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作者: 雅
掲載日:2017/10/19

「この世界には奇跡がありふれています。神を信じれば奇跡は訪れるでしょう!」勧誘がうるさい。蝉もうるさい。車も電車も人の歩く音もうるさい。この世界に奇跡などない、そう思ったのは三年前、俺が中学2年の時だ。人生は選択の連続であり、面倒ごとに巻き込まれてる奴らはその選択を間違えたんだ。

「君ってホントめんどくさいよね」

こいつは高校からのクラスメイト。こいつもうるさい。

「奇跡も神様も信じても損は無いでしょ」

「得もないけどな」

「つれないなぁ、あ、今日の放課後遊びに行くから予定開けといてね!」

「今日は病院だアホ」

つい先日盲腸の手術を俺が受けたのをこいつは覚えているのだろうか。ほとほと将来が心配だ。

「それなら仕方ないかぁ、じゃあまた別の日に遊ぶからね!」

俺は返事を返さなかった。


術後の経過は順調で特におかしな所はなかった。俺は本屋によるため、いつもと違う道で帰った。コンビニで屯する中学生、明らかに自分より弱いものをかつあげするヤンキー。どれもうるさい。ただただ目障りだ。そして襲われる女子生徒――

「悪いがこの女の連れは俺だ。こいつをどこに連れてくつもりだ?あ?」

人生とは選択の連続である。が、時として人は一つの曲げられない選択を持ち続ける。俺は気づいたら女を助けに動いてた。こういう時は中学の時悪さしててよかったと思う。男が去ったので、帰ろうとしたら

「助けてくれてありがとうございます。あのなにかお礼――」

無視して帰った。


別に女性を助けてなにかしてほしい訳では無い。ただの自己満足だ。だからお礼など気にすることは無い。

むしろ無視した方が今後かかわらなくて済む、それが果たして正解なのかは分からないが。


3日後、いつものように学校に向かっていたら、見知らぬ女性に腕を掴まれた。

「誰」

「痴漢から助けていただいたものです。お話できなかったのでここまで来ました。」

流石に無視出来ないので仕方なく答えた。

「お礼なんかいらないし求めてない。ただの自己満足だ、気にするな。」

「用はお礼じゃないんです。」

「じゃあなんだ。時間がもったいない。手短に。」

「私と付き合ってください!」

無視した。


2日後、また来た。また無視。それから毎日、来ては無視、来ては無視を繰り返した。うるさい。日常が遠ざかっていく。俺はキレた。

「俺は心に決めた女がいるからだめだ。そもそも俺よりもっとお似合いな奴がいるだろ。」

振ったつもりだった。嘘はついてないし、問題ないはずだ。が、次の日―

「付き合ってください!」

また来た。ストーカーか、と言いかけた時、ひとつ気づいた。

「やたら足にアザあるな。なんかあったのか?」

初めてあった時から少しアザはあったが見た目がボーイッシュなのもあり、部活の怪我かと思っていたが、それにしては数が多い。

「何でもないですよ。また明日も来ますね。」




来ない。もう4日経った。別に会いたい訳では無いし、うるさいのが居なくて清々した。ただ、あのアザが気になる。虐待なのか、それとも――


俺の家へ帰るにはいつも海沿いを歩く。夏はサーファーが多いが、今は見知った女が一人しかいない。

「おい、何してる。」

アザが増えている。これはやはり虐待か?問いただす勇気がなかった。

「あ、まさか会えると思ってませんでした。やっぱり奇跡ってあるもんなんですね。」

はにかんだ顔に不覚にも心が奪われた。

「奇跡なんかではない。俺はこの道を通ることを選択しただけだ。」

「私のところに来たのも?」

何も返せなかった。彼女は勝ち誇った顔をして俺を見ている。その顔に何故か腹が立ったので彼女をからかってみた。

「アザ増えたな。虐待されてるのか?」

彼女は泣き出した。無邪気な子供がまるで何かを本気で怖がるかのように。彼女の目は俺を見ていなかった。

「私母子家庭なんだぁ。毎日違う男の人が家にいるの。」

不思議と驚きはなかった。

「その人たちに殴られることはないんだけど、お母さん疲れてるからさ。」

彼女の目は懐かしいものを写し出した。


中学2年の頃、恋人が死んだ。自殺だった。遺書と呼べるようなものはなにもなく、何が原因だったのかも分からない。世間はいじめがあったのではと囃し立てたが、学校側は否認した。虚無感しかなかった。まさか俺の隣から居なくなるとは思わなかった。それもこの世から消えるという形だとは夢にも思っていなかった。その後の捜査で親からの虐待があり、自殺も無理やり行われたものとして、恋人の両親は捕まった。当時、彼女は常々言っていた言葉あった。それが今の俺のポリシーとなっている。


彼女は俺の昔話を淡々と聞いていた。普通こんな話誰も信じない。自分でもどうして話し始めたのか分からない。ニュースになったものの、世間は興味が無いのだ。犯人を叩いて自分は正義だと主張すること以外に意義を見いだせないのだ。だから俺は世間を拒絶する選択をした。

