やまちゃんの手紙
橘は、真田と別れたあと磯谷とともに、赤坂の事務所に戻った。
磯谷とともに行動するというのが最初かなり窮屈だとは思ったが、意外と2人は気があった。その話題のほとんどは、山本がらみのものだったが…。映画の話や音楽の話ではかなり話があう。事務所につくころにはすっかり友達になっていた。
狭い階段を登り、事務所にはいると橘は磯谷を奥の打ち合わせルームへと案内する。
橘は、磯谷にお茶を入れソファを勧める。
「しかし、橘さんの仕事ってよくわからんす!」
「うーん。本業はコピーライターやけど…それだけじゃまだ食えんから…。情報集めみたいなことをしとるんよ」
「へぇ〜」
磯谷はやはりよくわからないのか、生返事だった。橘は若干、苦笑しながら自分も橘の向かいのソファに座る。
「で?僕に護衛ってなんでなん?」
「自分もよくわからないっすよ。ただ、橘さんのそばにいて何かあったら逐一報告しろって…なんすかね、この任務!」
「へぇ…」
橘は生返事を返したが、内心は山本を疑った。これは…護衛より監視目的じゃないかと。だが、それもなにかの意図があることかもしれないと思い直し、とりあえず、山本からの手紙を見ることにした。
まるでなにかの報告書のようだった。
R.Eに伴う見解について
R.E.996型
現在確認されているR.Eの最新タイプと思われる。
既存タイプは主に、バクテリア有機化合物という認識が高いが996は電波及び電磁波、または信号に同化できると考えられる。詳細は不明。
R.Eの目的
IRMによる人々の支配。行動の制限。異教徒の確認。
TOTO
IRMの一員であることはほぼ確定。クラスは不明だが、上位であることは行動で把握できる。
バチカンと深いつながりがあり、同研究所で開発されたR.Eの使用を許可されている。
警察組織に内通者がいる模様。現在は日本の警察組織だけでは手が出せない。
真田慎介
詳細は別資料参照。R.Eの最初の被験者と考えられる。出生は偽造された可能性が高い。TOTOの関係者との情報もある。記憶を大きく書き換えられていると思われる。
ユキ
詳細は別資料参照。TOTOの組織メンバーの可能性が高かったが、情報に確定的なものが存在しない。ゼロの見解は、R.Eによって作られた人々の記憶の中だけで存在する架空の人物と仮定した。ゼロのメンバー内にもユキを確認するものはいたが、R.Eにより刷り込まれた可能性が高い。
推察
1970年から始まったとされるR.E計画は、インターネットの普及によりより現実的なものとなった。一部の支配層からなるIRMが、秘密裏に世界中にその被験者をつくっていると推測される。様々な職種の若い女性をターゲットに実験をおこない、それにまつわるモデルケースを莫大な情報量でつくりあげたと考えられる。全てを見渡す目を盤石とするために、HUMANブレインにまで侵入し脳波で人格まで操作すると考えられる。
TOTOは、東アジア統括と考えられ、5年前から香港、平壌、東京の順に拠点を移している。日本では主に大企業のOLと水商売の女性にターゲットを絞り情報収集にあたっていると推測される。
昨年、警視庁公安が開発したR.E.JによりTOTOの様々な情報入手と妨害に成功。ただ、TOTOは強大な組織に守られており未だ詳しい動きは把握できていない。
「これは…」
橘はひととり読むとまたしても混乱がはじまった。
真田のこともユキのことも敵として認識している節がある。
これは…慎重に行動しないと大変なことになる。橘は呑気にお茶を飲む磯谷を見ながらそう思わずにはいられなかった。