ダーリンらしき人
結局、サナは2人に付き合って店の近くのBARに行くことにした。
体は疲れきっていたが、ミナミとアミのお陰で植田のお説教は回避できたし心配事がなくなり心にゆとりができたからだ。
それに女の子と飲みに行くのが久しぶりで、それが一番の理由だったかもしれない。思えば最近はTOTOとばかり会っていたので、話し始めると新鮮だった。
「でも、今日のマキちゃんはいつもと違ったよ〜。なんかあったの?」
「うん!私も思った!今日は、あたしマキさんに惚れました!」
ミナミもアミも酒が入ると、それぞれサナを褒めだした。それが一番嫌だったのに〜とサナは言ったが、確かに今日の自分はおかしかったと自分でも思った。
「わかんないけど、変だった?」
「そりゃ誰でもそう思うしょ。いつもは自分の世界に閉じこもっているのに、やけに話しかけてくるし、みんなとも話してるし…あんなことするしさ!」
ミナミは若干目を見開いてサナに話しかける。だが、その理由をきかれても自分でもわからない。ただ、不思議といろいろなものが勝手に見えてきたり、自分でも思いがけないほどの台詞が口からでるし、行動にも起こせたのは確かだ。
アミもミナミにつづけて話す。
「あたし…あの時もう全部嫌になってたんですぅ。誰も助けてくれないって…。でもマキさんがきてくれてぇ、とっとと帰りやがれ!って啖呵きったときカッコよかったぁ!泣けたもん!」
(おいおい!江戸っ子じゃねぇよ!それにそこまで酷いこと言ってないし…)とサナは苦笑する。
「あたしも早くあれくらい言えるようになんないとぉって、思いましたぁ」
「はは、アミちゃん。あれを言えるのは店では、マキちゃんだけっだって〜」
ミナミは、すっかり酔っ払ったのかアミの肩を抱いて言う。完全なおっさんの酔っ払いと同じだ…とサナは思った。
「いやいや、あれはダメでしょう…」サナはそう反論する。
「ううん。さすがぁ、ナンバー入っている人は違うなぁって思ったぁ」
「そうだよ〜。みんなマキちゃんのこと怖がってるもんね」
「は?」
マキは耳を疑う。怖がってる?っと思わず聞き返した。自分にはそういう意識は微塵もない。むしろ、全然話さないから嫌われてるんだと思っていた。サナがそう言うとミナミはすかさず反論する。
「うける!だってナンバー1のユウコだって、マキちゃんには気を使ってるのよ。貴女のオーラは違うんだって」
「オーラって…そんなもんないよ〜。私は平民よ!」
「あたしもぉ、マキさんのオーラわかるなぁ…なんか嬢王さまみたいな。すごく綺麗なんだもん…ズルいし!」
サナはその言葉に絶句する。こんな平凡ちっくな嬢王さまなんているかって思わず突っ込む。だがこんな風に思われていたとは意外だった。多分にリップサービスもあるかもしれないが、ナンバー1のユウコにはむしろ、サナが邪魔しないように気をつかっていた。サナはこのむず痒い話題から逃れるため、女子は大好き恋話に話題をふった。
2人とも彼氏はいるようだった。ミナミの彼氏は、元お客さんだったようだ。もちろん今は店に呼ぶことはないらしい。サナはその彼の情報を聞き出そうとしたが、残念ながらサナは元客のミナミの彼のことは覚えてなかった。先月までは頻繁に通っていたらしいが…。
「で?で?マキちゃんの彼氏さんは?」
「超イケメンか、超お金持ちっしょ?」
やはりきたか…とサナは苦笑する。この2人は、私のことを何者と勘違いしているんだろうと若干ビビる。
サナはしばらく考えていたが、やはりあの男しか頭に浮かばなかった。
「今、私のダーリンらしき人はね。どこかにいっちゃたの。」
サナはわずかな微笑みをうかべながら2人にそう言った。