「かわいそう」

彼女は泣いていた。彼女の方が俺よりきついはずなのだ。それなのに彼女は俺のために、いや俺たちのために泣いてくれた。


その日はうちに連れ帰り、親に事情を話した。娘が欲しかったのと半ば冗談とは思えないテンションで快く迎えてくれた。

彼女はどうやら学校には通ってないらしく、暫く母親と共に家にいることとなった。

児童相談所にも警察にも事の顛末を話し、確認が取れるまで本人の意向に従い、匿ってくれと頼まれた。



彼女の両親は捕まった。傷害罪のため、決して重い刑ではないが、彼女は安心したようだ。そんなある日、映画に誘われた。もちろん俺は断らなかった。

「何見るんだ?」

「何みたい?」

「決めてないのか」

「一緒にいれればそれでいいの」

「なら適当に映画館で決めるか」

告白はまだあの日から一度もされていない。お互い今の距離が丁度いいのだろう。


家を出て、2人で歩いていたら、クレープに目が止まった。お金を渡すと一目散に向かっていった。車が来るのも気づかずに――


「ごめん、ごめん、ごめん」

私のせいだ。私の不注意で彼は轢かれた。

「なんで庇ったのよ、私が死んだ方が全然マシだよ」

叩かれた。彼の母親に。それもそうだ、私は居候の身であって彼の家族ではないのだ。

「なんでそういうこと言うの!あなたもうちの家族でしょ!それにこの子はまだ死んでない、好きなら奇跡を信じなさいよ!」

涙が止まらなかった。今まで一度もそんなこと言われたことは無かった。なんて私は馬鹿な考えを持ったのだろう、二つの感情が混ざりあい、ただ祈った。

「あなたに言わなきゃいけないことがあるの、起きて……!」

それから毎日通った。日常のこと、近所の人のこと、その日あったこと思いつく限り話し続けた。そしてその時がきた。


――ここはどこだ?俺は何をしてる?

記憶が混濁している。何も思い出せない。そもそもここはどこだ?辺り一面が暗く、何も見えない。

だんだん思い出した。そうだ俺はあの時あいつを庇って……

そこまで思い出して気づいた。あいつが居ない。どこだ、どこにいる!助けたんだから生きててくれ!ただ願いながら暗い中を走り続けた。先が見えないけれど走り続けた。昔の俺はそんな事しなかっただろう。こんなもがかなかっただろう。俺を変えてくれたのはあいつだ。落ち込んでるのを助けてくれたもあいつだ。俺はあいつを助けた結果、あいつにたくさん助けられた。まだ死にたくない。せめてあいつの顔が見たい。

その刹那――


目の前にアイツがいた。惚けた顔で俺を見ている。あたりを見る限りここは病院のようだ。そうか俺は入院していたのか。

「ごめんね、助けてくれてありがとう、目を覚ましてくれてありがとう」

痛いほど抱きつかれたが不思議と嫌ではない。俺の手は彼女の背中に触れていた。

「お前は無事か」

「あなたのおかげでどこにも怪我してないよ!あなたこそ今辛くない?大丈夫?」

「もう少しこのままでいてくれ」

ひたすらに抱きしめた。いつもほど力も入らないし、ベッドから体をあげるのも辛い。でもこのままでいたかった。

「私、あなたに伝えてないことがあるの」

「なにを?」

「私、あの日海に身投げしようとしてたの。あなたが来てくれて私を家に迎え入れてくれて本当にありがとう」

「それを選択したのはお前だ」

「またそれなの?奇跡は起こるよ?」

「起きた試しもそれで得したこともないだろ」

「あるよ!」

「いつだよ」

「今だよ。私を庇ってくれた王子様が起きて私を抱きしめてくれてるんだもん。こんな嬉しいこと初めてだよ!ずっと祈ってたからだよ。」

「それは褒められてるのか?」

「褒めてるよ!もう。とりあえず生きてくれてよかった。ありがとう」

「泣くならティッシュくらい持っとけよ」

彼女は、そうだねと言って、病室を出ようとした。きっと親に連絡するのだろう。しかしその前に俺は言うことがあった。

「ちょっと待ってくれ」

「どーしたの?」

「よく聞けよ」

「うん」

「好きだ」

恋人が亡くなってから初めての告白だ。胸がバクバクしてる。顔が赤いのが自分でもわかる。はやく、はやく答えをくれ、そんなことしか考えられなかった。

「私も好きだよ、愛してるよ。初めて助けてくれたあの日からあなたのことがずっと好き」

俺はまたベッドに横になった。


俺たちはそれぞれ仕事に追われながら楽しい生活を送っている。今思えばやはり、人生とは選択の連続であると思う。しかし、それだけではない。なぜなら相手の選択は自分には分からないのだから。人はそれを奇跡と呼ぶのであろう。今綴っているのも俺が選択したことであるが内容は奇跡の連続だ。

「何やってるのー?遅刻するよ?」

「今いくよ」

「あなた、最近遅いよね、朝からパソコンいじってるし」

「あなたって言い方よせよ」

「ずっとそう呼んできたでしょ」

「好きなやつには名前で呼ばれたいなぁ。じゃ、行ってくるな」

「頑張ってね、あなた」

きっと今の「あなた」にはどんなものでも勝てないだろう


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