♯01 朝日の中で
昇り始めた朝日を浴びて、夏草が珠のような朝露を輝かせる。
目覚めたばかりの柔らかいな緑がまばゆい中、葉の上の小さな露が煌めく様はこの時期の朝がもつ特有の美しさだ。
庭先に出れば足首を撫でる草がこそばゆくも気持ちいい。
ソニアは朝のひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んで、そのまま指を組み、伸びをした。
湿った土の匂いが、夏の訪れを静かに告げている。
「おはようソニア」
「…ヴェロニカ。おはよう」
声に呼ばれて視線を向ければ、家の前の道から見慣れた長身が手を振っていた。
いつもと同じつなぎを着て、束ねきれない短いものが結んだ髪から多くあぶれている。いい?と訊く彼に頷くと、お邪魔しますと呟いてから庭に入ってきた。
「今日は早いんだね」
「ヴェロニカ程じゃないけどね」
インタープリターである彼の朝は早い。
日の出とほぼ同時に起きて、依頼が無ければ家の近くを散歩しつつ周辺の木と立ち話をするのが日課だった。大抵の植物は日が昇ると同時に活動を開始するから、仕事の都合上、自然と生活リズムが植物寄りになってしまう。
「いい朝だねぇ」
つい先ほどまで自分がしていたように、隣に並んだヴェロニカが、うー、と長く伸びをした。
そんな様子を見ながら、
「……お爺さんみたい」
率直に呟いた。
「ひどいなぁ」
ソニア言葉に、ヴェロニカは苦笑気味に口を弛ませる。その顔に笑って、ソニアは庭の隅に視線を移した。
「…篝火花がね、そろそろ咲きそうなの」
「あぁ、そっか。もう夏だもんね」
言って二人で眺める庭の一角に、地を這うようにしながら四方へ葉を伸ばした草がある。
その中心からひょろりと茎が上向きに生え、先端についた花は、空を目指すように反り返る花びらを薄く重ねていた。濃い臙脂色に縁取られた花びらが、夏草の碧に映えて鮮やかなコントラストで自己を主張しているのが美しい。
「大事にしてもらってるんだね」
そばに駆け寄って挨拶してから、ヴェロニカは満面の笑みで振り変える。
その笑みを受けてソニアも笑った。
「当たり前よ。だって……」
言葉を切ると視線を上げる。
空は次第に色相を変え、この季節の濃い蒼を表しながら、初夏の一日の始まりを静かに告げていた。