ロリコンヒーロー サンダー・ドラゴン③
とどめを刺し終え、一息つく。私、松澤怜奈はこれまで、サンダー・ドラゴンに変身(衣装を着こんだだけなんだけど……)して、この手の変質者を数多く葬ってきたけれど、まさか学校でこの姿になるとは思わなかったなぁ。
きっかけは、単なるうわさ。とある女生徒が、中等部の校舎で、緑色の怪物を見たという。
目撃者は、誠心学園中等部一年の、佐々木彩音ちゃん。眼鏡とおさげという、素晴らしい組み合わせの眼鏡幼女だ。
うわさを聞き付けた私は、直接話を聞くことにした。曰く、飼育委員で早朝に学校に行ったら、校舎裏の茂みに大きな緑の化け物が出たんだってさ。
そして、誰も私の話を信じてくれないと、涙ながらに訴えた。私は、その姿に心打たれ、可愛い泣き顔を抱きしめながら、「私に任せろ、正体を突き止めてやる」と固く誓った。
彼女の話は、眉唾かもしれないが、私は信じた。というか、確信があった。
「ここ、プールが近くて、茂みが濃いし、樹も葉っぱが生い茂っていて身を隠してくれるから、盗撮するなら最高の場所なんだよね。私がコイツなら、そりゃあここに陣取るよ」
前々から、この茂みはステ……じゃ無かった。危険な場所だと思ってたんだよね。だから、彩音ちゃんの話を聞いた時も、つい「ああ、だろうな」と呟いてしまった。
そして、隠しカメラを仕掛け、下手人が現れるのを待った。幸い、仕掛けてから三日程で現れたため、対して苦労せず捕らえる事が出来たんだよね。それに、確認する時間もプールの授業がある時間だけで済んだし。
「彩音ちゃんには、何でも一つだけいう事を聞いてくれるように、お願いしといたし、何にしようかなぁ~。メイド服でご主人様プレイとか……」
そう、報酬として一つだけ彼女にお願いしといたのだ。もちろん、命令では無く「この件は私が何とかするから、一つだけ、お姉ちゃんもお願いしていい?」と、優しく語り掛ける感じで。
そして、可愛く「うん、分かった。私に出来る事なら、何でも言って」と答えてくれた。だから、彼女に出来る精一杯をして貰おうと思っている。
「いや、まてよ。だったら、エリナちゃんのコスを自作して、試着して貰えばいいんじゃないかな。趣味がコスプレとか言っといて、採寸とか言えば、納得して貰えるだろうし。今着ている衣装も自作だから、技術的にも不可能じゃあない。うん、いいな! これでいこう!」
その為の衣装代やらを計上していると、ふと倒した盗撮犯の落としたカメラが目に入った。おそらく、彼も幼女が欲しくて、欲しくてたまらなかったのだろう。だから、道を踏み外してしまった。その気持ちは、同じロリコンとして、まぁ分からなくも無い。だけど、やっていい事と悪い事があると思う。
「その点、私は違うわ。ちゃんと正義の名のもとに、合意を取って可愛い衣装を着て貰って、アルバムに収めているんだからね! ハーハッハッハッ!」
「何が正義だ、こんのド変態!」
「ゴフォッ!」
一人高笑いしていると、国語辞典が顔面めがけて飛んできた。戦闘態勢なら軽々と避けれるのだが、彩音ちゃんのエリナちゃんコス妄想に全精神を集中させていたせいで、顔面に直撃。つけていたバイザーも吹っ飛んでしまった。
顔面めがけて、容赦なく国語辞典を投げつけたのは、我が愛しの妹である星井穂村だ。透き通るような綺麗なロングの黒髪に、パッチリとした可愛らしいおめめ。純粋で、真っ直ぐな性格の、我が最愛の妹にして、最高のロリだ。
その彼女は今、顔を真っ赤にして、憤怒の形相を浮かべている。目を吊り上げて怒っているのだけど、それもそれで、イイッ!
ただ、今の私はお姉ちゃんではなく正義のヒーロー、サンダー・ドラゴンだ。ここは、顔を手で隠し、姉では無くヒーローとして振舞わねばならない。悲しい事だが、今の穂村ちゃんを写真に収めて、妹アルバムVol42に収録する余裕も無いのだ。
「いや、それで隠れてると思ってんの⁉とっくの昔にバレバレなんだけど!」
あら、流石我が妹。やっぱり姉を見極めてくれたよ。嬉しいなぁ、ぐへへへ。
「そのヒーローごっこもいい加減にしてよね! ただでさえ恥ずかしいのに、他の友達にばれたらもう私、学校行けなくなっちゃうよ!」
「ごっこじゃないよ、本気本気。現に、今日も悪を滅ぼしたしね♪」
「余計に性質が悪いわよ! そのせいで唯の変態から、伝説の変態になってんじゃない!」
え、そうなんだ。もしかして、私って結構有名人だったりする?
