経験者?
次の日、サナと真田は旅館から出ると、近くのスポーツ施設に向かった。
以前から、運動不足解消のためにとテニスでもやろうという話になっていた。2人とも運動神経だけには自信があったからだ。昨日の夜は、少し微妙な空気になっていた2人だったが、朝目覚めるといつもの感じになっていた。
「しんちゃんは、テニスしたこととあるの?」
「いや…遊びレベルかな…」
「不安だわ…」
サナは、真田から軽く教わろうぐらいに考えていたので一気に不安に襲われる。素人同士のテニスって面白いのかと…真田はのんきに「なんとかなるだろう」と言っていたがサナにはどうも信じられなかった。
箱根の山の中腹にそのスポーツ施設はあった。2人は、早速そこでテニス道具一式をレンタルしてコートへ向かう。緑と山々の大自然に囲まれた場所で、環境は最高だった。いつも都会で生きている2人には新鮮そのものである。天気も良く、すこし動けばもう暑くなるというある意味この時期としてはいい陽気だ。
「よし!さっちゃんいくよーー!」
「はーーい」
真田がボールを入れる。と言ってもかなり山なりのゆったりした軌道でサナの元へ飛んでいく。サナは、そのボールを打ち返す…と、奇跡的にそれは真田のコートへ帰ってきた。(お、これはできんじゃね)2人はそれだけでそう思った。
が…
10分後、ふたりはそれぞれのコートで座り込んだ。
「こりゃ無理だ。3回くらいしかラリーが続かないのは辛い…」
「だね。球拾いしてる時間の方が長いよー」
ふたりは、仕方なく先ほどテニス用具一式を借りた施設の戻った。そこには、テニス教室と書かれた看板があったからだ。
真田とサナは恥を忍んで、受付に向かう。申し込み用紙に記入し、初級編を選び先生に習うことにした。
「やっぱ、テニスの先生といえば爽やかイケメンだよね?」
サナはワクワクして真田に言う。真田は、
「いやいや、シャラポアみたいな金髪ミニスカ美女だろー」
と返す。2人はそのことで10分くらい言い合いしていたが、来たのは結局、若い男の先生だった。
「よろしくお願いします!」
2人は元気に先生に挨拶する。先生は笑いながら、ラリーくらいはできるようになりますよと言った。サナは信じていなかったが…
先生は最初、2人のあまりな素人っぷりに苦笑いしていたが段々とレベルを上げる。ほとんど素振りと先生が近くでボールをあげてそれを打ち込むという単純なものだったが、その途中先生は「?」と思い始めていた。
男の方…真田だがスウィングスピードが異様に早い。
しかも手首が柔らかく、段々とどんな球にも反応できるようになったのだ。
「しんちゃん、すごいね…」
サナも驚きの表情で真田を見る。真田はすこしドヤ顔をしていたが、そんなたいしたことだとは思えなかった。
「ちょっとラリーしてみますか?」
先生は、そう言いコート反対面に移動する。真田は、ゆっくりと構える。
「いきますよ!」先生のサーブではじまったが、真田は右、左と冷静にボールを返す。5球ラリーが続いた時、先生が急にスピードをつけたスマッシュを返した。サナはその瞬間、「先生もおじさん相手に大人げないなぁ」と思ったが真田はそれを綺麗に返した。
やがてラリーが終わり、先生が真田のもとへ戻ってくる。
勿論、ずぶの素人が先生に敵うはずもなかったが、先生は真田の前に立つとこういった。
「あなた、前にテニスしてましたか?または剣道とか?」