどっ」
光は少しめんどくさそうに、はいはいじゃあ秋でいいよなと言った。半年ほど光と同じクラスだった秋だが光とこれほど…と言っても数分話した程度だが彼とまともに会話をしたのが今回が初めてだった。意外と口数の多い奴だなと秋は思うと同時に先ほどまでの不安感は少し薄れていた。
「それでここは? 病院?みたいだけれど」
「AFの特徴は霊の遺恨が一番強い場所が投影される。…例えば今回の場合未練を残して病院で亡くなったなどの可能性が高いだろうな」
「それじゃあこの病院内のどこかに私を乗っ取ろうとした元凶がいるわけね?」
「馬鹿だと思っていたが物分かりがいいな」
秋はムスッとした仕草をしつつも、光の素のキャラはこうなのかとある程度理解し始めた。二人は薄暗い病院内の廊下の探索を進めると突然光の足が止まる。
「ここだけ名前の表札があるな」
病室と思われる扉前の表札には『白石 明日香』と書かれていた。4.5箇所ほど通ってきた病室と思われる場所は全て扉が開いていたのだが、ここだけ何故か閉まっていた。光が先導して扉を開けるとそこには白い病衣を着た少女の霊がベッド越しに地に足を着けずたたずんでいた。
「邪魔をしないでぇ!」
病衣の少女が二人に向かって叫ぶと地鳴りのような音と共に病室全体が揺れ始め、置いてあった花瓶や、果物が少女の周りを渦巻くように宙に舞う。それらが一斉に光達へ向かって飛んでくる寸前、光はポケットから青の『護』と書かれた札を取り出し、前に掲げる。すると薄いバリアのような物が目の前に展開され、それに触れた物は力を失い重力に従い落ちていった。
「すごい・・・」
秋が言葉を漏らすと光は隙の出来た少女の霊に『破』と書かれた赤い札を投げつける。札は少女の霊に命中し光は両手を前に差し出し札に力を込め続けている。苦しむ少女の霊に秋は何かに気付いたように光を突き飛ばした
「待って!あの子泣いてるよ」
「もう少しで除霊出来るって時に…何しやがんだよっ」
秋は「私に考えがあるの」と言い少女の霊に近寄っていく。その間にも少女の霊は地面に落ちた物を霊力で浮上させ秋達に向けて飛ばしてくる。光は体制を立て直し、仕方なく秋の援護に回る。秋は少女の霊に触れる範囲まで来ると少女の霊を優しく抱きしめた。
すると地鳴りのような振動がピタッと治まり、辺りに平穏が訪れる。秋はそっと少女を抱きしめていた両手を離し少女の霊と向かい合っている。光はというといざという時は援護に回れる用意はしていたのだが、ここまで対象と距離が近づくと秋ごと巻き込む可能性があったので秋の行動をじっと見守っていた。
「白石 明日香ちゃん?でいいんだよね?何があったのか私にどうすればいいのか良かったら教えてほしいな」
明日香はこくりと頷き生前時何が起きたのか、語り始めた。
明日香には朝霧 連という幼馴染がいた。当時二人は15歳である日、明日香が倒れて入院したらしい。それから連は毎日見舞いにきていたという。検査の結果、明日香はこのままだと余命は1年だと宣告された。手術をしても治る見込みは薄いがやるなら早いほうが良いと家族を介して説明されたらしい。
入院してから1ヶ月経った。それでも連は何も理由を聞かずに毎日見舞いに来てくれた。その3日後明日香は連に全てを打ち明けた。その日二人は狂うように泣いた。連は明日香の家族から病状は全て聞かされていたのだ。それでも明日香が話たくないのであれば普段通りに接しようと連は無理して振舞っていたらしい。
3ヶ月経って明日香は連や家族と話あって手術をする決心をした。10時間は越す大手術になった。その後明日香は目を覚ますことはなかった。手術は失敗に終わったのだ。手術前に明日香は連に必ず元気な姿で戻ってくると約束していたのに。
「そんなことがあったんだね。辛かったね…」
秋は明日香をもう一度抱きしめて泣いた。光はそれを黙って見つめている。
