表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つなぐひと  作者: 弦岸すばる
《 篝火花 =Secret Language=》
8/12

♯03 争えない血

「やっぱり、探しに行っちゃったのね」

「だろうなぁ……まったく、気になったらまっしぐらな性格は誰に似たんだか」

「あら、自覚ないの?」

「………ないとは、言わないけど」


 もう日も沈みかけた夕暮れ。

 ソニアに事の顛末(てんまつ)を聞いたヴェロニカの両親は思わず苦笑を浮かべた。とりあえず、日が暮れる前にソニアを二つ隣の家へと送り、今は自宅のリビングでのんびりとお茶にしている。一人息子が帰らないと聞けば、普通は慌てるものだが、この家族に限ってそれはなかった。二人とも、のほほんとお茶をすすりつつ、まるで天気の話でもするかのような口調である。


「向かったのが森なら心配ないわね」

「まだ日も長いしな」


 若くからインタープリターとして身を立てる二人の体質を継いで、ヴェロニカもグラスプを持っている。

 グラスプの中には特定の植物としか会話の出来ない者もいるが、遺伝的に継がれた者の殆どは、(しゅ)を選ばすオールマイティーに話しが出来る。ヴェロニカが持つのは正にそれだった。

 町からすぐの森なら、この二人の息子として樹に名が知れているし、よく通うから彼自身も顔が利く。万が一、道に迷っても助けてもらえるから心配はない。

 もちろん中には危険な場所もあるが、幼いながらにヴェロニカはそうもいう場所をちゃんと心得ていた。


「問題は見つかるかよね」


 はぁと息をついて母親が口を開く。


「あの子、絶対場所を訊きはしないでしょうし」

「まぁな」


 呟いてまたお茶をすする。

 インタープリターはいくら初めて踏み入る森でも、求めている植物の生育地を他の植物に訊いたりはしない。

 特に草本類に関しては、自らの知識を持ってしてたどり着く事が出来ないなら、植物からの信頼は得られない。場合によっては命を託される立場である。誰だって無知の者に身を(ゆだ)ねるような真似はしたくないだろう。

 だから、彼らは訊かない。

 それがインタープリターと植物の間に交わされる、相手を(おもんぱ)かるための一つの礼儀だった。

 ただ今回の場合、ヴェロニカはインタープリターではないし、訊いても樹はきっと答えてくれるのだが、それでもやはり彼は訊かないだろう。

 両親の仕事について行くうち、誰に教わらなくても、そのルールを理解しているようだった。


「継ぐ気でいるのかな?」

「さぁ、どうなのかしらね」


 まだ子供よ、と言いながらも彼女は嬉しそうに笑む。

 若干十歳にして、植物の知識にとても長けている。

 その学ぶ姿勢と吸収の速さは見ていて舌を巻くものがあった。もしインタープリターになる気があるなら、今から将来が楽しみではある。


「それにしても…」

「なに?」


 顔を上げると、訝しげに眉をひそめた淡い瞳がそこにいる。


「アイツ、篝火花を森で見たことあったっけ?」

(いち)ではあるのだろうけど、自生のは無いんじゃない」

「て事はさ、生育環境は知らないよな」

「…………そうね」


 何の情報の無いものを一から探すのはかなり骨が折れる。

 ある程度の経験があれば、その植物の外見から好む生育環境の予想がつくが、まだ十の子に果たしてそれが出来るのか。


「しかも夏に咲く篝火花か…噂でしか聞いたこと無いよ」

「そうねぇ…」


 近ごろ遠出の依頼が続き、森に入る機会がなかったため噂の真意は定かでない。

 よしんば篝火花の群落が見つかったとしても、夏咲きのものが一緒にあるとは限らないのだ。

 一人息子がいるであろう方向を二人が見れば、窓の向こうに赤く暮れなずむ木々が見えた。


「まぁ、待ってみましょう。噂が本当ならヴェロニカはきっと見つけるわ」

「だな。お手並み拝見だ」


 互いに顔を見合せて笑い、また一口お茶を含んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