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 5:開始ソッコー放置プレイとか運営のやる気を疑う話

 で。

 ……で?

 うん。

 で?

 ポンッ! 申し遅れました。私がこの世界の案内役でーっす!

 的なさ。

 俺がこの世界に召還された理由を詳細に説明してくれる妖精的な女神的なさ。

 そういうのは?

 あ、そうだそうだ、そういえばいっちゃん最初に、なんかSiriさんみたいな声が聞こえたっけ。

 もしもーし、Siriさーん?

 はい、シーーン。

 ええ~、ちょっと待って、それ自由度高くねえ~……?

 チュートリアルいっさい無しとか運営のやる気を疑うんですけど。


 あたりを見回すと、うっすら青みがかった夜明け前の大通り。

 地面はコンクリートじゃなく石畳で、完全に見憶えのない建物たちが並んでいて、しかも夢とは違うリアルさで、俺が入ったバーはたしか雑居ビルの一階みたいな場所だった。でも目の前にあるのは三角屋根・木造一階建ての、いかにも酒場って感じの建物だ。

 そしてバーの隣には教会が建っていた。

 どんな立地だよ草生える……ああ、だからシスターさんたちがあんなにいっぱい来てたのか。


 はあ……異世界か。

 まあ……それはこの際ムリヤリ呑みこむとしても、お願いだからイージーな感じのヤツでお願いします。

 だってどう考えても「始まりの村」って雰囲気じゃないしな。

 さっきの光景ヤバかったな……。なんか子どもが銃ぶっ放してたもん。ダメだろ、あんなん。

 ……で、どうしたらいいっすかね?

 ていうか、気づいちゃったんだけど、死ぬほどハラ減ったんですけど……。ポーションは飲んだけどメシは食ってないんだ、そういえば。

 マック……すき家……はなまるうどん……グーグルマップで検索……スマホは……圏外。やっぱりか。ていうか電池があと9%しかないわ。充電しないと……充電……どこで?


 急に心細さがマックスになってきた。


 イカンイカン。思考を切り替えよう。プラス思考だ、プラス思考。

 考えなきゃいけないのは、まずは今日、寝るとこ、だよね!

 えーと、歴代の異世界主人公たちは「衣・食・住」の住をどうやってたっけ?

 そうだ、宿屋だ。

 宿屋をさがせばいいんだ。


 改めて周囲を見渡してみる。

 すると、通りの向こうのほうに明かりのついている建物を発見。こんな深夜4時とかに明かりがついているってことは、宿屋の可能性が高いんじゃないか?

 さっそく行ってみる。

 こぢんまりした、三階建ての建物。

 おっと軒先の看板に「宿屋レッドレッグ」と書いてある。いきなり当たりだった。

 二十四時間営業なのだろうか?


「ア バワーッス……」


 カランとベルのついた扉を開けると、すぐ目の前のカウンターには、なんというか、端的に言えばサイが、サイの主人が、カウンターに頬杖ついて鼻ちょうちんぷーしていた。俺に気づいたのか薄目を開けて、のっそり起きあがる。


「宿泊なんだな?」

 オーゥ、イェア、ジャパニーズオーケー?

「エア ソッス」

「何泊するんだな?」

「イス イッパクッス」

「じゃあチェックアウトは今からちょうど24時間後なんだな」

「イッス」

「260トエルなんだな」


 あら安い。異世界の宿、おやすいわ~。助かるわ~。

 サイの主人の目の前の、年季の入ったカルトンに小銭を並べていく。


 100円玉2枚と50円玉1枚と10円玉1枚


 で、ようやく気づいて慌てて回収し、サイの主人に引きつった笑みを向けて、あまりにテンパりすぎてそのまま逃げるようにバーの前までダッシュで帰ってきた。


 あー、何やってんの俺。

 円。

 なわけないじゃんね。

 え、260円?

 じゃないわ俺。

 なんか違う単位だったわ思いっきり。

 しかもよくわかんないけどめっちゃテンパった。

 あーもうムリ。ここから一歩も動けない。

 心細さで心臓が弾け飛びそう。

 そのとき、ふと隣に教会があることを思いだした。

 ……そういえば教会ってさ、迷える子羊を助けてくれる的な場所じゃなかったっけ?

 あ、ウン、俺オオカミらしいんだけど、でも完全に迷えるオオカミだから、手を差しのべてくれたりしないかしら?

 教会の扉にそっと手をかけてみる。

 開いた。フツーに。

 え、いいかなおじゃましちゃって。

 いいよね、サーセン今日から信者になるんでアーメン。


「オジャマ シマース……」


 中には誰もいないみたいだった。

 月明かりがステンドグラスから射し込んでいる。ベンチみたいな長椅子がたくさん並んでいる。奥には祭壇。写真とかでは見たことあるけど、実際入ったのってこれまた初めてだな……。天井超高いし。

 真ん中あたりのベンチに適当に腰をおろすと、完全にケツがへばりついた。

 二度と立ち上がれる気しない。

 カバンを横に放り出し、何気なくファスナーを開ける。

 すると、もう完全に忘れ去ってたけど、スティックメロンパンとさけるチーズと納豆巻きが入ったコンビニの袋が見つかった。

 !!!

 神がいた。

 そーだった、忘れてた。マジで助かった。

 危うく餓死するところだった。

 フィルムを開けて、無我夢中でがっつく。

 もしゃもしゃ……。

 もしゃもしゃ……。

 ああ、日本の味……。

 ヤバい……あまりにも腹減りすぎてて、ぜんぶたいらげてしまった……。

 さよなら、日本の味……。

 腹いっぱいに、なったかな……。

 なったことにしよう。

 これからどうしよう。

 あのバーでやってけるんかな。

 給料出るんだろうか。

 時給いくらなのかとか。

 そういうことぜんぜん聞いてなかったな。

 ごろんと横になって、自分のシッポにくるまった。お、セルフ枕だ。こういうときは便利だなコレ。

 ……あ、そうだ。

 いちおう決意表明しとこう。


 さてさて始まりました異世界生活。

 どこに死亡フラグが転がってるかわからない、

 まったく先の見通しが立たない、

 しかもバーテンダーなんてぜったい向いてない、

 そんな俺の異世界生活!

 がぜん、楽しくなってきたぞー!


 ……うん、ゴメン。

 ぜんぜんそんなわけないわorz



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