いくよ
筆おろし
揺られること数時間。学園の正門に到着。既に正門の前にはたくさんの馬車が停まっている。
馬車はここまでだ。有能メイドさんが荷物は寮に送ったと言っていたので、とりあえず寮だな。
人が多い。なかでも圧倒的に女性が。
僕が馬車から降りると好奇の視線に晒される。
やめろよ、照れるじゃないか。と言うのは冗談で、実際は多数の人間の不躾な視線に晒されると緊張する。そんなに見てもなんもでないよ。
なんて考えてたら、不意に声がかかった。
「殿下」
うん?どこかで聞いたような、聞いたことないような声……。
「私であります」
あぁ……、
だれ?
「シルヴィアであります。お待ちしていたであります」
あー、シルかー。久しぶりー。元気してたー?
こいつはシルヴィア。って言っても今思い出した。髪が銀色だからシルヴィア。もちろん本名じゃない。物心ついた頃からどうも横文字の名前がなかなか覚えられないので、覚えやすいニックネームをつけてやったんだ。本人もそれでいいとのことだ。
「おかげ様で息災であります」
なにがおかげ様かよくわからんが、うむ苦しゅうない。
「不肖私めが殿下の案内役を仰せつかっているであります。まずは寮へご案内させていただくであります」
案内役か。だから正門にはこんな人がいるんだな。確かにチラホラエスコートしてるのが見える。この学園大きいからな無いと迷うわな。
ありがとう。案内頼むよ。あ。あと殿下じゃないから。
「もったいなきお言葉であります……」
えぇ……、なんか打ち震えてるよこの人。もう王族でもなんでもないのに重いなー。
そこから10分ほど歩くと、でっかいお屋敷が見えてきた。あれが寮のようだ。
シルヴィアの説明にすると寮は5つあるそうだ。
王族寮。男子貴族寮。女子貴族寮。男子寮。女子寮。
1つの寮に1つの屋敷。寮の振り分けは出自によって決まっているそうだ。
王族寮は完成個室。貴族寮はルームシェア。一般寮は多段ベッドもしくは雑魚寝らしい。
この説明を受けた時に思ったんだが僕は何寮だろう?
出自は王族に連なる貴族。だが、今は貴族ではない。伯爵家がお取り潰しになった後の僕の肩書は子爵預かりという形だ。何とも言えない。
その辺をシルに尋ねてみたところなんと王族寮らしい……。えぇ……。
ちなみにシルは女子貴族寮。寮の監督生をやっているそうだ。すごいなー。
寮の入口の門には大きな石像が鎮座しており、合言葉で退くそう仕組みだそうだ。
今月の合言葉は、男はあべ女はこべ
「こちらであります」
あれよあれよ、と寮内を案内されていく。
とりあえずわかったことはなんもかんも広すぎる。
最後に案内された自室なんてこんな広くしてどうすんだ?って感じである。
「以上であります。最後にお付きの者はどうされるでありますか?」
おつきのもの?なにそれ?
「王族寮生のみ特例的に従僕の所有が許されてるのであります。いかがなされるのでありますか?」
あー、パス。なしでー。
「……」
シルがめっちゃ困った顔してる。シルの綺麗な碧い目が、それじゃ困るであります、って物語っている。可愛い。
「危ないであります……。まだお決まりでないようでしたら、こちらに男性の従僕リストを用意してるであります」
だーかーらー。
「各寮で女子生徒による夜這い被害が近年増えてるであります。どうかご一考を……」
これだけは譲れない。学園生活くらい自由に過ごしたいんだよシルや。
シルも誰かの指示を受けているんだろうな。必死だ。
そう言えばシルが僕と最初にあったのはいつだっけ?
「で、殿下の5歳のお披露目の席であります。そ、それより――」
あー、そうだっけ。あんときか。懐かしいなー。そう言えばあんときシルが、でんかはシルがまもる!!、とかなんとか皆の前で宣言してたなー。
「今でも変わらずお護りするであります!!」
ならいーじゃん。危なくなったら呼ぶから、そんときはよろしくー。頼りにしてるからねシル。はい、これでこの話は終了。
「……ずるいであります」
女性のプライドをつついてこの話を終わらせる。この世界では女が男を守るのが一般的とされてるからね。
ほんと僕の知識として知っている男女間からは考えられない。
シルには何かあったらすぐに声をかける旨を伝え、女子貴族寮へ返した。
荷物を整理する。って言っても私物は少ないのだけれど。普通はこういうのも従者にやってもらうらしいけど、僕は自分でできることは自分でする方が好きな質だ。
ちょうど荷物を整理し終えた頃に、大きな鐘が2度3度と鳴った。正午の鐘だ。
そろそろ入園式の時間だな。
シルに入園式場は聞いていたので向かうことにする。ちなみひ入園式は食堂も兼ねている大講堂で行われるそうだ。
到着すると大講堂の入口は人人人でごった返していた。ここも女の子ばかりだ。
この人波を突っ切るのか……。
意を決して講堂の入口に向かう。講堂に近づくに連れて熱気が増してくる。そして、男の存在に気づいた女の子がじろじろ見てくるのがわかる。
ぽつぽつ絡んでくる人達も……。
「おーい、そこの男子。今からうちの家でお茶飲もう」
今から講堂で行われる入園式でお茶飲むんですよー。
「かっこいいね。どこの出?」
王都の出です。
「あ、握手してください!!」
あ。はい。にぎにぎ。
これは家庭教師から習っていた以上だなー。そんなに男が貴重なんだろうか?
