10のメール
「ん、ん、ん?」
サナは、ふと目が覚めた。頭が重く激しく痛い…。若干だが吐き気がする。(ここは…どこ…)サナは、ぼんやりと周りをみる。台形の窓から夜の街が流れている。どうやら車の中のようだ。トントンと音がして
「気がついたようじゃの…ほほほ」
と、TOTOの声がした。サナはびっくりして顔を上げようとしたが、頭痛で動けなかった。(完全な酒の飲み過ぎだ…)サナはそう思って記憶を辿る…。
確か、フミさんとBARにいって焼酎のロックをしこたま飲まされたのは覚えていた…が、その後の記憶がない…。
「…ごめん、TOTOさん…わたし…なんで?」
自分でも意味不明な言葉が口からでた。TOTOは、サナの方を向かないで
「ほほほ、なにもなかったわい。もう大丈夫じゃ。家に帰ろう」とだけ言った。
サナは事情はよくわからなかったが、とりあえずTOTOがいるなら安心だと思い、力を抜いた。(昨日…なのかな…なにがあったんだろ…)サナはどうしても思い出せないでいた。
やがて、車はサナのマンションに着いた。TOTOは運転手のガタイのいい男にサナを部屋まで運ばせると、自分はサナとともに部屋に残った。
サナはリビングのソファに倒れこむ。TOTOは持ってきたミネラルウォーターをサナに手渡しながら、
「サナちゃんや…お酒もほどほどにせんとな…。もっと自分を大切にせねばいかんぞ…」と、サナの頭を撫でながら言う。TOTOの顔はいつもと違って険しかった。サナは、そのセリフを聞いた時、なぜか自然と涙がこぼれた。
「TOTOさん…ごめんなさい…」
サナがそう言うと、TOTOは普段の笑みに戻った。
「TOTOさん…わたし…」
「もうええんじゃ、今日はゆっくりお休みなさい…」
TOTOはそう言うとゆっくりと立ち上がり部屋から出て行こうとする。だが、サナはTOTOの袖をつかんで止めた。
「やだよ、行かないでよ…」
サナは涙まじりに、TOTOに訴えた。TOTOはなにも言わずにそこに再びしゃがんだ。
「大丈夫じゃ…サナちゃんが寝るまでここにおる…」
TOTOはそう言うとまた笑顔でサナをみる。
「わたしね…わたしね…ダメな子なんだ…。寂しくて寂しくてしょうがないのに…すぐ意地はって…」
TOTOはなにも言わずにサナを見ている。
「今日もね…捨てたものを拾い集めて…いい気になって…バカみたい…」
「サナちゃんや…」
TOTOはため息をついてサナに微笑む。
「自分を見失ってはいかんぞ…でないと…本当に大切なものまで見えんようになってしまう…どうでもいいモノはすぐに取り返せるが…大切なものは…二度と取り返せないものばかりじゃ…」
サナはそれを聞いて、どっと涙がこぼれた。そして慌ててバッグから携帯を取り出す。震える手と頭痛がサナの邪魔をする。
メールの着信をみる。彼からのメールは10件もあった。
「昨日は電話、ごめんな。いろいろあって…今日会えるかな?」
「あ、昨日のこと怒ってるよな…ごめんな。」
「今日な。サナの好きなチョコが手に入ったんだ。もってく!」
「今日も寒いな。仕事行くときは暖かいカッコでいくんだぞ」
「約束やぶったことになるもんな…本当にごめん」
「もう店についたかな?仕事がんばれよ!」
「会ってくれるかわかんないけど、池袋にいるから」
「今日は漫画喫茶が混んでてはいれないw外で待ってるな!」
「今日は何時に終わるかな…」
「さっちゃん、ごめんな…」
サナは目を疑った。昨日は連絡がこなかったので、真田もへそを曲げてると思っていた。サナは、軽い気持ちで今日はシカトしてやろうくらいだったが、真田になにかあったようだった。
あわてて、サナは電話をかけた。
だが…電話は繋がらなかった。