恐ろしいぞ 山ちゃん
「そういえば…この前なんやけど、ユキとさなやんをしっとるゆう女に会ったで」
山本が珍しく固まっていたので、橘は話題を変えてそう言った。山本はその言葉には大きく反応した。
「どこでですか?」
「新宿のラウンジ。雪っいうホステスですわ。その娘…ユキの日記というんを持ってましたわ」
橘のその言葉に山本は少し焦っていた。「それは危ないですね…」山本はそう呟き話を続ける。
「その娘があちら側ならいいですけど…もしただの一般人なら大変だ。攫われてしまうでしょう。」
「なんやて!?」
「まぁ、まだ大丈夫です。こちらが早く動けばいいだけですから…。1週間がリミットです。来週早々、私の部下に行かせましょう。」
山本はそう言うと、また酒を頼む。今日はよく飲むなぁと橘は思っていた。
「それは、日記を持ってるというんが危ないん?」
「そうです。」
山本はキッパリ答える。そして日記についても山本は話し始めた。
「日記は、ユキとさなやん、2人のものがある。だがそのオリジナルはなぜか今は行方不明だ。前は、敵さんが持っていたが…今はないらしい。だから、敵さんはR.Eを使って偽の日記を作った。」
「!?…いったい何のために?」
「これを言うと確信に触れてしまうから言いたくはないんだけど…」
驚く橘の前で真田はまた、口に手を当てる。もうそれはいいやんと橘は笑う。
「もともとR.Eは人の気持ちを測るために作られたモノだ。それはなんとなくわかってるだろう?」
「おお、知っとる。わからんのは使い道と仕組みだけやけだ。」
「実は、R.Eにとって日記はやっかいなものでね…日記は一人で書くということ、他人が見る機会がないモノだということ。つまりコミュニケーションの場にあまり出てこない。だがそこには人の心の奥底が眠っている。ブログとかとは違うよ。あれは元々他人に見せるためのものだから。」
「それがなんで厄介なものなん?」
「理由は良くわかっていない。だが、私はこう認識している。R.Eは脳の中に行こうとしている。今はまだまだだが…。その手始めに個人の日記で実験してみたんだ。つまり、人が普通に書く日記とその人物の情報を集めてR.Eで作った日記との整合性だ。」
「ほう…」
「先に言っておくと、R.Eの行動性についてはほとんど完成していると言っていい。今あるビッグデータだけでも可能だからね。だが、人の心というものは様々な状況が複雑に絡み合って答えを出す。だが、その答えもちょっとしたことで変わってしまう。例えば結論を出す5分前にかかってきた電話の相手とかにもね。」
「それと日記とどんな関係が…」
「うん。つまり、彼らは日記という誰も入ってこないプレーンな状態で実験をしたかったんだ。要は、ゼロの状態に近い人の心からね。そこで、今回の件で言うと、ユキとさなやんという2人がたまたま日記を書いていたことを知り、2つの実験を行った。」
橘はごくりと唾を飲み込む。山本はそのまま続けた。
「だが、どうしてもR.Eが出した結論と実際の日記の結論が合わなかったんだ。これはあの2人だけじゃなくてね。」
橘は、しばらく考えていたが、いつの間にか煙にまかれたことに気がつく。山本はそれに気づいたのか顔を曇らした。
「山本くん。で、なぜ彼らはR.Eで偽の日記を作ったん?」
山本は、しばらく無言だったがその後、恐ろしいことを口にした。