謎
次の日、真田は結局徹夜明けでそのまま会社に行った。眠いをこすりながらコーヒーを飲み昨日のことをまとめだした。マキの話を鵜呑みにすることはできないので、自分なりにわからないことをまとめて調べることにした。真田は、部下に仕事を次々に振り分け、自分の時間を空け、まずは昨日マキがいっていた内容にどこまで信憑性があるか考えることにした。結局、マキは昨日、重要なことはなにひとつ言わなかった。別に信用してないわけではないがそこも気になった。まずはノートに調べる内容をまとめた。
1 昨日マキが話していた「キャバ嬢たちの間で話題になっている噂」
2 日記に度々登場するという「TOTO」という店
3 日記を書いたキャバ嬢のこと
とりあえず真田はまず、キャバ嬢の噂について真相をつきとめることにした。
「ちょっと調べ物をしてくるので席を外します。あ、外も回るので今日は帰ってこないかもしれないので、なにかあったら携帯に」
と、部下の女の子に言い残し真田は会社を出た。近くの喫茶店に入り、コーヒーはすっかり飽きたのでオレンジジュースとパンを注文する。体全体にだるさが残っていたのでオレンジジュースでリフレッシュできればと思ったのだ。
まずは夜のホステスさんたちに噂になっていることを調べて見る。
この噂についてはマキは話してくれなかった…というより話すつもりが最初からなかったのだろう。
ということは、この噂の話は自分に知られたくない…とうことだろうか。
だがこれを知ればなんとなくマキの目的がわかると真田は思った。彼は、カバンからノートPCを取り出しWifiをつないで検索をかけてみた。
一気に様々な情報サイトが検索にひっかかる。真田は午前中の全てをつかって調べてみたが、やれどこの芸能人がきたとか、有名人の飲み方が汚いや、こんな客がいいこんな客は嫌だとかそんなものばかりだった。
ただその中で気になったのが、「R.E」とかかれたワードだった。検索サイトにはなかったが、おそらくの夜に働く女たちのSNSにたまに登場するワードだった。
「R.Eって何かわかった?」
このワードが一番多かったが、真田はまったく見当がつかなかった。はじめは若い女の子が使う隠語かと思ったが検索に出てくるのはワッフルケーキ屋ばかりだ。真田の直感だったがこれがきっとマキが探しているものだろうとなんの根拠もなく思った。
真田はしばらく考えてみたりパソコンをいじったりしていたが、刑事や探偵でもない自分がネットだけで探すのは不可能だと理解するのに時間はかからなかった。
「あーあー。また面倒なこと約束しちゃったな…」
真田は自分の甘さを呪った。だいたい、なんであんな紙切れから妄想を膨らまして、おもしろそうと思ってしまったのか…いつもなら適当に断って逃げるのに…今回はなぜか心にひっかかって逃げる気は起こらなかった。
仕方なく、真田は携帯を手に取り一人の男に電話をすることにした。忙しいやつだから、あんまり連絡したくないんだがな…と思いながら電話をしたが、その相手はやはり忙しいのか出なかった。
「やっぱ出ないか…」と思った瞬間、電話がなった。
表示をみると…マキだった。ちょうど午後一なのでマキが起きる時間だった。
「おはよう!シンちゃん!」
マキはゆっくり睡眠をとったのかいつもにまして元気が良かった。
シンちゃんと呼び名が変わったのは、親近感を高めるためらしかった。真田の名前は信介と言った。
「おはよう!起きたのか?ちゃんと寝れた?」若干、嫌味ぽくこたえた。
「うん。寝れたよ。ねぇねぇ、TOTOっていうお店はわかった?」
こっちの嫌味攻撃は、まった効かなかった様でマキは元気に質問してきた。
TOTOとは、日記に登場するバーで度々書いて有るらしかった。なのでマキはとりあえずそのお店を調べて、一緒にさぐりに行こうってことになっていた。
「そんな急にわかるかよ。わかったらまた連絡するから」
「うん。待ってるね!」
「はいはい、じゃぁね!」
真田は急いで電話を切った。なにかすごく照れくさかったからだ。
昨日、彼女に言われたことを思い出す。
彼女は、真田に自分を好きになってほしいと言った。
だがそれはマキは例の日記を正確になぞる為の方法論にすぎない。変に思い違いをすると痛い目をみそうなので真田はあまり考えないことにしていた。
と、また電話が鳴った。また、マキかと思い面倒に電話の表示をみると
「橘」
と表示されていた。さっき真田が電話をかけた相手だった。
「もしもし、忙しいところごめんね」
「いや、大丈夫ですわ!電話もらってすいません!」
その男、橘は偽関西弁で元気に答えた。橘という男は、真田と前の会社の同僚で、情報収集の仕事をしていた。その情報収集能力はかなりのもで真田は度々、仕事で使う市場調査のレポートの情報を橘にお願いしていた。
「わるい、ちょっと仕事じゃないんだが…調べてほしいことがあるんだ。いいか?」
「かまわへんけど…ちなみにどんなんなんすか?」
橘は自分に調べられないことはないという自身満々で真田に答える
「ありがとう。キーワードは、キャバ嬢の噂 R.E それだけ」
「は?なんですか、それ?というか、本当に真田さんの仕事と関係なさそうですね…」
橘は、訝しそうに答えたがとりあえず調べると言ってくれた。
「あと、もうひとつ…TOTOというBARをしらべてほしいんだけど」
「BARですか?」
「ああ、検索してもそれらしい店が出てこないんだ。さっきのR.Eに関係あると思うんだけどね」
真田は自信なさげに言うと橘は、しばらく考えて
「よくわからんけど…調べときますわ!わかったら連絡しますんで」
真田は「悪いね。よろしくね。」と電話をきった。
彼は、またPCを開いた。とりあえず橘にまかせておけば何かでてくるだろうと思ってはいたが自分でもできるだけ調べることにした。
昨日のことを回想してみる。マキとの密会は楽しかったがそれはとりあえずおいておいて気になることは…日記のことだ。マキはまず自分のロッカーでその日記の一部であるメモを見つけたと言っていた。だが、あんな紙切れ一枚の他人のメモを気にするだろうか…また日記本体はトイレに巧妙に隠してあったと言っていたが、タンクの裏側なんて普通見ない。マキには悪いがそこは嘘をついているのだろうと思った。だとしたら、なぜ嘘をつく必要があったのか…。
それと、もうひとつ…なぜ自分をこの謎解きのパートナーに選んだのか…。これは想像だが、おそらくマキのお客の中にはもっと相応しい人間がいたはずだ。ましてや真田は月に2回程度しか店に行かない細客。マキのためならなんでもするようなお客もいることだろう…。納得いかないことばかりだった。
若干、怖さを感じたがマキが自分の上をいって、真田をはめることなどできるわけないという自信もあるし、この内容に興味がわいたのも事実だった。
結局、この日から半月は進展がなかった。
ただマキから送られてくるメールの数はものすごいことになっていた。
今まで月に2〜3回程度しか送られてこなかったメールが、1日に30通くらいにまで増えていた。
だが、ほとんどこの謎についてのメールではなくお互いの近況や今までどんな人と付き合ってきたかとかプライベーの内容ばかりだ。
真田はそれについては、おそらくマキが自分を「さなやん」に仕立てようとしてるのだと思うことにした。