キャバ嬢の放課後
その日、マキことサナは、夜1時に仕事を終えた。
待機室に戻ると既に、リカはいなかった。きっと真田に会いにいったんだだろう。
サナは、自分の椅子に座る。特に待機室では自分の席なんていうものは無いのだが暗黙の了解でだいたい決まっている。サナは携帯を鞄から取り出し、メールとラインをチェックする。今日きてくれたお客さんからはほぼメールがきていたが、真田からはあれ以来きていなかった。
「別にいいんだけど…」
とサナはつぶやきながら、お客さんから来たメールに、手帳を見ながら一つひとつ返事を書いた。手帳には、お客さんの名前とともにその特徴がかいてある。
「エロメガネの金持ち」「ハゲとちょびひげ」「時計マニアででかい」
等、とてもお客さんには見せられない内容だが、日々違う男と会うこの仕事で、ボチボチやっていくには、大事なことだとサナは思っている。
サナは今日は一人でこのまま家に帰るのが嫌だなと思った。
そうすると、お客さんからきたメールひとつ一つが誘惑になる。
この人たちに、今から会いたい とメールしたらほとんどの人がタクシーを飛ばしてこの池袋にやってくるだろう。
好きという感覚はないが、何人かイケメンもいるし信じられないくらい金持ちもいる。だが、その人たちが私のことをどう思っているかはわからない。
彼女たちも客を騙すが、客も彼女たちを騙す。
そういう意味では、彼女たちに勝ち目はない。自分たちの2倍近く生きてきた経験に敵うわけがない。
だから、「女性経験が少なく、友達もいない。が、小金をそこそこ持っている」というお客さんが、彼女たちにとって一番のカモということになる。だが、そんなお客さんといても楽しくはない。話題はすべてこちらから用意しないと無言になってしまうし、店外デートにしてもコースを自分で考えないととんでもないところに連れて行かされてしまう。
サナが一緒にいて楽しいなって思うのは結局はどう理屈つけても遊び人だ。
女性の扱いに慣れているし、お店や遊びも豊富で、行ったことのないお店や、庶民のサナには一生縁のない遊びまで、経験できる。
サナはお客さんに恵まれているのか、紳士な人が多かった。危険な目にあったことは何度かあるが、それは自分の認識の甘さと常識知らずが招いた結果だ。
ほとんどの人は、楽しく飲んで、家まで送ってもらう…という感じで、肩をくまれたり手を握られたりはするが、それ以上は何もしてこない。
だが、やはりお客はお客だ。気を使うし、話す内容も気をつけないといけない。話題によっては怒ってしまうお客さんもいる。結局、お客さんが作り出した「マキ」というキラキラした遊び慣れたキャバ嬢、または純情な女の子を演じなければならなかった。
と言っても、いつもそんなに深く考えているわけではない。
なんとなく時間は過ぎていって、その波にそって流されている。ふと落ち込むとそんなことを考え、自分はなんてかわいそうなんだと慰めているだけだった。
その点、真田は楽だなって思う。
はっきり言って、何者かよくわからないし、しっかりした人なのかいい加減な人のか判断がつかない。ただひとつ言えるのは、向こうが失礼極まりない分、こちらもなんでも言える、なんでも話せるということだった。
日記の「さなやん」は、ユキの書いた文章を読む限りは、すごく優しい人だった。真田にはその優しさが微塵もないとも思うが、今の自分にとってそれはいいことかもしれないとも思う。
「あーあー。考えてもわからないからとりあえず飲みに行こう!」
サナは、そう呟くと池袋ではリカと真田と遭遇することを恐れてタクシーで新宿へむかった。
新宿の歌舞伎町は、有名な歓楽街のメッカでどんな人も受け入れてくれる街だ。駅周辺と反対側の西口はすっかり都会づいているが、ここ歌舞伎町はゴミゴミしていて人の欲望が乱れ飛んでいる。朝日が登らない限り、キラキラしたネオンが消えることなない。まさに眠らない街の称号にふさわしい。
真夜中でもやっている有名な寿司屋の前で、サナはタクシーを止め狭い路地にはいる。そこには、飲み屋や風営法を無視した風俗店の雑居ビルが犇めきあっている場所だ。その一角にある「ジャイアン」というバーのようなスナックのような店にサナは向かった。
もともと、サナが友達に案内されて知った店だが、その店名の由来は店主をみれば一発で理解できる。
「いらっしゃい。お、久々だね〜」
店主のジャイアンこと郷田は、サナを見て懐かしそうな顔をした。
これで、名前がたけしなら最高なのにとサナは思うがそれは違うらしい。
「お久しぶり〜。相変わらず暇な店ね〜」
「久しぶりにきて随分だな、元気かよ?」
郷田は、見た目が完全にかの有名漫画のジャイアンにそっくりだが声も似ている。郷田は、サナにカウンターを勧めるととりあえずビールというサナにツマミと生ビールを差し出した。
「もうすぐ、女の子たちくるからそれまでゆっくりしてけよ。」
と郷田は、奥に何かをつくりにいってしまった。郷田のいう女の子とは店のスタッフではなく、キャバ嬢や風俗嬢が店を終えて飲みにくる人たちのことだ。
その時間になると店は急にコミ出し、カラオケの音で店中が活気に溢れる。
時計をみたら、夜中の2時だった。
「あと一時間か…」
サナはとても今のテンションでは、これからやってくる彼女たちに合わせられないので少し飲んだらかえろうと心に決めた。




