みんなが…
TOTOは結局夜中の1時ごろにサナの部屋を後にした。
サナは、TOTOを見送る時になんとも不思議な気分だった。彼は身なりはちゃんとしていたが、足を痛めてるせいもあってか動きが危なかっしい。下まで送ろうとしたがそれはTOTOに丁重に断られていた。
サナはベランダに出て、TOTOの様子を見る。ちょうどお迎えの車がきていたらしく彼はその車に乗り込み、明治通りへと消えていった。
サナは見慣れた風景を見直す。遠く新宿のビルの光まで見える。
なにかいろいろなことがありすぎた1日だったと、思い返した。
なじみのお客さんとの別れ、TOTOの意外な話…それもあるが今日は夕方まで真田と泊まりで出かけて帰ってきたのだ。「私も結構忙しいんだな…」とふと可笑しくなった。
部屋にはいり、しばらく見ていなかったスマホを手に取る。メールをチェックするが、やはり真田からは来ていない。そのかわりに、ストーカー男の斉藤からメールが入っていてドキっとした。
「なんだろう…」
サナはメールの内容をみるのが怖かったが、思いきって見てみることにした。
玄関の方を少し気にしながら…
「この前はすいません。でもほんとに時計を渡しにいきたかっただけで。でもごめんさい」
サナは、暫くその文章を見つめていた。事件からわずか3日だ。正直、まだあの恐怖からは全然といっていいほど、立ち直ってはいなかったが、警察に突き出せれかねないこの状況で、このメールを送ってくる根性は大したもんだと変に感心する。
返事を返そうか迷ったが、手は動かなかった。返事をしないとまた家に来るかもしれないという恐怖と、したらしたでまた自分が付け回されるのではないかとう恐怖が戦っていた。
サナは、誰かに相談することにした。自然と番号を押したのは、真田だった。
だが、彼は出なかった。電話が留守番サービスにつながるとサナは静かに電話を切る。(役立たず…)そんなフレーズが頭をよぎる。サナはしばらく連絡をしていないお客さんの中で、独身のフミさんという男に電話をかけた。
「おお、マキちゃん!お久しぶり!」
彼は元気に電話に出た。サナは、お久しぶりね、と言うとしばらく近況報告を兼ねて世間話をした。しばらくしてストーカーの話をすると、フミはすごく心配してくれた。(相変わらず優しいなぁ…)サナは何故だがすごく嬉しくなったが、フミもかつて、ストーカー一歩手前までいったお客さんだ。
サナは、その時はうまく切り抜けたのだがあれから結構たっている。フミは初めて店に来てくれた時のように優しかった。
「あのね、私、お店変わったから。池袋のエレメントっていうお店なの。」
フミはサナの一つ前のキャバクラの客だった。
「おお、そうか!じゃ、明日行こうかな…。久しぶりに会いたし!」
「うん。きてきて!何時頃これそう?」
サナは素直に嬉しかった。自分が電話をかければすぐに会いにきてくれる人がいることが。サナはその後少し話して電話を切った。
「ふう…」
サナは満足そうに息をつく。よし、このままの勢いだと彼女はラインのタイムラインに「ストーカーに会って怖かった」という文章を乗せた。しばらくすると様々な人から、ラインやメール、そして電話がかかってくる。
みんなが心配してくれていた。
みんなが会いに来てくれると言ってくれる。
あっという間に、来週一週間の予定が埋まる…。
サナは手帳にその全てを書き込むと、安心したようにその場で寝てしまっていた。