見渡すと確かに絡まれている男子がちょくちょく見える。ただすげー邪険に追っ払ってる。強気だなー。
あ、そろそろ時間だから通してね~。っていうかみんなも時間でしょ?
僕が講堂へ入るとゾロゾロ着いてくる。まぁいいけど。
新入生は前の方だったはず。座席を突っ切り前の方に行くとそこでは上級生と思しき人たちが座席を振り分けていた。
「ここが王族寮!!ここは貴族寮!!あっ、そこの君そこは違う!!……」
講堂の喧騒もあって、上級生達ははもはや叫んでいる。
「王族寮以外の席は自由!!ただ新入生は前に来てください!!」
ふんふん。なるほどね。王族寮はここみたいだね。じゃあここに座って……
「きみ!!お付きの者は!?いない?じゃあ貴族寮だね?こっちこっち!!」
えぇ……。まぁ、いいけど。
「ごめんね!!このあたりでお願いね!!」
王族寮の席は中央にあり両横1列丸々空いている。貴族寮はその横で、一般寮の長テーブルは1番外側だ。
長テーブルには紙で包装されたナイフとフォーク、カップが置いてある。
周りを見渡すと、男子は固まる傾向にあった。僕みたく1人で座っている奴はいないようだ。
まぁいいか。その辺の空いてるスペースに座る。
それだけで周りがザワつき、女子からの強い視線を感じる。まずは挨拶、なんて考えてたら――「ハローハローハロー。ハロの名前はハロラ=ハロペス=ハロン。よろしくだーよ」
隣に金髪桃眼のスゴイのが来た……。
ええと……。ハロン?
「ハロのことはハロでいいーよ」
じゃあハロ。よろしくー。
「ハロもよろしくー」
でも、なんかこの子とは仲良くできそう。元気な子だし。
あっ、僕は――「ハロー!!」
ハロとは違った金髪の女子が駆け寄ってくる。ハロの肩口ほどの金髪は輝く金髪だけど、駆け寄ってきた彼女の肩甲骨ほどのの金髪はしっとりした滑らかな金髪。つまり、どっちも違ってどっちもいい!!
「急に姿を消したと思ったら……あなたは目を離すと何するかわからないから後当主様よりお目付け役を授かってるんです。ジッとしててください」
会って間もないけどハロは確かに何するかわからなそう。肝心のハロは僕の横で、あははー、と笑っている。これは聞いてないヤツですね。
「なんかねハロのアンテナにビビッと来たんだよ」
「こ、こちらの方は!?で、殿下!!」
あ、こら殿下とか言うな。周りが更にザワザワし始めただろうに。
まぁ、とりあえず座りなよ。
「きょ、恐縮です。わ、私はミハエル=クロウと申します。い、以後お見知りおきを……」
ハロを挟んで隣に座ったミハエル。なんか緊張してるなー。
ハロとミハエルと話していると隣に人の座る気配。
「殿下、横いい?」
だから、もう殿下じゃないと……。あと座った後に聞く意味あるの?
「無」
ですよねー。
ところでなんだこのちんまい子は?髪の毛長すぎない?センター分けしてる艶のある黒髪が床に届きそうだよ?
なんかおもしろい!!
「ミカラムキサ=ルパネ=ナガルコット」
なげぇ……。ごめん絶対覚えれない。ニックネームでもいい?
「可」
じゃあナーガ!!
「ナーガ?」
髪の毛長いから。
「了」
じゃ、決定ー。
「なになにーナーガちゃん?ハロー!!ハロはハロだーよ」
ハロが僕越しにナーガに自己紹介、のつもりだろうか?
「ハロ、自己紹介になってませんよ。私はミハエル=クロウと申します。このハロラ=ハロペス=ハロン共々よろしくお願いします」
ミハエル大変だなー。
「是」
ナーガは人見知りかな?ウリウリ。ちょうどいい位置に頭があるのでワチャワチャしてみる。
なにこの子!?髪の毛サラサラツヤツヤしてて気持ちーー!!
………
……
…
ボッサボッサなっちゃった……ので、お詫びも込めて入園式の間ずっと手櫛して上げた。
ちなみにナーガは終始されるがままだった。
よくよく考えたら初対面の子女の髪の毛触るとか、調子乗りすぎたな。反省。世界が世界ならセクハラもんだ。
ハロもーハロもー、とか言ってるがお前はそんなに髪長くないし、第一癖毛だろうが。指に絡まるわ!!
意味深