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サナがミナミの元へいくと、彼女は心配そうに話しかけてくる。


「忙しいところごめんね…杉原さん来たんだけど、マキちゃんの姿が見えなかったから、アミちゃんが自分から行くって…」


「え?大丈夫なの!?」


サナは心配そうに聞く。もともと新人では遊び慣れた男をかわすのは中々大変だし、ましてや嫌なお触り客では逃げるのも一苦労だろう…。


「なんか、スタッフにも小言言われて…やっぱりマキちゃんに手伝ってもらうのは気が引けるって…行っちゃったの。」


ミナミがそう言ってフロアを見る。サナもフロアを見わたす。今日は照明がいつもより明るいのですぐにアミという娘を見つけた。すでに、杉原というお客さんはアミの肩を抱いていてアミは窮屈そうに体を逃していた。


「ミナミちゃん、呼ばれたんでしょ?ここはいいから行って!」


サナがそう言うと、ミナミは頭を軽く下げ急足で待機室へ消えていった。

サナはフロアを見わたすが、黒服と呼ばれるスタッフは誰もアミの方を見ていなかった。(まぁ、見ても微妙だな…)サナはそう思う。ここは風俗ではないのでお触りは禁止だが、肩を抱く、手をつなぐなんていうのはザラにある。


だが、いい年をした男が嫌がっているとあからさまにわかる女の子にまとまりつくのは、なんとなく腹が立った。おそらくあの客は、アミが気弱なことを知っていてやっているのだろう。勿論、アミにも責任がないといえば嘘になるがサナも新人の頃は結構ひどい目にあっていたので彼女の気持ちは痛いほどわかった。


どこまでがいいのか、ダメなのか。どうやってかわせばいいのか、逃げればいいのか、お客に対して怒っていいのか…


最初は誰だって、どんな職業でもわからないのだ。


と、杉原の肩を抱いた手がだんだんと下に下がってきていた。


(あれは…ダメでしょ!!いこ!サナ!)突然、頭の中で声がする。「だよね!!」サナもその声の主に返す。(?)サナは一瞬、その声は誰だろうとも考えたが足が先に向かっていた。








「ミナミちゃんもいいけど、アミちゃんもいいんだよな…指名替えしようかな…」


「だ、ダメですよ。し、指名替えなんて…」


アミが杉原の元にヘルプにつくと、彼はすぐにアミの肩に手をまわしてきた。酒臭いのでかなり酔っているのはアミにもすぐわかる。


彼女は、スタッフに「ミナミさんのヘルプに、マキちゃんが付くって聞いてるけど…今、彼女はVIP席で相手をしているんだ…。悪いんだけど…」とつい先ほどそう頼まれていた。アミは誰かに変わって欲しかったがお触り客につきたい娘など皆無だ。

気弱な彼女は「はい…」というしかなかった。


アミをもう一つ悩ませていたのは、指名替えだった。別に決まりはないのだが、指名替えは基本御法度だ。ましてや自分のような新人がミナミの客をとったらどんないじめがあるかわからない…。テレビドラマにあるような女の戦いみたいのは本当のキャバの世界ではほとんどないが、新人のアミにはそのことさえ分からず怖かった。


仕方なく重い気持ちで席についた。(ミナミさん…はやく戻ってきて…)アミにはその願いしかない。ただ、店がかなり混んでいるのでそれはかなり微妙な状況だ。


席につくと案の定、杉原はアミに体を寄せてきた。ヘルプの娘に触ってくるのはかなり珍しいと、ミナミは言っていたが彼はその特殊なケースのようだ。アミも、この夜の世界に入るにあたり覚悟はしてきたのだがこのお客さんは胸も触ろうとする。


「指名替えしたら、毎日通うからさぁ…」


杉原はそう言って、肩にかけた手をすこしずつ下に降ろしてきた。触らせてくれたら指名替えしてやると言わんばかりだった。

気弱なアミは何も言えなかった。目に涙がたまってくる。なにも言えない自分にも、なにも出来ない自分に悔しくなった…

(みんなどうしてるの?どうしたらいいの?)アミは小さく周りをみる。だが、誰一人アミに気づいているスタッフも嬢もいなかった。


(誰か…)


アミは目をつむり祈るように心で叫ぶ。




ドン!!



大きな音がした。驚いた杉原が反射的にアミから体を離した。アミも驚いて目をあける。


そこには…赤いドレス着た…サナが立っていた。

小柄な彼女がやけに大きく見える。



表情はにこやかだが目が笑っていない。杉原はあっけにとられて固まっている。(綺麗な人の怒った顔ってこわい…)アミは改めてそう思った。大きな音はサナがバッグを机の上に落とした…というより叩きつけた音だった。


「あら、ごめんなさいね。バッグを落としてしまったわ」


「…び、びっくりするじゃないか!!」


杉原はそう文句を言うのがやっとだった。サナはその声を無視してゆっくり席につくと、にっこりすると「お邪魔しますね。マキといいます。よろしくお願いします」と言い、アミにむかって目配せで待機室に戻れと合図した。

アミは慌ててバッグを持ち、一礼して席を後にした。


「き、君は確か上位の娘だったよな…なんでヘルプなんかくるんだ」杉原はマキの顔を見て言う。おそらく本指のミナミから教えてもらったか、店の女の子を全部チェックしているかのどちらかだろう。


「誰かと勘違いされていませんか?。私はペーペーです。」


「いや…そんなはずは…」


杉原は訝しんでマキを見る。本指名しているミナミにも聞いたことがあるし、ないより杉原は根っからの遊び人だけあって、キャバ嬢には目が肥えている。(この女は…絶対ナンバーに入っている…)直感的にそう思った。

