状況次第
サナはその話を聞いて、とても疑問に思うことがあった。
これでは、やっていることが本末転倒だ。
「それができるなら…素直に2人を最初からフランスにやればいいんじゃない?」
サナは素朴な疑問を投げかけた。TOTOはまた軽く笑って、サナに答える。
「サナちゃんはワシを黒幕みたいに思っているようじゃが、それは違う…。ただ、一番最前線にいるでの…いろんなことはできるが…。ワシとて上から命令されてやっとるだけじゃ…」
「え?…そうなの?」
「こんなな…残酷なこと…自らの意思ではできんわい…。言っておくが、ユキとさなやんの話は特別じゃ。普通は、キャバ嬢と客のように女が男を捨てて去っていくからの…なんの問題もおこらん。しかも残された男とて、わしのBARのまわりをうろつくことしかせん…。そもそも思いが軽いのじゃ。」
TOTOは、杖でポンポンと床をたたく。その思いが軽いのはTOTOにとっては不愉快らしかった。サナはその様子がおかしくてすこし微笑む。
「ユキとさなやんの様な事態は、想定はしていたが結果としてわしのところでどうにでもなる問題だった。だからわしは、独断であの2人を再び会わすことにしたのじゃ…ユキがかわいそうでの…。だがあの2人は約束を破ってしまった。約束を破ったのはユキの方だったが…」
「なんの約束を破ったの?」サナは恐る恐る聞いた。
「会う直前に、それまで我慢していたメールをユキがさなやんに送ってしまったのじゃ…まぁそれもワシが悪い…。会う時まで秘密にしておけば良かった…」
TOTOは残念そうに下を向いた。そして続ける。
「そのメールを見て、上は2人が会おうとしていることを知った…。それは瞬時にわかるからの…。」
「その(上)って、いちいち腹がたつわね!」
「ほほほ、それは言いっこなしじゃ…それでの…その2人はその後会ってすぐに攫われた。それからのことはワシにもわからん…」
TOTOの言葉にサナは静かに頷いた。
サナ自身も前から思っていたが、このTOTOという男がどうしても悪人にはおもえなかった。それは、今日のことでもよくわかる。
しかし、TOTOの後ろにいる黒幕だけはどうにも我慢ならなかった。
もちろん、離れ離れでいいという男女ならそれでもいい。だが離れたくない2人なら一緒にいさせればいのにとサナは思った。
だいたい離れ離れにすることに何の意味があるのかさえよくわからなかった。
「じゃ…TOTOさん。私と真田さんも…一緒に居たいと言ったら手伝ってくれるの?」
TOTOは、口に手をあててしばらく考えていたが
「それは状況次第じゃ…。じゃが、ワシも上に監視されてるでの…でたとこ勝負じゃ…」
と答えることしかできなかった。