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第六筋 ―説得も筋肉である―

 さて、この筋肉の裏切り者をどうしてくれよう……。


 吾輩は正直この男を断罪したくないのだ。それは、心に筋肉を宿すものの宿命優しさなのだ。


「もう、言い訳はしねぇ。好きにしてくれ……。」


 そうは言っているが男の処遇はできるだけ良いものにしたいのだ。


「しかし、貴様は由緒正しきこの魔法学校を二度に渡り害したのだ。」


 だが教官たちはそうではなさそうだ。その行いは筋肉ではないと言うのになぜわからないのだろう。ここでは許し、自らの手で正すことこそ今は筋肉であるというのに。だからこそ男は自分の大胸筋に嘘をつくことになったと言うのに。


「教官、少し待ってほしいのである。」

「しかし、許しておけん!」

「そうよ、こいつは先生たちを……。」


 ルージュは良き生徒である。それと同様にこの男は良き人間であるというのに何を考えているのだろうか。


「そもそもご自分の罪ではないか?」

「私になんの罪があるというのだ?」

「教官たちが、この男の未来を諦めたのが招いた悲劇ではないのか? 貴様らは諦めたのだ、この男の思いが歪むことを止めるのをを諦めたのだ。だから、こうなったのだ。」


 生まれたときから、悪い人間などいない。生まれたときは、皆筋肉たろうと思って生まれてくるのだ。だから、筋肉の道から外れざるを得ない事が起こって、もしくは誰かに筋肉の道から外れる誘惑を受けたかそのどちらかである。


 後者を筋肉でないと捨てることはまだ、筋肉の範疇だ。だが、前者を捨てるのは明らかに筋肉に反する。仮初といえど肉体にまで筋肉を宿すもののしていいことではない。


「ならどうするというのだね!?」


 教官たちも熱くなっている。話も聞かず断罪とは、どこまで吾輩が与えた筋肉を侮辱すれば気が済むのだろうか。


「まずは話を聞こうじゃないか。ただ、規則に反したからと言ってそれを断罪することは簡単だ。だが、頭ごなしに断罪するならそれは断じて筋肉ではない!」

「よしなさい!」


 教官たちの奥からひときわ筋骨隆々の老人が出てくる。この人物の治療は覚えている、ただ一度の詠唱でその筋肉を急激に隆起させ立てるほどまでに回復した老人だ。仮初の筋肉であれで見事なものである。腹にはきれいなシックスパック、多量の筋肉が放つ圧倒的癒しのオーラ。


「大山くん、君は正しい。だが、正しすぎてこの若造は君の言葉を理解できないのだよ。私が彼に変わってお詫びしよう。」

「おやめください、私は学長がおっしゃるならいくらでも謝罪いたします。」

「心のこもってない謝罪など無意味です、謝罪とは自ら行いたいときに行うのですよ。」


 わかった、この老人の筋肉がなぜあそこまでに増幅したのかが、この老人ははじめから心に筋肉を正しさを優しさを宿す人間だったのだ。だから、吾輩の魔法はこの老人にこれほどまでにきいたのだ。


「ですが、時として謝罪が必要にも関わらず謝罪をしたくない時がありますね。そのようなときのために私がいるのです。大山くん風に言うのならここでは私が謝るのが筋肉なのですよ。」


 この老人は聡明だ、聡明でいて筋肉だ。もし、体にも筋肉を宿す道を選んでいたのであれば吾輩以上の筋肉になるっただろう。


「さて、アゼルくん。私に君がなぜこんなことになるのか教えてくれるかな。できれば大山くんにもわかるように教えてくれ。彼は君を弁護したがっている。」


 男はポツポツと語りだした。


「俺は恋人を失ったんだ……。生き返らせたくて、奇跡の力が欲しかったんだ。魔法だけじゃどうしても越えられない壁の向こう側に蘇生の魔法は確かに存在するんだ。」

「馬鹿野郎!」


 思わず吾輩は軽く男を殴ってしまった。男は吐血している軟弱なことだ。


「貴様が、その上でやろうとしたのは貴様と同じ人間の量産だ! それに、生き返らされてどうなる。死ぬものは死せるべくして死ぬのだ、いたずらに理を曲げることは筋肉ではないのだ!」

「げほっ……そうだな、俺……筋肉じゃなかったわ……教えてくれるか、筋肉のあり方を。そうすれば乗り越えられる気がするんだ。」


 血を吐きながらも吾輩に弟子入りするとは見上げたやつである。


「お前の心はわかった、お前は今間違いなく筋肉である。」


 吾輩は教官たちに向き直った。


「教官殿、この男……アゼルを我輩に任せてはくれませぬか? 吾輩が立派な筋肉してくれる。」

「大山くんがそう言うなら、私は任せようと思うがお手柔らかにの。」

「別に筋肉にしなくていいのだが。」


 最高責任者が肯定した、これで吾輩が彼に筋肉を教えることになった。吾輩が捨てることない、吾輩がアゼルをどこに出しても恥ずかしくない立派な筋肉にするのだ。


「なんでいつも筋肉で解決するのよ……。」

兄貴と私!

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