だが、逆にヘルプとはいえこんな綺麗な娘と話すのもいいことだと杉原は思い直し彼女を改めてしっかりと見た。


全身からキラキラしてものが見える…杉原にはそう感じた。彼女はテレビとか雑誌でしか見ることのできないほどの可愛い顔と美しい肌をしていた。


「どうかしましたか?」


「いや、君みたいな綺麗な娘ってほんとにいるんだな…っと思って」


「あら、さっきは怒ってらしたのに、さっそく褒めていただいてありがとう」


サナはそう言って作り笑いで返す。やはり目は笑っていない。

杉原はサナには、なぜか近づけなかった。もちろん初対面ということもあるがこの小柄な娘にはなにかオーラのようなものを感じる。杉原の本能アラームがこの女には、ダメだと告げていた。


「…さっきのバッグを落としたのは、ワザとなんだろ?」


杉原は、容姿の話題はやめ先ほどの件を蒸し返した。なにか隙のないマキを責め立ててやりたいと思っていた。(アミの胸を触ろうとしているところを見て助けにでもきたんだろう…)彼は彼女が来た理由をそう思っていた。


「なぜ、そう思われるんですか?」


「新人キャバ嬢にイチャイチャ手を出していたのが気にいらなかったんだろう?だが、俺はなにもしてないぞ。今更、肩をだくのもダメとかいわないだろ?」


(胸、さわろうとしただろ)サナは心でそう思ったが


「あら、でも私にしてくださらないんですね?私も同じヘルプですよ?」


サナはそう言うと、杉原に体をむけた。

杉原は少し驚いたが、急に満足そうな顔になる。(なんだ、簡単じゃないか…)綺麗すぎる女は逆に男が寄ってこないから、寂しいのだろうと思い直した。そして先ほどからドレスから覗いているサナの綺麗な足が気になりだし杉原は、不自然にサナの足に手を伸ばした。

だが、サナはその手を上から押さえつける。杉原は「いてっ!と言ったが」サナはその声をまったく無視して


「ここはね、そういうお店じゃないの。」


と言った。杉原が驚いてサナの顔をまた見る。彼女の顔は、無表情だがそれが杉原にとってはなにより怖く感じる。


(こいつ…なんだよ)


「モノには限度があるってことよ?ましてや、あからさまに嫌がっている女の子に手を出すなんてとても大人のやることとは思えないわ」


ドン!!


と、またバッグを机に叩きつけた。杉原は固まってしまっている。


と、サナはすっと立ち上がる。そして、近くのスタッフに「お客様のお帰りです。私がお見送りしますわ」と言った。


「な…、おれは帰るなんて言ってないぞ!と、いうかその態度はなんだ!?客にむかって!!」


杉原がついに立ち上がって大声をだした。店中がサナと杉原に注目する。当然、あの2人もそこを見た。


「お客様…お客様は今日は飲みすぎ。紳士が台無しですよ。今日はもうお帰りになられた方がいいと思います。」


サナはにっこり笑うと杉原にそう言い、店の入り口の方へとスタスタと歩き出した。

杉原は、「おい!待て!客にむかって…」とサナの肩をつかもうとする…が杉原の手は、急に横から出てきたステッキに打ち付けられた。杉原は、あまりの痛さに床に転がり込む。


「ほほほ、女の子に手を出すとはけしからん奴じゃの…」


TOTOだった。サナもその声を聞いて振り返る。TOTOはステッキの先を杉原に向けている。


「じじい!なにすんじゃ!!」


杉原はそう叫ぶと、打たれた右手を押さえながら今度はTOTOに殴りかかろうとする。だがその前に近藤が立ちふさがった。近藤は軽々と杉原を投げ飛ばした。倒れた杉原はその姿をみると、急にあとずさる。



「こ、近藤さん…」


「杉原…お前はついてる。俺がいてな。」


近藤がドスのきいた声で言う。立ちふさがった近藤は、杉原を見下ろしている。杉原は震えながら「え…いや…誰…なんですか?」とTOTOを見上げながら近藤に聞く。


「この紳士はお前が名前を聞いちゃいかん上の上の方だ。安心しろ、もう会うこともない。すぐに金を払って消えることを勧めるよ。」


近藤がそう言うと杉原は、おろおろと立ち上がた。と、マキが涼しい顔で立っている。


「だいたいお前が…」杉原はそう漏らして文句を言う。と、すぐに近藤が口を挟んだ。


「一応、言っておくがマキさんに指一本でもふれたら、この俺を殴ったのと一緒だと思ってくれて構わんよ…」


杉原は「ひっ」と反射的に声を出した。そしてゆっくり店を見渡すと全員が自分を睨んでいるようみえて彼はすっかり意気消沈してしまった。


サナは、すっと杉原に手を差し出した。


「私でよければ、出口までご一緒しますわ」


「いや、そんな…」


サナは、沈んだ杉原の手をとる。彼は、ただ無言でそれに従った。


「今日は、大変失礼したので私が奢ります。」


「そんなわけには…」


「いいのよ。それより来づらいと思うけどほとぼりが冷めたらまた来てくださいね…ミナミさんもきっと心配してるから」


サナはその可能性は低いだろうが…と思った。なんとなく頭にきたから口をだしたが、完全にやってしまった。あとでミナミに土下座して植田のメガトンパンチも受けなくてはならないだろう…後悔はしていないが気が重い…。調子に乗りすぎた…。


杉原を見送り受付に戻るとミナミがいた。表情は複雑そうだ。サナは、深く頭をさげて「ごめんなさい…」言った。だが、ミナミは急に優しい表情になり、親指をあげた。そして「みんながフロアでお待ちよ」と言った。



サナが「?」となりながらフロアに戻ると、スタッフ、嬢、お客さんに拍手で迎えられた。


































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