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 7:ドナドナドーナー

「お、なんだ、新入りか?」

「おうおう、見てたぜ、新入り。軍団長サマじきじきに連れてこられるたぁ、大したタマじゃねえか」

「まったくだ。俺なんかあの目に睨まれただけで軽く卒倒しちまうぜ」

「つうか普通は畏れ多くて近づくことすらできねえよ」

 テントの中の兵士たちがやんややんやと口を開く。

 なんだか歓迎されてます?

 スイマセン、メシ食いにきただけなんで。

 メシ食ったらスグに帰りますんで。

 サース。


「ところでアンタも、職無しかい? 新入り」


 ポンと肩を叩かれた。

 ハハ……おかしいですよね。

 面接には……たしかに受かったはずなんですけど……。なんでなんでしょう。

 やっぱり昨日バックレかけたのがいけなかったんですかね。まさかこんなことになるなんて……。


「まあまあそんな暗い顔すんな、職無しよ、俺たちも! ワッハッハ」

「ここにいるみんなそうだよ」

「だから無礼講で行こうぜ!」

「オレはつい先週連れてこられたんだ」

「俺は3か月前。だがまだこうして生きてる! ハッハッハッハ」

「ま、昨日来た新入りはわずか1日で……だったがな」

「…………」

「ま、まあ、運が悪かったんだよ」

「た、たまにはそういうこともあるってことさ!」

「そうだ、前向きに行こうぜ!」


 やがて、目の前のテーブルの上に、真っ黒で硬そうなパンと、なんの肉かはわからないけど脂の乗った美味そうな肉と、真っ白な、ウニみたいな要領で全方位に生えてるエノキのような物体、の載った皿が、どんどん並べられていった。

 はいはい飯テロ乙w

 ……ああ、これに手をつけてしまったら、いよいよもう、後戻りはできない。

 でもムリだよ。目の前のコレを食べずに席を立つなんて、俺にはムリだ……


「よし、じゃあ食おうか!」

「ああ、食おう食おう」

 まわりの兵士たちが次々手を伸ばしはじめる。

 はい。いただきます。


 さて、まずは黒パン。黒パンをいただきましょう。

 がぶっとかじりつく。硬っ。超硬い。でも何度かムリヤリ歯を入れると味がしてくる。あ、うま。うまあー。ヤバい自分のツバでアゴの奥が痛い。ふわああ、薫り、麦の薫りすごー。奥深いー。

 続いて肉。肉をいただきましょう。

 がぶっとかぶりつく。え、柔らかっ。超柔らかい。ぶ厚い皮と、その下のぶ厚い肉身。じゅわ。じゅわあー。肉汁が口の端からはみ出して滴り落ちる。止まらない。


「どうだ、美味いか? 新入り」


 うなずく。

 もちろんですとも。

 お次は謎の球体。球体をいただきましょう。

 正体不明だが、どうでもいい。腹が減ってりゃなんでも食える。

 フォークで突き刺して、かぶりつく。うん、エノキ。歯に引っかかるこの食感はまさにエノキ、でも球体の中身がエノキじゃない。なんかサクッとしてトロっとしてる。水餃子?みたいな味のとろみと、エノキが合わさって新しい食感が生まれる。正体不明だけど、これも、うまあー。

 気がつくと涙が出ていた。

 なんでだろ。おかしいな。こんなに美味しいのに。

 こんなに、幸せなのに。

 まわりの兵士たちも次々と舌鼓を打つ。


「うまいな!」

「ああ、うまい」

「なんてうまいんだろう!」

「人生で最高の食事だ!」

「おまえもしっかり食えよ新入り! ……これが、人生で最後のメシになるかもしれないんだからな」

「…………」

「いや、大丈夫さ! だって、俺たちにはあのグスタフ隊長がついてるんだぜ!」

「そうだ、そうだよ! 常勝無敗のグスタフ隊長がいれば、俺たちはぜったいに負けないんだ!」

「ああ、そうだな、そうだよな!」


 そのとき、ガラガラガラ……というタンカ的な音が近づいてきて、隣の救護室に、完っ全に緑色の顔をしたオッサンが運ばれてきた。


「ウソよ、ウソでしょおおおおお!」

「グスタフ隊長ぉおぉぉ!」

「しっかりしてください、隊長……!」

「救護班! 救護はーーーーん!」


 バタバタ、ドタドタ……。

 うぅ……にくがのどにつっかかってうまくのみこめない。


「馬鹿野郎……おまえら、……早く戦場へ、戻れ……」

「そんな……イヤです隊長!」

「吾輩の分まで……しっか、り、……」

「隊長おおおおおおおおおおお!!」


 うぅ……しかいがにじんでまえがみえない。


「……新入り。そろそろ食い終わったか?」

「さあ、行くぞ。俺たちも」

「グスタフ隊長のカタキを取るんだ」

「守るんだ。『人類の最前線』を」


 俺は逃げようとした。

 だが逃げられなかった。

 兵士たちが、俺の肩を両側からがっつりつかんで離さない。

 俺たちはゆっくり歩きだす。

 何やら虹色に発光する魔法陣に向かって、ゆっくりと。

 たしかな一歩を、踏み出していく。



♪ある晴れた昼下がり 戦場へ続く魔法陣(みち)

 甲冑がガチャガチャ 兵士を乗せていく

 かわいそうな兵士

 連れてかれるよ

 たった二日目にして

 GAMEOVER

 ドナドナドナドナ

 レベルは初期値

 ドナドナドナドナ

 無職の末路~



 魔法陣に足を踏み入れた瞬間、

 ヴンッとエラいGがかかって、周囲の景色が一変。

 建物の壁が、ごつごつしたむきだしの岩壁へ。

 空気のにおいも、清潔な街のにおいから荒々しい大自然のにおいへ。そこへ混じり合う、汗のにおい、血のにおい、獣のにおい。

 周囲には無数に立ち向かう兵士たち。

 空には無数に飛び交う翼竜(ワイバーン)たち。


「怯むな! 進めー!」

「第四部隊、撃てえー!」


 飛び交う怒号。

 鳴り止まない脳内警報。


 天空から、極太で巨大な火の矢が降り注いで、次々地面に着弾していく。

 けたたましい轟音、振動、爆音、爆風。

 駆け抜ける土煙。

 すぐ背後に着弾。

 あらゆる気力を根こそぎ奪い尽くす暴力的な奔流。


 死にかけた!

 ……しかし死んでいなかった。


 ドゴォン! ズゴゴォン!


 生命の危機に瀕した!

 しかしギリギリ回避した!


 キュインキュイン……カーーーッ


 命を損ないかけた!

 かろうじて損なわなかった!


 ジャリジャリジャリ……ポーーーン


 死んだ!

 が、気のせいだった!

 しかし、それも気のせいだった!

 奇跡的に生きていた!

 死んだ!

 死んでない……

 死にかけた……

 死んだ……

 死んで……

 死……




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