話には続きがあった。明日香が死んでから今は5年経っている事、秋に乗り移ろうとしていたのは連に別れを告げるだめであったこと。連に別れを告げた後は秋に主導権を全て返すつもりであったらしい。
「ねぇ?私が連って人に会って一瞬だけ明日香ちゃんと入れ替わることって出来るのかな?」
秋はとんでもないことを光に言い始めた。
「主導権の交代か。霊そのものの意識はこちら側に現界させることは可能だが、秋の自我が持たない可能性があるし、リミットは5分てところだな。しかし、長年除霊師をやってきたがこんな展開は初めてだよほんと変わってるなお前」
「あっ、またお前って言ったなっ!」
そこには先ほどまでの重たい空気はもうなくなっていた。翌日、秋と光の二人は明日香の証言を下に朝霧連の家を訪ねた。アパート暮らしで家は変わっていたが、光の世話係と呼ぶ者に協力を仰ぐとすぐに居場所を特定できた。連は初対面の二人から明日香の話を聞かされ驚いていたが話の通り優しい人だったらしくすんなり家の中に入れてくれた。二人は連に少し待ってほしいと言い再びAF内に入り明日香と秋の主導権を交代させることにした。
「連くん?」
「明日香なのか?ほんとに明日香なのか?」
「そうだよ。会うのは5年ぶりかな・・・?どうしても言いたいことがあって秋さんの体を無理に乗っ取ろうとしてたの。私ばかだよね・・・秋さんにも迷惑かけたし、連くんもこんな形で会いたいと思ってたかどうかもわからないのに」
「そんなことないよ!僕はこの5年間一時たりとも君のことは忘れたことはなかった。手術を勧めたのは本当によかったのか、もう少し長く生きれてたんじゃないか?ってずっと考え続けた」
「手術をした事は後悔してないの。でもね、連くんの事だから私が居なくなってからずっと悔やんでるんだろうなあって思ってた。連くんの幸せは私の幸せでもあるの。だからね、私の事は心の片隅にでも覚えてくれてたらいいんだよ。私は連くんを本当に大切にしてくれる人と幸せになってほしい」
「早々…君より…好きな人なんて見つけられるもんか。でも…それが明日香の望みなら僕は…前に進もうと思う」
「ありがとう。もう時間がないから先に行くね。あと30年はこっちにきたら許さないんだから私の分まで強く生きて・・・」
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秋が眼を覚ますと何かの重しが取れたかのように体と心がスッキリしていることに気付き驚いていた。帰り際、連は二人に心からありがとうと言い恩返しをしたいという事で連絡先を二人に教えていた。
「明日香ちゃん最後ちゃんと成仏できたかな?」
「ああ。もう霊気は感じないな…俺は今まで力付くで除霊をしてきたが、あんな方法で成仏させたのは秋が初めてだ。除霊師に向いてるんじゃないか?」
次の日の朝、秋は4日ぶりに学校へ行った。友達と風邪大丈夫だった?など他愛もない話をした。秋の隣の席の光はいつも通り誰とも会話をせず一人物更けている。授業中の事だった。どこからともなく一枚の紙が飛んできた。飛んできた方向から秋は光が飛ばしてきたものだと考えた。そこに書かれていた内容は除霊師であることとこの間の件は二人の秘密にすることそれにまた秋に霊が取り憑いているということだった
「えぇぇぇぇえぇl!?」
授業中なことを忘れて秋は声を出してしまっていた。隣の光をみると少し笑っているようにも見えた。数分後もう一枚の紙が飛んできた「冗談だよ」と書かれた一枚の紙が。秋ははぁ…と溜め息をつき仕返しだと言わんばかりに秋も「ばか」と書いた紙を投げつけた。
秋はこの件を境に意識すれば霊を目視できるようになり、光のパートナーとして数多くの霊を成仏させる除霊師になるまでの長い長い物語の幕開けである。 ・・・END