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マキの相談

「お待たせしました。豚しゃぶサラダとウィスキーの水割りです。」


そんな話をしていると、店員が注文したものを運んできた。

マキは、あれからちょっと不機嫌だった。真田としても、赤霧島の水割りとウィスキーが被ってしまったことに文句を言いたかったが、なにやらマキの様子をみて大人しくしていた。


「だいたいさぁ…」マキがようやく口を開いた。


「おう…」真田もちょっとあわて気味に答える。マキはその美しい横顔をみせたまま顔を合わせようとしない。


「こんな若くて可愛い子に、なんでもいうことを聞いてあげるって言われて来年のバレンタインって…ひどくない?」


「そ、そうかな…」


真田は、そこかよ!と少し思ったがこれ以上マキの機嫌を損ねるのもこまるので話題を変えた。


「で、マキは俺に何をしてほしいの?」


「それは今から話すけど。その前に真田さんは私を指名してくれて2ヶ月ちょっとだけど…真田さんって、私のこと好き?」


真田はマキの問いにおもわず吹き出してしまった。そのストレートな問いはなかなか答えづらい質問だった。若い娘と飲みたいだけと思うこともあるが指名したのだから少しは恋愛感情的なものがあったのかもしれない。


マキは視線を合わせず相変わらず横を見ている。真田は思っていることをそのまま言うことにした。


「好きって言うか…そんな真剣に考えたことはないな…」


真田が恐る恐る言うとマキは急に顔をこちらに向けて


「そうだよね。真田さんは、私のお客の中ではかなり冷めたほうだからな…でも指名してくれたってことは、ちょっとは興味あったんでしょ?」


「まぁさ、タイプ…なのかどうかはわからないけど、すごく綺麗だなって思ったことは認める。あと、一緒にいてすごく気楽だってこともな。」


「じゃ、いつか私のことを好きになってくれそうかな?」


とマキは真剣な顔で言った。真田は、マキの心を測りかねた。まさかこんなディープな話になるとは思ってなかったので面食らった。というか、キャバ嬢に相手にそんなことにになったら1年もしないうちに精神は病み、財布は崩壊するだろう…しばらく呆然とマキを見ていたが真田は、「ああ」と一つの結論を出した。


「それってもっと、店に通ってことか?」


真田は自嘲気味に答えた。なるほど、これが大掛かりな営業なら納得できる。謎を一緒にとくという共同作業をチラつかせ、お店にたくさん通えばマキの利益につながる。あまり売り上げにこだわらない娘かなって思っていたので、真田にとってはマキの言葉はとっても意外に思えたが、それならつじつまがあう。

しかし、マキは軽くため息をついて反論した。


「ううん。もう、真田さんまでそういうこと言うなんて、ちょっと凹む…」


真田は、とりあえず無言でマキの続きを待った。


「まぁいいや。でも私の職業ならそう思うよね。えっとね…真田さんはもう店にこないで。私は携帯もプライベートのやつ教えるし、住んでるマンションも教えるから、今度からは店の外で会おうよ」


「は?」真田はびっくりして声をあげてしまった。


「それは…どういう…」真田はカバンの中からタバコを取り出し、火をつけた。

どうにも納得ができない。店の外で会うということは彼女たちキャバ嬢にとってタダ働きとうことになる。


マキは軽くウィスキーの水割りに口をつけ話始めた。そして手に取った日記をパラパラとめくる。真田はなんとなくそういう話を聞いた後では、マキの行動一つひとつが気になりだした。


「この日記には、最近このキャバクラ業界で噂になってるある出来事が書いてあったの。そしてそれは私がずっと気になっていたことでもあるの」


「業界の噂?」


「そう!ちょっと訳があってその内容については話せないけど、要はこの日記を書いた女の子は、その噂話について実際に体験した娘なの…」


真田はまた混乱した。マキはいったい何をするつもりなのだろうか…マキは真田の質問を受けるつもりはないらしく話を続けた。


「でね。この日記を書いた娘は、間違いなく私と同業の子。日記にはいろいろな男の人がでてくるけど…ほとんどがさっき言った「さなやん」っていう人とのことが書いてあるの。」


「うんうん。」真田はだまって頷く。


「つまり、私が求めてる噂の真相にたどり着くにはこのさなやん役の人がどうしても必要なの。私と一緒に、この日記のストーリーに合わせて辿っていくパートナーさん」


「ちょっと待て。じゃ、マキはその日記に書いてあることをそのまま実行していくつもりか?」真田はやっと声にだして答えた。


「そう!じゃないとその噂の真相にたどり着けないって思うの…」


「うーん、よくわからないけどさっき言ってた「さなやん」という男が、日記を書いたキャバ嬢が好きだったんだな?それで、俺にもマキを好きになってもらい日記と同じように行動したい…ってことか?」


「そう!さすが真田さん!」マキが小さく手をたたき、パチパチと音を立てる。


「でもとりあえず俺はなにをすればいいんだ?その噂話の内容がわからないと調べようもないんだけど…」


「真田さん…じゃなくて、これからはしんちゃんって呼ぶね。とりあえず、日記の中の2人が行動しだしたのが3月なの。だから3月まではゆっくりしてて…」


「しんちゃんかよ」真田は思わず表情をくずす。真田の名前は信介だった。


「あ、でも3月までにTOTOっていうBARを調べてほしいの。場所とかね」


マキはそう言って、真田を見た。BARならすぐ見つかるだろうと真田は思ったがそれより聞きたいことがあった。



「でもさ…なんで俺?」


「う〜ん…秘密!」


マキはちょっと遠くを見ながら言った。なんか恋をしているような目だったがまさか日記の相手に恋するほど純情ではないだろう…と真田は密かに思った。


「それにね…この日記を書いた娘…私になんか似てるの…」


そしてマキは静かにグラスを見つめていた。


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