表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/190

トランクルーム


真田は、会社にしばらく出社しない旨を連絡をした後、自分のトランクルームにきていた。


そこにはプライベートの荷物と会社の書類が収めてある。真田が探していたのは携帯電話だ。真田自身は覚えていなかったが、携帯電話の契約書を調べると去年の5月に真田は携帯を買い換えていた形跡があった。

当てがあるわけではなかった。完全なカンだ。


元カノのゆうちに、「さなやん」と言われ真田はその晩、彼女に電話をして真意を確かめた。ゆうちは…ずっと真田のことを「さなやん」と呼んでいたと逆に不思議そうに答えていた。

一瞬、もし自分がさなやんなら、ゆうちがユキなんじゃないかと思ったがそれはどう考えてもない。彼女のことは鮮明に覚えていたし、なにより水商売に全く縁のない。


それにしても…


真田はユキのことを全く知らない。山本の話では、さなやんとユキは記憶を消されたと言っていた。だから、自分は何も覚えて居ないのだろうか…と考えるしかなかったが実感はわかなかった。


去年の記憶を真剣に考えてみるが…仕事が異様に忙しかったのは覚えている。3月も相当忙しかったはずだが、だが確かにそこに明確な記憶はなかった。


しばらく、様々な引き出しや段ボールをひっくり返し携帯電話を探していたが、残念ながら見つからなかった。

(やはり、ないか…)これであったら、出来過ぎかと思うのも確かだが。だが、見たこともないモノが多いなとも思う。


特に服が多い。あまり着てないのかシャツやジャケットがクリーニングから戻ってきたままで残っていた。真田があまり着そうもない明るい色のものもある。


(こんなの自分では絶対買わないけどな…)


真田は苦笑してあたりを見回す。と、そこに紛れて茶色の紙袋があった。真田は何気にその包み紙を手に取ると中を確認する。


「なんだ、これ…!!?」


そこにはくしゃくしゃになった血まみれの白いシャツとよごれたジャケットが入っていた。真田はそのジャケットを驚きながら手にとると…重みがある。彼はポケットを手で探る。胸のあたりにある内ポケットに手応えを感じ、そっとそこから中にはいっているものを取り出した。


それは、画面が割れている古い型のiPhoneだった。


真田は震える手で電源をいれてみたが、やはりiPhoneは動かない。


(壊れているのかな…)


一応、カバンにいれてあった携帯用充電器で充電を試みたが、画面に電池マークさえ表示されなかった。

橘のところにいけば、なんとかなるかも知れないが真田はその気は起きなかった。今は、さなやんが自分だという証がほしい。それまでは、知り合いに会うのは危険だと思っていた。


サナに会いたい…


とも思うが、自分が本当にさなやんで、ユキのことを思い出したら彼女のことはどう思うのかそれも怖い。むしろ、いろいろ話を聞く限り自分がユキを思い出したら、全てを捨てて彼女に会いにいくだろう。




真田はその携帯を、手にとって目を閉じた。




気を落ち着かせ、考える。なにか思い出すだろうか…と。


サナと知り合ってからのことをもう一度強く頭に浮かべる。


とりあえず、違和感のあった場所…



キャバクラ「エレメント」。


なぜ自分は去年の暮れにソコに行った?


キャバクラなんてプライベートで行くことは少ないのになぜ…?


無意識でその場所に足が向いた…


なにも考えずにそこにいくのは、自分は行ったことがあったから…?


ガヤガヤ賑やかな店内……真っ赤なドレスの女とラインを交換している…?


見送られている自分…赤いドレスの女は自分に抱きついている…?



マクドナルドの前…


以前、サナとそこに立った時なにか胸騒ぎがした。


そう、交番の警官にマクドナルドの4階のことをサナと一緒に聞きにいったときだ


自分は…その場所に強い想いがあった…?


真夜中のふくろう交番前…iPhoneで音楽を聴きながら誰かを待ってた…?


何度も何度も顔をあげて、誰かを待っていた…?


黒いコートをきた美しい女性…?




新宿の水槽のあるBAR …


真田はそこで涙を流した。サナの誕生日に寄った店だ


サナとカップル席に座って、水槽を眺めていたら勝手に涙が溢れてきた。


真っ黒な店内…水槽の光に照らされた可愛い女の子の笑顔…?


つつきあったり、くすぐりあったり、笑ったり、怒ったり、キスしたり…


バーニャカウダー、ワイン、ローストビーフ…





確かに自分はそこにいた…


自然と笑みがこぼれる…


いつも元気づけられた…


人気者の彼女…


嫉妬するたび…


馬鹿って笑う彼女…


世界中を旅する約束…


フランスに行く計画…


新宿の夜を2人で歩きまくった…


いろいろな場所に案内してくれた彼女…


さなやん…さなやん…と甘える彼女…






ユキは…確かにそこにいた。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