「それが、身内だって知れ渡ったら、ううっ、何もかもお終いよ……。ただでさえ、バカ姉の妹ってだけで、皆から奇異の目で見られるっていうのに。そんな変な格好して、いい歳してヒーロー活動。恥ずかしくないの!」
「別に。お姉ちゃんはね、正しい事をしていると思っているから、恥ずかしくなんてないわよ。周囲に何を言われようが、この世のロリの為に、私は戦い続ける!」
「その周囲の迷惑も考えてよね! 誰もが皆、バカ姉みたく強くて変態じゃあないんだよ!」
うわ、マジ泣きだ。目元に涙を浮かべて、怒ってる。
「いいから、さっさと着替えなさい! その恰好を誰かに見られでもしたら、絶対に許さないんだからね!」
「はいはい、分かったわよ。これからは、学校では変身しない様にするわね」
「変身じゃ無くて変態でしょうが! それと今後、家の中以外でその恰好になったら、姉妹の縁を切るからね!」
「そんな! だったら、私は何処で幼女を助けなくちゃいけないの⁉」
「助けなくていい! そんなの、警察にでも任せとけ!」
冷たいなぁ、穂村ちゃん。昔はこの格好も、カッコイイとか言ってくれたのに、中学に上がってから妙に冷たい。
それと、人にどう思われるかを、やたら気にかけるようになった。多分、それが大人になるって事なんだろう。だからか、「普通は中学生にもなれば、姉と一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝ない」とか言って、スキンシップも激減している。
「はぁ……大人になるって、悲しい事ね」
「? 馬鹿言ってないで、とっとと着替えちゃいなさい」
「はいはい、分かったわよ、もう」
ため息をつきながらも、衣装を鞄に詰め込み、制服に着替える。
「あーあ、穂村ちゃん、昔はもっと可愛げがあったのになぁ。最近は、口を開けば怒鳴ってバッカ。冷たいよ、酷いよ。お姉ちゃん、寂しいよ」
「だったら、その性癖と奇行を何とかしなさい」
「無理よ。私がロリコンなのは、道を違えたのではなく、道が曲がってたからだから。そう、これは運命なのよ! こんなに可愛い妹に巡り逢えて、ロリに目覚めずにいられるか!」
「目覚めるかっ! 何でまた、そうなっちゃうのよ、この変態!」
妹に変態と言われようが、私は気にしない。ロリのさだめに従い、戦い続けると誓ったのだから。
ただ、それでも、ゴミを見る目つきで姉を見るのは、勘弁してください。結構ハートに響くの。ブレイクするの。でも、ちょっぴりゾクゾクするの。
「そういや、バカ姉が余計に馬鹿になってから、もうすぐ一年だってのに、よくもまぁ今まで公にならなかったわね……」
「その点なら大丈夫。私には、幼女教がバックアップしてくれてるから。情報操作もちょちょってね」
「はいはい。もうバカ姉が何をしようが、驚かないわよ」
ため息をつきながら、呆れるように呟かれた。あと、バカ姉って呼び方、やめてくんないかなぁ。それも地味に傷つくんだけど……。
「きゃぁぁ。だ、誰か、た、助けて~」
声が、聞こえた。小さな、今にも消え入りそうな程のか細い声だったが、間違いなく助けを求める声だった。
「聞こえる、幼女の呼ぶ声が! 場所は……ここから200メートル先の、児童公園ね!」
「……私には全然聞こえなかったけど、バカ姉には分かるんだろうね。昔っから、私が泣いていたら、何故だか何処にいてもすっ飛んできたし」
妹が、超常生物を見るような目で、私を見てくる。失礼な、私の体内に内包する幼女レーダーは、半径五キロの幼女の悲鳴を聞き分けて、場所が分かるだけだよ。化け物じゃあないよ。
「とにかく! 正義のヒーロー、サンダー・ドラゴン。助けを求める声あらば、今すぐ急行!」
「何故着替える⁉ お願い、その恰好だけはやめて!せめて格好だけでも、普通でいてー!」
制服脱ぎ捨て、即座に再変身。衣装に身を包み現場へ急行だ! ……後ろで妹の泣き声が響いてきたけど、今だけは気にしない事にした。後の叱責より、今の幼女の方が大切だ。
……謝って、許してくれるかなぁ。絶交とか言われたら、泣いちゃうよ、私。