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2-1


 考えてみれば、朝から飲まず食わずで全力疾走してきたんだ。お腹の虫が鳴くのも当たり前のことだった。

 恥ずかしくてできることなら走って逃げたかったけど、まだ足が思うように動いてはくれない。

「いつもよりはちょっと早いけど」

 独り言を言うと、彼女も立ち上がる。

「行こっ」

 グロリアはいきなり僕の右腕をつかんで走り出す。

「ちょ、ちょっと」

 軟弱な僕は彼女の手を振りほどくことができず、そのまま引きずられていく。満足に走ることのできない僕は何度もつまずきながらついていく。

 最悪だ。

 絶対に今日は厄日なんだ。

 どこへ行く気なんだろう。もしかして、教団の本部とかに連れていって洗脳とかして強引に信者にさせてしまおうとかってつもりなのではないのだろうか。

 冗談じゃない。警察もいやだけど、わけのわかんない宗教に入信させられるのはまっぴらごめんだよ。

 けど、今の僕にはグロリアに抵抗するだけのパワーはなく、為すが為されるままだった。お腹が空きすぎたのと、夏の日差しの強さで僕は今にも倒れてしまいそうだった。心臓がどっきんどっきんしている。このまま走り続けたら僕の心臓は停止してしまうかもしれない。

 それでもいいかもしれない。この世に別に未練とかって全然ないし、いっそのこと死んでしまったほうが楽かもしれない。煩わしいことからすべて解放されるし。次に生まれてくる時は何がいいかな。人間はもういやだ。犬や猫になって人間のペットになるのはいやだし。面倒だから生まれないほうがいい。死んだらずっと死んだまま。これでおしまい。それが一番かもしれない。

 最初から生まれてこなければよかったんだ。

 朦朧とする意識の中でそんなことを考えていると、急にグロリアの足が止まった。勢いのついている僕の足はすぐに止まることができなくて、グロリアの背中にぶつかって止まった。

 どうやら目的地に着いたらしい。

 くたくたになった僕はすぐその場に座りこんだ。できれば寝転びたいくらいだ。

 ずいぶん走ったような気がしたけど、周りをみれば見慣れた町内の住宅街だった。そして、目の前にはできてまだ間がないといった感じの真新しい二階建の白亜の建物があった。その建物を囲むように左右にずーっとブロック塀が続いている。敷地面積でいったらうちの病院ぐらいはあるかな。いや、それ以上かな。

 教会じゃないみたいだけど、何だろう。

「養護老人ホーム……希望園?」

 門柱のプレートを見て、僕は呟いた。そういえば、近くに老人ホームができたって誰か言ってたなぁ。

 けど、どうしてこんな所に? グロリアのおじいさんかおばあさんがいるのかな。

 も、もしかして老人ホームっていうのは世を忍ぶ仮の建物であって、実は地下とかに悪徳宗教の隠れ家があるなんていうんじゃないだろうな。

 グロリア=宗教の勧誘という結びつきが僕の頭から消えなかった。

「ぼ、僕をどうするつもりなんだ?」

 肩で息をしながら、僕は強気にでてみた。こっちが弱気を見せたら相手の思うツボだ。きっと入信させられてしまうにちがいない。だけど、グロリアはそんなこと関係ないといった感じでニコニコ笑っている。

「お腹空いてるんでしょう?」

 長い足を折り曲げてグロリアは、僕と同じ視線で話し掛けてくる。

「空いてなんか」

 ぎゅるるるぅ。

 タイミングがいいのか悪いのか、また僕のお腹の虫が騒ぎだした。あまりにも素直すぎるお腹の虫を恨めしく思った。

「ほらぁ。がまんは体によくないよ」

 くすくすと笑いながら僕の手を引いて立ち上がらせる。子供扱いされている。どうせ彼女のほうが年上だろうからいいんだけどね。

 僕はそのまま中へ入っていく。




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