ドヤ顏
サナを乗せた車は、前と同じで首都高の地下をずっと進んでいた。
サナはしばらく、TOTOと雑談をしていた。契約…というのがなかったらこのおじいちゃんは本当に優しくていい人だとサナは感じていた。
「TOTOさんて、割といい人ね」
「ほほほ、では気をつけねばなりませんぞ。いい人に見えるほど、怪しいというからの」
「大丈夫!!TOTOさんは私の周りで一番怪しいから!」
TOTOは思わず爆笑してしまった。息が苦しそうだ。サナは(大丈夫?)と背中に手をやり摩った。TOTOは大丈夫じゃといいながらも目は涙目だ。
「こんなに笑ったのは一年ぶりじゃ…」
TOTOはまだ笑いをこらえながらそう言った。
と、車が急にガタガタ揺れた。サナは、ん?と周りをみるとスロープがあり、車は何か大きなものの中に入っていくようだった。
「TOTOさん、これは何?」
「ふむ。船じゃ」
車は、その船の中に吸い込まれ、やがて止まった。
「さぁ、おいしいお酒を飲みにいこうか」
TOTOはそういうとサナを車から連れ出す。サナは周りを見渡すとそれはそれは大きな船だと感じた。カンカンカンと船らしい音がして、潮の香りも感じられここが海の上だということがわかる。
TOTOは、サナの手をひきエレベーターへと向かう。そこでも偶然なのか押した階数は4Fだった。
「サナさんや、今日はメールをせんでいいのか?申し訳ないが、この先は携帯の電波はつかえんぞ」
サナは、「え?そうなん?」と急いで携帯を取り出し、真田にメールを送った。
「いま、船の上で無事。終わったら連絡するね」
TOTOは前回通りそのメールを気にしてる様子がなかった。
やがてエレベーターは、4階についた。
ドアが開くと、前回同様素晴らしい光景のBARがあった。というよりデザインがほぼ一緒だった。
「ごほん。TOTOバーは世界中にいくつもあるが、デザインはほぼ一緒のつくりなのじゃ。」
TOTOは自慢げにいう。サナはまたクスっと笑い
「TOTOさん、またドヤ顏してるよ」
と言った。TOTOはちょっと渋い顔をしながら
「これ、年寄りをからかうもんじゃないぞ」と笑った。
TOTOは前と同じように、サナをバーカウンターに案内した。
だが、今日は若いバーテンダーがいてその人がサナのウィスキーを作ってくれるようだった。TOTOは
「このお姫様に、例のものを。わしは、お茶でいい」
とバーテンダーに伝える。サナは「お茶?」と驚いた。TOTOはまたほほほっと笑い
「ワシはバーテンダーじゃが、酒は飲めんのじゃ」と言った。
サナはそれをきいて思わず笑う。
「飲めなくてもできるの?」
「ようは真心があればいいのじゃ」
とTOTOは言う。やがて、サナとTOTOの前にグラスが置かれた。サナは、わぁありがとう!と言いながら早速、口をつける。
「う〜ん、TOTOさんが入れてくれたほうが美味しかった…」
というとTOTOが笑った。前にいた若いバーテンダーはニコリとして
「あたりまえです。この方は伝説のバーテンダーなんですよ」
と、さらりと言った。サナは、ヘェ〜とTOTOをみると、また彼はドヤ顔でサナを見つめ返していた。